From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (225)
第225話 獲得したもの
「着替え……これしかないのか?」
大学の校内の一室。悠真が顔をしかめてルイに聞く。
「うん、いま用意できるのはそれだけだって。貸してもらえるだけありがたいよ」
「う~ん、そりゃそうだけど……」
悠真が着ていたのはインドの
探索者
から借りた服。クルタというシンプルなデザインの白シャツと、だぼっとしたカーキ色のバルーンパンツを履いていたが、サイズはぶかぶかでかなりくたびれている。
心なしか少し汚れているようにも見えた。
「もっといいの無かったのかな?」
「文句言いなや。ワイらの服なんて元々最小限しかなかったのに、魔物の襲撃で全部置いてきたんやで。ちょっとぐらい我慢しーや」
明人の言うことはもっともだ。まだ着替えがあっただけマシだよな、と悠真は自分を納得させる。
「それより、今の内に話し合うことがあるやろ」
明人が声をひそめ辺りを見る。悠真たちがいる部屋は、元々教室だった場所。
日本の大学とは造りや雰囲気が違うが、広い室内にはたくさんの机と椅子が並べられており、三人は窓際の席に座っていた。
教室には悠真たち以外にもインドの
探索者
が数人おり、固まってなにかを話し合っている。
明人はインド人に話を聞かれないよう、小声で会話を続けた。
「このあとダンジョンに入るんやけどな。まずはインドの
探索者
たちに先行してもらうことになったで」
「先行? でもそんなことしたら……」
悠真は眉間にしわを寄せ、明人を見る。
「せや、かなりの被害は出るやろ。でもな、インドの各地から二百人近い
探索者
が集まってくるらしい。そんだけ人数がおるんなら役に立ってもらわんと」
明人の話に悠真は違和感を抱く。
「ちょっと待てよ。全員で行かなくても、俺たちだけでダンジョンに入ることもできるんじゃないのか? そうすれば犠牲も出ないだろ?」
悠真の意見に、隣にいたルイは首を振る。
「悠真……この緑のダンジョン『ドヴァーラパーラ』は、僕たちだけでは攻略できないよ」
「え? なんで!?」
キョトンとした悠真に対し、明人はハァーと溜息をつく。
「あほ! そんなことも分からんのか!? お前の『金属化』能力の持続時間を考えてみいや。一時間ほどしか持たんのやろ?」
「え? ああ、正確には一時間十分だけど」
「ドヴァーラパーラは一層、一層の面積がどでかいダンジョンや。最下層に辿り着くには、早くても三日はかかる」
「三日!? ……そんなにか」
かなり広いダンジョンと聞いていただけに、攻略には時間がかかると思っていた。それでも改めて三日と聞くと、気が遠くなってくる。
少し大きな声を出したせいで、部屋の中にいたインドの
探索者
が視線を向けてきた。ルイは声をひそめて話を続ける。
「悠真の力を最大限に発揮してもらうには、最下層付近で『金属化』の能力を使うしかない。インドネシアの『白のダンジョン』なら変身する時間を五分ごとに区切って温存することもできたけど、ドヴァーラパーラではそんな余裕はないと思う」
「それは強い魔物が出てくるってことか?」
「うん、それも大量にね。魔物の数が多いのが『緑のダンジョン』の特徴だし、時間はあっと言う間に消費されると思った方がいい」
悠真は目を伏せて黙り込んだ。確かにそんなに広大なダンジョンなら『金属化』の継続時間は短くて心もとない。
「じゃあ、インドの
探索者
たちの力を借りるのって……」
悠真の質問に、ルイがコクリと頷く。
「まず、インドの人たちに低層階から中層まで戦ってもらう。その間、僕らは魔力を温存しておくんだ。これはダーシャさんにも話してある。中層から深層までは僕と明人が前面に出て戦い、最後は悠真にバトンタッチする。それが一番効率的だよ」
「でも、三日かかるんだよな? だったら一日目に『金属化』は使えるんだから、俺が先頭に立って蹴散らせば、もっと早く進めるんじゃないか?」
「簡単に言うなや」
明人が細い目を開き、悠真を睨む。
「『金属化』した姿なんか見せてみい、また混乱が広がって余計な衝突が起きるかもしれへん。なんのためにお前の力を伏せてきたと思っとるんや」
「それは……そうだけど」
「なにより一日目にワイらが戦うほどの魔物なんか出てこんやろ。戦うとしたら中層あたりからや。でも、そこで『金属化』を使うと今度は深層で使えへんようになる。結局、大人しく我慢するしかないっちゅうことや」
明人の言うことも分かる。でもやっぱり納得できない。
「それってインドの
探索者
たちを利用して俺らの目的を果たすってことだろ? ダーシャさんは分かってるのか?」
「もちろん分かっとる。序盤はインドの死者が大勢でるけど、ワイらはもっと危険な中層より先で戦うことになるんや。そういう意味では、ワイらはお互いを利用する関係っちゅうことや。向こうだってワイらが死んでもなんとも思わんで」
なんとも酷い話だ。大勢の犠牲を前提にしたダンジョン攻略。でもそうしなければ『ドヴァーラパーラ』は
踏破
できないということか。
悠真は隣をチラリと見る。ルイも眉尻を下げ、苦しそうな表情をしていた。
きっとルイもこんなやり方はしたくないはずだ。それでもこの攻略作戦を遂行するため、覚悟を決めているように見えた。
――俺も覚悟を決めないと……。
「まあ、どの道、今は準備が整うのを待つことしかできへん。こっちもやれることがあったらやっとかんと」
「そうだね。情報収集や武器の手入れ、道具の確保も必要だ。そうだ悠真、今の内に魔法の練習とかしておこうか?」
ルイに尋ねられ、悠真は「あ! そうだ」と自分のポケットをまさぐる。
中にあった物を取り出すと、手の平の上に乗せ、ルイと明人に見せた。二人は思わず目を見開く。
「これって……」
驚いたルイに対し、悠真は「へへへへ」と得意げに笑う。
「山で魔物を倒した時に拾ったんだ。まあ山火事だったから逃げるのに必死で、これぐらいしか拾えなかったけど……」
悠真の手の平にあったのは光り輝く緑色の宝石。それも複数個あった。
「すごい! ”緑の魔宝石”、エメラルドが三つにジェダイトが五つ。あの状況でよく見つけたね」
「まあ、いっぱい落ちてたからな。他は全部燃えちゃったけど」
悠真は得意げに胸を張る。インドに来てからはいいことが無かっただけに、魔宝石の入手はかなり嬉しかった。
「ええやないか悠真、さっそく飲んで試してみいや」
「ああ、そうする」
悠真は机の上に置いたバッグに手を伸ばす。これもインドの
探索者
から借りたお古だったが、中には配給でもらった携帯食やペットボトルが入っていた。
悠真はペットボトルのフタを開け、持っていた魔宝石八つを口の中に放り込む。水をゴクゴクと飲み、魔宝石を食道の奥へと流し込んだ。