From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (269)
第269話 駅構内
希望が出てきたことに、悠真は嬉しさを隠せない。
「フィリックスさん、そのツォーの人たちがいる場所を教えて下さい! 直接話を聞いてきます」
「え? いや、しかし……」
突然の申し出に、フィリックスは困惑しているようだった。そんなフィリックスを前に、ルイも前のめりになって頼み込む。
「僕からもお願いします! どうしても【白の魔宝石】の
行方
が知りたいんです」
「う~ん、場所を教えるのはかまわんが……危ない連中だぞ。話が通じるかどうか」
心配するフィリックスに、悠真は拳を握って頬を緩める。
「大丈夫ですよ! 暴力を振るわれても俺たちはへっちゃらですから。な、ルイ!」
「うん、そうだね」
悠真とルイが行く気満々になっているのを見て、ヴェルナーが口を開く。
「まあ、彼らなら心配ないだろう。なにより二人には命を助けられてるからな。頼み事を聞かん訳にもいかん」
ヴェルナーの言うことはもっともだ。そう思ったフィリックスは「分かったよ」と承諾し、二人を案内することにした。
「俺が連れて行く」
声を上げたのはヴェルナーだ。しかし、フィリックスは首を横に振る。
「ダメだ。お前は怪我が酷いだろう。この人たちの案内は俺がする」
「いや、しかし……」
二人はしばらく話し合った。ヴェルナーは悠真たちを案内することには賛成したが、フィリックスが直接行くことには反対のようだ。
それはそうだろうと悠真は思った。
フィリックスはこのコミュニティーのリーダー。万が一なにかあれば、取り返しのつかないことになる。
「もういい! 話は終わりだ。あんたたち、すぐに行くんだろ?」
フィリックスはヴェルナーとの話を切り上げ、悠真たちに聞いてくる。
問われたルイは「そうしてもらえると助かります」と答えた。
「決まりだ。行こう」
フィリックスが立ち上がると、ヴェルナーは「待て!」と食ってかかる。
「三人だけで行く気か? そっちの二人はともかく、フィリックス! お前は護衛を連れていくべきだ」
ヴェルナーの提案に、悠真とルイは眉を寄せる。護衛は必要ないし、人数が増えるとむしろ足手まといだ。
フィリックスもそう思ったのか、静かに頭を振る。
「必要ない。この人たちの強さは見ただろ? 俺一人くらいなら守ってくれるさ」
「いや、だがなぁ……」
「それに殴り込みに行く訳じゃないんだ。人数は少ない方がいい」
ヴェルナーは黙り込む。不満はあるだろうが、最後はフィリックスに説得され、渋々承諾したようだ。
そんなヴェルナーを見て、悠真はルイに耳打ちする。
「なあ、あの人の傷。俺の回復魔法で治した方がいいんじゃないか? あれぐらいなら簡単に治せると思うけど……」
「今治すと、自分も連れてけ、って言うかもしれないよ。それに他にも怪我人や病人がいたら、引っ切りなしに治療を求められるかもしれない」
「確かに」
ドイツには人助けに来たのではない。目的を早く達成するために、悠真は回復魔法が使えることを黙っておくことにした。
「じゃあ行こう。ツォー駅はそんなに遠くないからな」
フィリックスは酒場の扉を開け、外に出ていく。悠真とルイもそのあとを追い、外に出ようとした。
その時、立ち上がったヴェルナーに呼び止められる。
「なあ、あんたたち」
「は、はい」
ルイは振り返ってヴェルナーを見る。
「フィリックスのことを頼む。あいつはこのコミュニティーには必要な男なんだ。必ず守ってやってくれ」
ヴェルナーに頼まれたルイはコクリと頷き「任せて下さい」と力強く答える。
悠真と共に扉をくぐり、外に出てフィリックスのあとを追かけた。
◇◇◇
巨大なガラス張りの建物。年季は入っているものの、一見すれば大型のショッピングモールのように見える。
「ここがツォー駅……」
悠真は眼前にそびえ立つ大きな駅を見上げた。
「こっちだ」
そう言ってフィリックスは入口に向かう。そのあとを追って、ルイと悠真も歩き出した。
三人は駅の正面入口に入り、中を見渡しながら進んで行く。
本来ならば大勢の人が行き交っていたであろう大きな駅。今は閑散としていた。
誰もいないのか? と悠真は思ったが、しばらく歩くと駅の構内に数人の男たちがたむろしていた。
フィリックスに気づいた男が「あん?」と声を上げる。
「おいおい、フィリックスじゃねーか! こんな所までノコノコとなにしに来やがった!?」
咥えタバコをした大柄の男が歩いてくる。その後ろからも数人の男がついてきた。フィリックスは立ち止まり、両手を上げて男に話しかける。
「争うつもりはない! ノイマンに話があるんだ。ここに呼んでくれないか?」
大柄の男は咥えタバコを吐き捨て、
懐
から銃を抜く。
「寝言いってんじゃねえ! テメーらとは何人殺し合ったと思ってんだ!!」
後ろにいた男たちも銃を抜いて、こちらに向けてくる。それを見たルイと悠真は前に歩み出た。
「フィリックスさん! 僕の後ろに」
「あ、ああ」
フィリックスはルイの後ろに回り込む。次の瞬間、無数の銃声が鳴り響いた。
「死ねやああああ!!」
大柄の男は笑いながら銃を撃ちまくる。しかし、銃弾がルイや悠真を傷つけることはなかった。
ルイが展開した”炎の障壁”は弾のことごとくを溶かし、悠真が張った”風の障壁”は弾丸を全て弾き飛ばした。
自分たちの銃が効かないと分かると、男たちは目を丸くする。
「なんだこいつら……
探索者
なのか!?」
驚く男を見て、フィリックスが口を開く。
「分かったろう。この人たちに銃は効かない。もう一度言うからよく聞け、ノイマンを連れて来い! 今すぐにだ!!」
眼光鋭いフィリックスに威圧され、大柄の男は一瞬たじろいだ。互いにしばし睨み合うが、大柄の男は後ろにいた仲間になにかを伝える。
仲間は頷くと、構内の奥へと走っていった。
人を呼びに行ったのだろう。ノイマン……それがこのコミュニティーのリーダーの名前か。
悠真は鼻の頭を指で掻き、その人が来るのを待つことにした。
◇◇◇
二十分ほど経っても誰も来ないため、三人は駅の構内にあるベンチに腰を下ろし、辺りを見回す。
大柄の男とその仲間たちは、少し離れた場所から睨みを利かせていた。
そんな彼らを
一瞥
し、ルイはフィリックスに尋ねる。
「フィリックスさん、ノイマンってここのリーダーなんですよね? どんな人なんですか?」
フィリックスはルイに視線を向け「そうだな……」と口を開く。
「元々はドイツの物理学研究所にいた学者だ。頭がいいんで、リーダーに祭り上げられてるんだ。あそこにいる頭スカスカのヤツらよりは話が通じると思うぞ」
大柄の男たちには聞こえていないだろうが、こちらを見て不機嫌そうな顔をしている。なにか感じるものがあるんだろうか?
悠真がそんなことを考えていると、構内に足音が響いた。
一人、二人の足音ではない。かなりの大人数が向かってきている。悠真とルイが視線を向けると、駅の奥から三十人ばかりの男女が歩いてくる。
その中心にいたのは、若い女性だった。