From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (281)
第281話 出発
ルイと悠真が交錯する瞬間、”炎の剣”が黒い怪物の背を
捉
える。
斬撃が直撃すると苛烈な爆発が起き、周囲に炎が舞い散った。悠真は足を止め、後ろを振り返る。
「はっはっはーーー! ”水の魔力”を纏ってるからな、全然効かねえぞ!!」
悠真が高らかに声を上げると、ルイはニコリと笑う。
「じゃあ、もっと試してみようか」
「え?」
なんでもないように言うルイに、悠真は嫌な予感がした。気づいた時にはルイの姿が見えなくなり、四方八方から斬撃が飛んでくる。
超高速で動き回るルイ。
剣が当たる度に爆発が起き、悠真は速さについていけない。一方的なタコ殴り状態になった。
「なあああああああ!!」
斬撃は体の至る所で爆発する。”水の魔力”を纏っているためダメージはなかったが衝撃で尻もちをついてしまう。
頭を振って上体を起こすも、ルイの超高速の動きについていけず、またしてもタコ殴りにされる。
「キイーーーーーーー!!」
立ち上がった悠真は
地団太
を踏んで悔しがる。
くそっ! 速さについていこうとして”風の魔力”を使えば、ルイの爆発魔法は防げない。
かといって”水の魔力”を使って防御力を上げれば、今度は速さについていけない。
要するにルイとは相性が悪いのだ。”風”と”水”を素早くスイッチする器用さなど、今の自分にあるはずもない。
その後もルイと模擬戦を繰り広げるが、炎の斬撃は五百発以上喰らうも、こちらの攻撃は一発も入らなかった。
改めて思ったのは、ルイの使う炎の斬撃と
暗黒騎士
の素早さが合わさると『鬼に金棒』並の強さになる。
結局、一撃も与えることもなく実戦訓練は終わってしまったが、見ていた人たちは万雷の拍手で
称
えてくれた。
変身を解いた悠真はポリポリと頭を掻きながら、
――まあ、喜んでくれたならいっか。と気を取り直した。
◇◇◇
「やっぱりイギリスに行くのか?」
ドイツの人たちに別れを告げ、その場を
発
とうとした時、ふいにフィリックスが尋ねてきた。
「ええ、そのつもりです。行き先は言ってないのに、よく分かりましたね」
ルイが不思議そうに返す。悠真とルイが今いるのは地下街の出入口前、トラックに乗り込もうとしているところだった。
周囲には見送りに来てくれた地下街の人たちや、エミリア、ミュラー、ウォルフガングもいる。
「そりゃぁ分かるさ。ドイツを助けるためだけに、こんな危険なところまで来るはずがない。もっと大きな目的があるはずだってな」
話を聞いていたエミリアが口を挟む。
「もしかして……【青の王】を倒しに行くんですか?」
悠真は鼻を指で掻き、「う~ん」と唸ってから答える。
「別に【青の王】を倒すのが目的じゃないんだけど……結果的に倒すことになるかもしれません。その時は全力でやるだけです」
辺りから「おお」と声が漏れる。彼らに取っては【青の王】もコングロマリットも恐ろしい魔物という点では変わらないのだろう。
だが実際には【青の王】の方が遥かに恐ろしい魔物だ。
それを分かっているのだろう、ミュラーがメガネを直して悠真を見る。
「老婆心から言わせてもらうが、いかに君たちでも【青の王】を倒すのは容易ではないだろう。安全を考えれば、行くのはやめた方がいい。今のイギリスは、ここを遥かに超える地獄だぞ」
ルイと悠真は顔を見合わせる。悠真は頬を崩し、再びミュラーを見た。
「ありがとうございます、ミュラーさん。でも大丈夫です。俺たちは【赤の王】もインドにいた【緑の王】も倒してきました。【青の王】が立ちはだかったとしても、やることは変わりません」
力強い悠真の言葉に、ミュラーやエミリア、フィリックスたちは息を飲む。
「そうか……二体の【王】を倒してここまで来たのか」
ミュラーは口元に笑みを浮かべ、目を閉じて頭を振る。
「……なるほど、コングロマリットを見て、
こ
の
程
度
の
魔
物
に
は
負
け
な
い
。と言った意味がようやく分かったよ。もうなにも言うまい、気をつけて行きなさい」
手を差し出したミュラーに対し、ルイと悠真はガッシリと握手を交わした。
そのあとエミリアとウォルフガングとも握手を交わし、フィリックスに手を差し出した時、フィリックスは「おいおい」と言って片眉を上げた。
「なに、お前らだけで行こうとしてんだ!」
「「え?」」
ルイと悠真は同時に声を上げる。フィリックスは「はあ~まったく」と頭をガシガシと掻いた。
「お前ら、どうやってイギリスに行く気なんだ!? 空路も海路も簡単じゃねーぞ」
「一応、ハンブルク港から船で行こうと思ってるんですが……」
ルイは自信なさ気に答える。フィリックスの目は益々キツくなった。
「そんな簡単にいくかよ! 船を入手したとして、運転はどうすんだ? 免許は持ってるのか!?」
悠真とルイは「うう……」と言った切り言い返せない。行けばなんとかなるだろう、ぐらいの軽い気持ちでいたからだ。
「俺はハンブルクに住んでたことがあるから、地理には詳しい。それにヴェルナーは船舶免許を持ってる。俺たちが行けば、イギリスに行くのに役立つぞ」
「え? じゃあ……」
ルイは驚いた表情でフィリックスを見つめる。
「ああ、俺とヴェルナーが一緒に行く。これは俺たちができるささやかな礼だ。イギリスに到着するまで責任を持つよ」
「で、でも……ここにいる人たちの避難もあるし、フィリックスさんたちがいないとマズいんじゃないですか?」
いくらベルリンから出られるようになっても、安全な場所まで行くのは容易ではない。ベルリンの外にも魔物はいるのだ。
本来なら自分たちが安全な場所まで送り届けるべきだったが、悠真とルイは先を急ぐことを優先した。
そんな二人をドイツの人々は納得し、笑顔で送り出してくれている。
これ以上、甘えるのはさすがに忍びなかった。フィリックスとヴェルナーは、彼らに必要な人材だと思ったからだ。
「こいつらのことはエミリアに任せている。ミュラーさんやウォルフガングもいる。あんたらに取っちゃ、ひ弱な集団に見えるかもしれねえが、こんな世界になっても生き残ってきたヤツらんだぜ? なめてもらっちゃ困るよ」
フィリックスがニッと口の端を上げると、人垣を掻き分けて少年が走ってきた。
「フィリックス! 僕だっているよ。みんなを魔物から守ってみせる!」
力強く宣言したのはルイスだった。悠真がチラリと見れば、ルイスの腰にはホルスターに入った
あ
の
拳
銃
がぶら下がっていた。
フィリックスはフフと笑い、しゃがんでルイスの頭を撫でる。
「そうだな。みんなの事を頼むぞルイス。必ず全員無事に避難させろ」
「うん、分かったよ。フィリックスもその人たちを、ちゃんとイギリスまで連れて行ってね」
「ああ、任せとけ!」
フィリックスは立ち上がり、悠真たちの顔を見る。
「まあ、そういうこった。お前たちが嫌がっても、俺はついて行くからな。借りを返さないと気が済まない
質
なんだ。ヴェルナーもそうだろ?」
「ああ、そうだな」
スキンヘッドのヴェルナーもニッと笑みを浮かべる。これは断ってもダメそうだ、と思い、ルイと悠真は顔を見交わし苦笑した。
最終的に四人で行くことになり、出発の準備をする。
コンテナにあった食料の一部をエミリアたちに渡し、ルイはアクセルを踏んでトラック発車させた。
手を振ってくるエミリアやミュラー、ウォルフガング、そしてツォーや地下街の人たちに別れを告げ、トラックは荒れた道路を走る。
「疲れたら言えよ。運転を変わるからな」
狭い後部席に乗ったフィリックスの言葉に、ルイは「ありがとうございます」とお礼を言った。
さすがにトラックといえど、四人も乗り込むのはなかなかキツい。
フィリックスは後部座席に入ってもらったが、ヴェルナーに至ってはコンテナの中で我慢してもらっている。
悠真は「一般人をつれていって大丈夫だろうか?」と思う反面、フィリックスたちがいてくれる心強さも感じていた。
トラックはガタガタと揺れながら『港湾都市』ハンブルクを目指し、ひた走った。