From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (210)
第210話 効率の悪い魔法
「やったね悠真。たぶん白のダンジョンにいる上位天使を倒したのは、悠真が初めてだと思うよ」
「そうなのか?」
ルイの言葉に驚きつつ、悠真は持っていたハンマーの『液体金属』を解除し、通常のピッケルへ戻した。
辺りに散らばった砂を見つめ、取りあえず息をつく。
「確かに強かったけど、”赤のオーガ”や”エンシェント・ドラゴン”ほどじゃなかったと思うぞ」
「普通の
探索者
だと、あの”光の障壁”は突破できないよ。君の力があったからだ」
ルイが右手の拳を突き出してきたので、悠真は左の拳を合わせた。二人で頬を緩め喜び合う。
なんとか白のダンジョンを攻略することができた。
ホッとした時、すぐ近くから声が飛んでくる。
「あー無い無い! 無いで、どこにも無い!」
明人がしゃがみ込んで砂を掻き分けていた。ルイが近づき声をかける。
「魔宝石を探してるの?」
「ああ、無いみたいやな。白のダンジョンは辛いで~。普通のダンジョンなら、ラスボス倒してドロップせえへんなんて、まずないからな」
明人はパンパンと手の砂を払い、うんしょと言って立ち上がる。白のダンジョンのドロップ率は低いと聞いていたが、ここまでとは思っていなかった。
「最下層まで百匹ほど魔物を倒したけど、魔宝石は一つも落ちてないよな。これって普通なのか?」
悠真が疑問を口にする。白のダンジョンに入ったのは初めてのため、これが通常の『白のダンジョン』と同じなのか判断できなかった。
「う~ん、エルシードでも年間にマナ指数4000ぐらいの宝石しか集められないって聞くし、魔物を百匹倒してもドロップしないことはあると思うよ」
ルイの話に明人も頷く。
「ファメールでも一年かけてマナ指数2000ほどの魔宝石が限界って聞いとるな。他のダンジョンの数十分の一か、それ以下のドロップ率やろ」
そんなに厳しいのか、と悠真は喉を鳴らす。
北海道にある『白のダンジョン』に行こうとした時、アイシャが非効率だと言った意味が分かった。
「じゃあ、インドにある16000の魔宝石って……」
「まあ、数年がかりで集めたもんやろな。ありがたい話やで、いま売るとなったら、数千億から一兆ぐらいするんとちゃうか?」
「一兆!?」
悠真は気が遠くなった。高い高いとは聞いていたが、そんな値段とは思っていなかった。以前よりさらに価格が跳ね上がってるみたいだ。
悠真たちが話をしていると、離れた場所からラフマッドがやって来る。
怪我をしているようで、足を引きずっていた。
「アンタたち! ありがとよ。これでこのダンジョンは完全攻略だ!」
ラフマッドは満面の笑みを浮かべ、手を差し出してくる。悠真と握手を交わすと、その手の硬さに驚く。
「いや、凄いな。本当に手が鉄みたいだ。こんな魔法は見たことがない」
金属化した悠真の体を、ラフマッドは興味深そうに眺める。
「ラフマッドさん、足の怪我は大丈夫ですか?」
悠真が尋ねると、「ああ、こんなのは大したことないよ」とラフマッドは意に介さず、豪快に笑った。
「それより二十四時間以内にダンジョンが崩壊するからな。ここから早く出よう」
ラフマッドが行こうとしたので、悠真は「ちょっと待って下さい」と呼び止める。
「ん? どうした」
「いえ、上まで歩かなきゃいけないんで、治した方がいいと思って」
「治す? この足をか? だがここには
救世主
はいないからな。外に出てから病院に行くよ」
明るくラフマッドは言ったが、
「大丈夫ですよ。俺がやりますから」
「え?」
悠真は腰を落とし、ラフマッドの右足に手をかざす。すぐに手から淡い光が漏れ、足の傷を治していく。
その光景に、ラフマッドやインドネシアの
探索者
たちは驚愕した。
「おいおいおい、あんた回復魔法も使えるのか!?」
ラフマッドは傷の治った足をトントンと踏みしめ、動くことを確認する。
立ち上がった悠真の肩を掴み、目を見開いて笑みを零した。
「いや、たまげた! 火と回復、それに鉄になる魔法か……こんな複数の魔法を使うヤツは初めて見たぜ!」
「そ、そうですか?」
「そりゃそうだ。ダンジョンができた当初は攻撃魔法と回復魔法を使おうとするヤツはいたが、効率が悪すぎてすぐに
廃
れたからな。あんたぐらいじゃないか? 回復と攻撃魔法、両方使えるのは」
ラフマッドはガハハハと豪快に笑い、悠真の肩をバンバンと叩く。
悠真は苦笑いしながら頭を掻いた。褒められるのは嬉しいが、ラフマッド以外は引いているようにも見える。
少し力を使い過ぎたかもしれない。
目標である最下層の魔物を倒したので、全員でダンジョンを出ることにした。
下層から崩壊が始まるが、このダンジョンはそれほど深くないため、慌てなくても脱出は間に合うはずだ。
“金属化”が解け、元に戻った悠真は、ルイや明人と一緒に上層階を目指す。
その時、ふとザマラが視界に入った。こちらを見ていたようで、悠真が目を向けると視線を逸らし、仲間たちと行ってしまう。
あまりよくは思われていないみたいだ。
悠真たちはラフマッドの
探索者集団
と行動を共にし、出口を目指した。
◇◇◇
白のダンジョンから出る頃にはすっかり夜が明け、朝になっていた。
丸一日穴の中にいたのかと思うと、疲れがどっと押し寄せる。悠真はう~んと背伸びをしてから目をしばたかせた。
サッカー場には帰還した
探索者
たちが座り込み、傷の手当てを受けている。
亡くなった人も多いし、かなりの怪我人も出た。手放しで喜ぶことはできない。
悠真がそう思っていると、サッカー場の入口からヘンドリが満面の笑みを浮かべてやって来る。
「いやいやいや! みなさん、やりましたね! まさか本当に白のダンジョンを攻略してしまうとは……」
疲れた三人の元に来たヘンドリは、悠真、ルイ、明人と順番に握手を交わす。
「聞きましたよ、大活躍だったんでしょ? あなたたちを日本から呼んで大正解でした。一部反対の声もありましたが、結果的に正しかったですね」
ヘンドリがチラリと視線を向ける。そこにいたのは、ザマラとその
探索者集団
だ。
確か『クジャタ』と言ったか。反対してたってのは彼らなのだろう。
「まあ、よそ者を嫌うのは珍しくないか……」
悠真が小声でつぶやくと、明人が「なんや? なんか言ったか?」と聞いてきたので、「いや、別に」と答えた。
ザマラたちとはこれでお別れだ。無駄に波風を立てる必要はない。
「私は被害状況を確認しなければなりません。皆さんにもお話を伺いたいので、あちらのテントでお待ち頂けますか」
悠真たちが目を向けると、そこには白いガレージテントが設置されていた。休憩用なのだろう。悠真は「分かりました」とヘンドリに告げ、ルイと明人と一緒にテントへと足を運んだ。
中には長机と丸椅子がある。悠真は椅子に座り、長机に突っ伏して息を吐く。
海外へ来て最初のミッション。少し心配だったが、なんとか無事に終わることができた。