From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (259)
第259話 非情な旅路
悠真は空を見上げる。上空では金切声が鳴り響き、数匹のファイアードレイクが姿を現した。
道路の車を爆破したのだ。魔物がこちらに気づくのは仕方ない。
悠真はグッと身を屈め、羽ばたくと同時に地面を蹴る。一気に飛び立ち上空に行くと、ファイアードレイクたちも旋回してこちらに来る。
同じ『赤のダンジョン』に生息する魔物。見逃してくれるかと思ったが、どうやら戦う気満々のようだ。
――だったら相手をするまで!
悠真は口に火種を溜めて相手に向かって行く。
ファイアードレイクもまっすぐにこちらに来た。赤のダンジョンにおいては、ファイアードレイクはエンシェントドラゴンより格下の魔物だと言われている。
だとすれば負けるはずがない。悠真は口から”火球”を放った。
なによりヤツらとの違いは――
ドレイクに着弾した火球は、激しい光を放って爆発した。火に巻かれたドレイクは煙を上げながら落下していく。
――爆発魔法! ファイアードレイクには使えない攻撃方法だ。
悠真は大空を飛び回り、残り二匹のドレイクと空中戦を繰り広げる。相手の吐き出す火炎放射をかいくぐって自分の放つ火球をぶつける。
ドレイクは爆発し、なにもできないまま落下していった。
この火球の威力なら一撃で仕留めることができる。最後の一匹も倒そうと口に火種を溜めるが、ドレイクは反転して逃げていく。
さすがに敵わないと思ったのだろう。
だが、悠真に逃がす気などなかった。高速で飛行し、ドレイクに向かって突っ込んでいく。
相手が気づいた時にはもう回避できない。
頭からぶつかると、カッと
瞬
き爆発した。ドレイクは吹っ飛び、燃えながら地上に落ちていく。
恐らくは即死。もう動くことはないだろう。
なんとなく空中戦がうまくなってる気がする。もしかしたら【緑の王】との戦いがいい経験になったのかもしれない。
そんなことを考えつつ、悠真はバサリバサリと羽ばたき、ルイの運転するトラックを探した。
ものの三分ほどで停車しているトラックを見つけ、下降しながらキマイラの変身を解除して地面に降り立つ。『金属鎧』の姿のまま車に近づくと、運転席から出てきたルイが「お疲れ」とねぎらってくれる。
「道路は問題なく通れたよ。やっぱりドラゴンに変身すると火力が違うね」
『その代わり音がデカすぎて魔物が来ちまうがな』
悠真が助手席にドアに手をかけると『金属鎧』の姿が変わり始める。どうやら五分経ち、『金属化』の効果が切れたようだ。
黒い鎧は形をなくし、体中から金属が引いていく。
元の姿に戻った悠真はトラックに乗り込み、同じく運転席に座ったルイがエンジンをかける。
「じゃあ行こうか」
「ああ、また道が塞がってたら俺が吹っ飛ばすからな。魔物が出てきても関係ねえ」
「分かった。頼りにしてるよ」
ルイはアクセルを踏み、ゆっくりとトラックを出した。
◇◇◇
悠真たちはアフガニスタンを抜け、イラン、トルコを経由して四番目の国ブルガリアに入った。
途中、障害物があれば二人で爆破し取り除く。
魔物に遭遇すれば、迷うことなく討伐した。どんな魔物が出ようと、悠真とルイの相手にはならず、それほど手間取ることなく倒すことができた。
だが、もっとも厄介なのは”人”と出会った時だ。
「な、なあ、あんたたち……そのトラック、俺たちも乗せてくれよ。避難する途中なんだろ?」
衣服や顔が汚れている四十代ほどの男性が、運転席のドアを叩いて懇願する。
ルイはウインドウを下ろし、ジェスチャーでできないことを伝える。インドを出発する際、ダーシャからいくつものイヤホン型翻訳機をもらっていたため相手の言っていることは分かるが、こちらの言葉は通じないので細かく説明することはできない。
「頼む! 乗せてくれよ。でっかいコンテナだってあるじゃないか!!」
男の声に怒りが混じる。当然、連れて行くことなでできない。これから行くのはもっと危険な場所だからだ。
悠真が運転席の窓から外を見ると、男の後ろに女性一人と子供二人が立っていた。
たぶん男の家族なのだろう。こういう人たちは各国で多く見てきた。みんな浮浪者のようにボロボロになりながら、倒壊寸前の建物などで暮らしている。
いつ魔物に襲われるとも知れない毎日。絶望の中、なにかに
縋
ろうとするのは当然のことだ。
それでも助けることはできない。
困っている人を助けるための旅ではないのだ。ルイはアクセルを踏み、トラックを発進させる。
すると男の後ろにいた女性が走り出し、トラックの前に立ちはだかって両手を広げた。ルイは慌ててブレーキを踏む。
「だったら、せめて食料を分けて下さい! 子供たちが食べる物がないんです。お願いします。お願いしますから……」
女性は膝をつき、両手を握り合わせて懇願した。
ルイと悠真は顔を見合わせる。こういった要求を毎回聞いていたら、すぐに食料はなくなってしまう。
充分わかってはいたが、冷たく断ることもできない。
ルイと悠真はトラックから降り、コンテナの扉を開けてダンボール二箱分の食料を男性と女性の前に持っていく。
中に入っている食料を確認すると、二人は涙を流して喜んだ。
子供たちも駆け寄って来る。ダンボールの中を覗き込むと、多くの食料に満面の笑みを浮かべた。
その顔を
一瞥
し、ルイと悠真はトラックの乗り込む。
ルイがエンジンをかけ、トラックが走り出すと、家族は何度も頭を下げて感謝を示した。それをサイドミラーで見ていたルイは、小さな声でつぶやく。
「あの家族……これからも無事に生きていけるかな」
悠真は窓の外を眺めながら、なにも言わなかった。世界の状況は日に日に悪くなっている。
地上に
跋扈
する魔物の数は増え、人間側の損害は大きくなっていた。
各国の軍隊は壊滅状態、
探索者
の数も減っているだろう。それはインドやインドネシアの現状を見ればよく分かる。
この最悪の環境が好転するかどうかなど、悠真には分からなかった。
なにより
分
か
る
必
要
も
な
い
と
感
じ
て
い
た
。悠真にとって重要なのは楓を助けることだけ。世界の人たちを助けることなど、最初から考えていなかったからだ。
例えどんなに非情でも、足を止めるつもりはない。
その考えはルイもよく分かっていた。黙り込んだ悠真を横目に、アクセルペダルを強く踏み込む。
何時間も走り続けたトラックはブルガリアを抜け、ルーマニアへと入った。