From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (230)
第230話 後方支援の役割
悠真と明人、ルイの三人が武器を握りしめて戦おうとした時、インドの
探索者
たちが魔物の前に立ちはだかった。隊列の先頭にいた
探索者
たちだ。
彼らは
各々
が持つ武器を振るい、虫の魔物を蹴散らしていく。
よく見れば魔物はそれほど大きくなかった。まだ一層だけに、たいして強くもないのだろう。
「ひゃっひゃっひゃ、慌てんでもええ。この程度の魔物、ヤツらに任せておけば大丈夫じゃ。わしらの出番はまだまだ先じゃよ」
アニクが愉快そうに笑う。悠真たちは顔を見交わし、武器を収めた。
結局、一層、二層、三層と先頭の
探索者
だけで戦い、問題なく進むことができた。
そして十二階層――
「さすがに魔物が強くなってきたな」
先頭の
探索者
だけでは倒し切れず、間近まで迫った魔物を悠真はピッケルで薙ぎ払った。
“風の魔力”を帯びた鉄槌は、飛びかかってきた巨大な蟻をバラバラに引き裂く。
ルイと明人も魔物を倒し、ふぅーと息を吐く。
「まあ、守りを突破してくる魔物はこれからも出るやろうな。それはしゃーないわ。それより……」
明人が視線を向ける先、そこにはアニクを始め【
孔雀王
】のメンバーが立っていた。全員が武器を構えたまま、足元に転がった魔物の死骸を見下ろしている。
それほど強くない魔物とはいえ、かなりの数を一瞬で
屠
っていた。
「火に、雷に、水と風……あの
探索者集団
、全部の魔法が使えるようやな」
明人が興味深そうに言う。悠真もチラリと見ただけだが、四人がそれぞれ違う属性の魔法を使って魔物を倒していた。
孔雀王
はアニクと屈強な男女が二人づつ。計五人のグループだ。
それぞれが変わった形の剣や槍、斧や棍棒を持っている。元々武器メーカーの会社が作った
探索者集団
と聞いていた。
だとしたら、あの武器も自分たちで作ったってことだろうか?
何事もなかったように髭を撫でる老齢のアニク。今回の戦闘で、アニクは戦っていない。
まさか部下だけに戦わせて、自分は戦わないなんてことはないだろう。
アニクが一体どんな戦い方をするのか、悠真は
俄然
興味を抱いた。
◇◇◇
「よし! 今日はここで休息をとる。中層攻略組は眠っておけ!」
カイラの号令で隊列は止まり、野宿の準備を始める。休息といっても魔物がいるダンジョンの中でとるのだ。安全なはずがない。
周りには絶えず魔物の気配がある。
「おい悠真、こっちや!」
目を向けると簡易なテントが作られていた。明人が「はよう」と手招きする。
周囲では次々にテントが張られ、ダンジョンに元からある木々を燃やし、焚火を始めていた。
悠真は明人が入ったテントの入口を開け、中を覗く。
そこは狭い空間で、三人が雑魚寝するのがやっとなぐらいだ。
「悠真、今の内に寝なあかんで。多少とはいえ、魔力を使ってもうたからな。休んで回復させんと」
「見張りは先頭にいた
探索者
たちがやるのか?」
悠真はテントの中に入り、座って靴を脱ぐ。
すると後から入ってきたルイが「そうみたいだよ」と答えてくれた。
「今夜は徹夜で見張りをするんだって」
「へ~」
今いるのは百三階層。出てくる魔物も強力になり、肉体的にも精神的にも限界のはずなのに。
悠真は外にいるインドの
探索者
たちを心配したものの、自分にできることは休むぐらいだと思い、明人やルイと一緒に眠ることにした。
四時間ほど仮眠を取り、目を覚ました悠真は、まだ寝ているルイと明人を起こさないようにテントを出る。
静かな空間。昼も夜もないダンジョンの静けさは、どことなく不気味だった。
辺りは相変わらず薄暗く、生暖かい風が頬をなでる。どうやら戦闘は起きていないようだ。
多くの者が休息に入る前、ダンジョン内の魔物を掃討したのが効いたのだろう。
魔物が再びダンジョンに現れるには、一定の時間が必要になる。
――そういえば金属スライムは一日ごとに現れたな。
そんなことを考えながら悠真がふと目をやると、少し離れた場所にあるテントの横に小さな椅子があり、【
孔雀王
】のアニクが座っていた。
「アニクさん」
「おお、若いの。もう起きたのか」
アニクはいつも通り屈託のない笑顔を向けてきた。
「緊張して眠れなくて……アニクさんも眠れないんですか?」
「ひゃっひゃっひゃ、わしはもうジジイじゃからな。眠りがそもそも浅いんじゃ、三、四時間も眠れば充分じゃわい」
「そうですか……」
悠真は周囲を見回す。一層から戦い続けているインドの
探索者
たちが、辺りを警戒しながら歩いていた。
使っている武器は破損し、着ているバトルスーツもボロボロになっている。
本当に休まず警護をしているようだ。
「あの人たちはこの後どうするんですか? このまま最下層まで行くんですかね?」
アニクは白い髭を撫でながら、「いやいや」と小首を振る。
「あやつらはこのあと地上に戻るんじゃよ。実力を考えれば、これより先に進むのはキツいじゃろう。五十階層まで行けば、地上の後方支援組が来てくれる手はずになっておるからのう、犠牲も少なくて済むじゃろう」
「そうなんですか」
犠牲は少ないと言うが、ここに来るまでに数人が死んでいる。あのボロボロな状態の彼らだけで、五十階層まで辿り着けるだろうか?
悠真は心配になって顔を曇らせた。それを見たアニクが「ひゃっひゃっひゃ」と笑う。
「なんじゃ? あやつらが心配か?」
「あ、いえ……」
「心配など不要じゃ。ここにいる連中は全員覚悟を決めておる。例え死んだとしても、文句を言う
輩
など一人もおらん」
悠真は無言で頷いた。確かにそうなのだろうと。それでも気になってしまうのは、自分の考え方が甘いんだろうか?
「若いの。人の心配もいいが、もっと自分の心配した方がいいぞ」
「え?」
アニクはニヤリと笑って悠真を見る。
「考えてみい、後方支援のサポートは五十階層までが限界じゃ。もっと深く進むわしらにサポートなどありゃせんわい。つまり、わしらは最下層まで行って”迷宮の守護者”を倒すしかない。それ以外、生きて帰る方法はないからのう」
アニクの話を聞き、悠真はゴクリと息を飲む。
確かにその通りだ。本当に厳しいのは中層より先を担当する
探索者
たち。場合によっては全滅も有り得る。
黙り込む悠真を
他所
に、アニクは「よいしょ」と言って立ち上がり、周囲を見回す。
「ほかの連中も起きてきたようじゃ。そろそろ出発かのう、しんどい散策になりそうじゃわい」
悠真も目を向けると、テントから出てくる
探索者
たちがチラホラ見えた。
やはりこんな状況でぐっすり眠れるヤツなんていないだろう。そう思っていた時、アニクがこちらを見ていることに気づいた。
「若いの、わしはお主に期待しておるからのう」
「え? それはどういう……」
虚を突かれてキョトンとしている悠真に、アニクは口の端を上げる。
「わしにはどうしてもお主の方が他の二人より強いような気がするんじゃ。なに、じじいの戯言じゃから聞き流してくれてかまわんがのう」
「は、はあ」
アニクは「じゃあの」と言って愉快そうに笑い、自分のテントへと戻っていった。