From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (257)
第257話 しばしの別れ
「マジかいな!」
明人はアニクの話を聞いて喜ぶものの、「いや、しかし……」とすぐにテンションを下げる。
「ゲイ・ボルグほどの槍はできひんやろ。あれはかなり大きいイエローダイヤモンドが使われとるからな。同レベルの武器ができるとは思えへん」
それは諦めとも取れる言葉。恐らくゲイ・ボルグを失った時から、もう元には戻せないと覚悟していたのだろう。
悠真は
居
た
堪
れない気持ちになる。
『悠真を救うために明人は”解放”を使ったんだよ』と、ルイから聞かされていた。
自分が自我を失わず、【大樹の魔物】を倒していれば、こんなことになっていなかったんだ。
「ひゃっひゃっひゃ、確かにあの槍の威力を考えれば、相当大きな魔法石が使われておったのじゃろう。わしでもそんな魔法石は入手は困難じゃ。しかし、より強力な槍を作ることは充分可能じゃぞ」
「なに!?」
明人は跳ねるようにソファーから立ち上がり、アニクを見下ろす。
「本当か? 本当にできるんか!?」
「わしを誰だと思っておる。インド随一の武器製造メーカー『アニク・スチール』の会長じゃ。嘘はつかんわい!」
「おお、だったら是非頼むで! 武器がないとえらい難儀やからな」
「ひゃっひゃっひゃ、任せておけ」
明人はガッツポーズして大喜びする。それを見ていた悠真とルイも顔を見交わし、「ほんとに良かった」と一緒に喜んだ。
「しかし、お主にあった武器となると、作るのに三週間ぐらいはかかるのう。インドの出立は待てそうか?」
「え!? 三週間?」
明人の顔が急に曇る。アニクたちが来なければ、すぐにインドを出ようと思っていたからだ。
「さすがに三週間は長いで! もっと短くならへんのか?」
アニクは「う~む」と言って顎髭を撫でる。
「今から作るのはお主専用の武器。いわばオーダーメイドじゃ。お主の身体的な特徴や、戦い方の癖、マナの流れ方などを調べて作らねばならん。短くすればするほど、半端な物になってしまうかもしれんからのう。やはり最低三週間は必要じゃよ」
「マジか……」
明人は顎に手をあて考え込む。しばらく黙ったあと、悠真とルイに向かって「どないする?」と尋ねた。
この旅は、悠真の目的を果たすためにある。
目的地やスケジュールは、最終的に悠真が決めなければならない。明人とルイの視線が集まる中、悠真は一瞬考えるが、すぐに答えを出す。
「三週間なら待とう。今後のことを考えるなら、明人が使う武器は絶対必要だよ」
明人は「ええんか?」と言い、複雑な表情をする。
今回、インドで”白の魔宝石”を得ることはできた。だが、期待していた蘇生魔法は使えず、悠真は酷く落ち込んだ。
希望が雲散してしまったのだから当然だろう。
それでも気持ちを奮い立たせ、前に進もうとしている。そんな悠真に余計な時間を与えてしまえば、気持ちが切れてしまってもおかしくない。
そう考えた明人は顔を上げ、悠真を見る。
「悠真、ルイ。お前ら二人だけで先に行け! ワイは武器が完成したら、すぐに後を追いかけるから」
「えっ!?」
悠真は驚いて両眉を上げる。
「別行動するってことか? でも、そんな……」
「なんや? ワイがおらんと寂しいんか?」
明人は口の端を上げ、バカにするような顔をする。
「だ、誰が寂しいだ! むしろ、やかましくなくて清々するわ」
悠真が
捲
し立てると、明人はケラケラと笑った。
「ほんなら決まりやな。お前ら二人は先に出発して、ドイツ経由でイギリスに向かえ。ワイは武器ができ次第出発する」
「でも……」
ルイが不安そうな表情で口を切る。
「通信手段がないんだよ? 一度別れたら、もう会えない可能性だってある」
その言葉にカッカしていた悠真も青ざめた。こんな広いユーラシア大陸ではぐれたら、それこそ本当に最後だ。
「大丈夫や。進むルートは分かっとるし、お前らなら派手に活躍しとりそうやからな。探すんは簡単そうや」
明人は呆気らかんと言った。だが、悠真とルイはそんな楽観的にはなれない。
「やっぱり難しいんじゃないか? ここは無理せずに、三人で出発した方がいいと思うけど」
悠真の言葉に、明人は「ふん」と鼻を鳴らす。
「なに
呑気
なこと言うとんねん! 聞いとるで、死んでもーた幼馴染の遺体。保存されとるとはいえ、少しづつ腐敗が進んどるんやろ? 仮に”蘇生魔法”が使えるようになっても、体が壊れすぎとったら意味がないかもしれへん。違うか!?」
「それは……」
悠真は反論できなくなる。アイシャからも蘇生できる条件がまったく分からないため、急いだ方がいいと言われているからだ。
それを考えれば、確かに先に行くべき。でも――
悠真が眉間にしわを寄せて悩んでいると、明人はフッと笑い、小首を振る。
「永遠の別れとちゃうんやで、なにを悩むことがあるんや」
「簡単に言うなよ!」
「もう決まりや! じいさん、こいつらの足を用意したってくれへんか? これからドイツまで行くんや」
「ドイツか……それは遠いのう」
ローテーブルを挟んで対面に座るアニクがつぶやく。
「おい! 勝手に決め――」
悠真が食ってかかろうとするが、隣にいたルイに肩を掴まれる。
「悠真、明人の言う通りにしよう。それが一番効率的かもしれない」
「ルイまで……さっきは合流が難しいって言ってただろ!?」
「確かに難しいことは間違いないと思うけど、僕らの中で”マナ”を感知する能力が一番高いのは明人だ。悠真の放つ強力なマナなら、見つけだせるかもしれない」
ルイの話を聞いて目を向けると、明人は「そういうこっちゃ」と胸を張る。
悠真はそれ以上なにも言えなくなった。
結局、明人はインドに残ることになり、悠真とルイは明朝出発することになった。
そして翌日――
「いいんですか? これもらっちゃって」
ホテルの駐車場に用意されたのは、コンテナを乗せた中型トラックだ。悠真はトラックの車体を触りながら、「うわ~」と感嘆の声を漏らす。
「こんな物、安いもんじゃて。英雄の移動手段としては、ちと地味じゃがな」
アニクがひゃっひゃっひゃと笑う。駐車場にはアニクと明人、それに
孔雀王
のメンバー。さらにダーシャやカイラまでいた。
みんな出発する悠真たちを見送りに来たのだ。
トラックはアニクが用意してくれたもので、コンテナにはガソリンや食料が詰め込まれていた。
「本当に運転手をつけんでよかったのかのう?」
アニクが白い顎髭を撫でながら聞くと、ルイは「はい」と答えた。
「運転の仕方は教えてもらいましたし、危険な道程になりますから、他の人は巻き込めません」
「そうか」
アニクは小さく頷き、目を細める。一緒に来ていた明人はコンテナをバンバンと叩き、「ええのもらったやないか!」と笑みを漏らした。
「ワイが合流するまで魔物に殺されたらあかんで」
「そっちこそ道に迷って泣きべそかくなよ!」
明人は悠真とルイの側まで行き、グータッチをかわした。簡易な挨拶だが、三人にとってはそれで充分だった。
最後にダーシャとカイラが前に出てくる。
「君たちのおかげでインドは救われた。その恩は絶対に忘れない。旅の目的が果たされるよう、私たちも祈っているよ」
ダーシャが握手を求めてきたので、悠真とルイはそれに応える。ダーシャが一歩下がると、今度はカイラが照れ臭そうに前に出てきた。
「その……なんだ。もし、困ったことがあったらすぐに私を呼べ。必ず駆けつけて、お前たちの力になるよ」
カイラが右手を差し出す。悠真はルイと顔を見交わし、頬を緩める。
「ありがとう。その時は頼りにするよ」
悠真はガッシリと握手を交わし、ルイも後に続いた。二人はトラックに乗り込み、ドアを閉める。
運転はルイがすることになった。免許は持っていないため、完全にペーパーレスドライバーだが。
悠真はシートベルトを締めたあと、窓を開けて外を見る。
明人が「事故るなよ~」と手を振っていた。アニクやダーシャ、カイラ、そしてルドラを始めとする
孔雀王
のメンバーも笑顔で手を振っている。
悠真も窓から身を乗り出し、「ありがとうございました!」と大声で言い、手を振り返す。
ルイがアクセルペダルを踏み、トラックはゆっくりと前に進んだ。
かなり大変な旅だったけど、多くの人に出会い、多くのものを得ることができた。明人とは一旦別れるが、きっとすぐに会えるだろう。
トラックはホテルの駐車場を出て、速度を上げる。もう明人やダーシャたちの姿は見えなくなった。
楓が生き返り、世界が平和になれば、きっとまた来ることができる。
そんなことを考えながら、悠真とルイを乗せたトラックは遥か遠方の国、ドイツを目指した。
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これで第七章、王の胎動編【蟲と風の奏者】は終りとなります。
次回より第八章、王の胎動編【深海の覇王】を始めますので、引き続き読んで頂けると幸いです。