From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (292)
第291話 シャーロットの懸念
「あ! あなたは……」
ルイは目を見開く。そこにいたのは大柄でスキンヘッドの男と金髪の女性。軍服のようなものを着ているが、イギリス軍のものではない。
なにより、ルイと悠真はこの二人に見覚えがあった。
「あなたたちは、イギリスの
探索者集団
『オファニム』の
探索者
、シャーロットさんとマイケルさんですよね」
ルイが英語で話すと、大男のマイケルが反応する。
「おお、覚えてたか! そう、俺とシャーロットは”黒鎧討伐作戦”に参加して、お前ら日本の
探索者
と一緒に戦ったんだ。まさかこんな所で会えるとは……ところで、どうしてイギリスにいるんだ!?」
マイケルはルイに近づき、マジマジと顔を覗き込む。
ルイはマイケルの圧にビクッと肩を震わすものの、笑顔で対応する。
「ぼ、僕たちはイギリスの応援をするために日本から来たんです。【青の王】の討伐は大変でしょうから」
「マジか!? こんな危険な状況で日本から来たのか? そうとうクレイジーなヤツらだな!」
マイケルは嬉しそうに大笑いした。悠真たちも見知った
探索者
が生きていたことに喜んでいたが――
「ちょっと待って!」
マイケルの後ろにいた金髪の女性シャーロットが、眉間にしわを寄せながら歩いてくる。
悠真の前で止まると、険しい顔で見つめてきた。
「あなた、どこかで見たことがある。だけど”黒鎧討伐作戦”にはいなかったわよね。一体どこで……」
その時、シャーロットはハッとして後ろに飛び退いた。
「あなた……”黒鎧”ね!!」
女性の目が鋭くなる。マイケルは「え!?」と言い、一歩後ずさった。
シャーロットは腰から二本の剣を抜き、正面に構える。短剣と呼ぶには長く、長剣と呼ぶには短い。
変わった形の刀。悠真はその武器を知っていた。
「黒鎧が人間に変わったことは知っている。私はその場で見ていたから……黒鎧から変わったのは――間違いなく、あなたよ!!」
シャーロットは地面を蹴った。雷の魔力で増幅された推進力。凄まじい速さで迫る相手を、悠真は「危なっ!」と紙一重でかわす。
おととと、と倒れそうになりながら振り返ると、シャーロットが持つ二本の剣に、【炎】と【稲妻】が宿っていた。
強力な魔力を感じる。
稲妻は次第に黒く染まり、炎はバチンッ、バチンッと
爆
ぜている。
――第二階層の魔法!!
この人は『金属』の装甲を貫く魔法が使える! 悠真はそう思い、ゴクリと生唾を飲んだ。
そんな緊迫する二人の間に、ルイが割って入る。
「ちょ、ちょっと待って下さい! こんな人通りが多い所で争うなんて、どうかしてますよ!!」
ルイに諭され、シャーロットは周囲を見渡す。通りを歩いていた人たちは突然の出来事に驚き、なんだ、なんだ、と騒ぎ出していた。
マイケルも眉をひそめ、苦言を言う。
「そうだぞ、シャーロット! いきなり剣を抜くヤツがあるか! なにか事情があるあるはずだ」
「しかし……」
剣を収めようとしないシャーロットに対し、近くで見ていたイライザも
憤
る。
「シャーロットさん、これは問題ですよ。彼らはこれから住民手続きをすることが決まってるんです。なにか言いたいことがあるなら、まずは行政区へ行って話をして下さい」
毅然
としたイライザの態度に、シャーロットは「分かったわ」と言い、仕方なく剣を収める。
「とにかく話が聞きたいから、こっちに来て」
シャーロットが歩き出した。どうやら人のいない所に行くようだ。
悠真とルイは戸惑いつつも、あとを追うことにした。マイケルとイライザも同じように歩き出す。
◇◇◇
「どういうこと!? あなたは日本政府が連れて行ったはずよね?」
シャーロットが腕を組んで悠真を睨む。
五人がいたのは
人気
のない路地裏。シャーロットとマイケルの前に、ルイと悠真、イライザが並んでいる格好だ。
いきり立つシャーロットの前に、ルイが歩み出る。
「悠真は日本政府から危険がないと判断されたんです。だから今回、イギリスに援軍という形で僕と一緒に来たんですよ」
ルイの説明にも、シャーロットは納得してない様子だ。
「あれほど大騒ぎしてたのに危険性がない? とても信じられないわ」
もっともな意見だとルイは思ったが、ここで説得しないとまた剣を抜かれ、戦闘になるかもしれない。
頭を悩ませているルイに助け舟を出したのは、意外にもマイケルだった。
「まあまあ、シャーロット。落ち着けよ。”黒鎧”を倒した
本
人
が言ってるんだ。ここは信じるしかないだろう」
「それは……そうかもしれないけど」
シャーロットもトーンダウンしてくる。こちらに戦う意思がない以上、攻撃してくる理由はないはずだ。
ルイはさらに二人に近づき、話し始めた。
「シャーロットさん、マイケルさん。僕たちはイギリスの
探索者
と共に戦うために来ました。でも、今のイギリスでは積極的に魔物を討伐してないように見えます。現状を詳しく教えてくれませんか?」
シャーロットとマイケルはお互いに顔を見合わせる。
どうしたものかと考えているようだ。しばらくすると、シャーロットが「はぁ~」と溜息をつき、視線を向けてきた。
「しょうがない。一応、君たちの言うことを信じるわ。でも
一
応
だからね。変な動きをするようなら、
躊躇
なく攻撃するから」
ルイが「分かりました」と頷き、隣にいた悠真も「も、もちろん!」と返す。
シャーロットは渋々ルイと悠真に歩み寄り、イギリスの近況について語り出した。
「イギリスは当初、【青の王】の討伐に積極的だったの。多くの
探索者
や軍人による、大規模な討伐隊が編成されたぐらいだから。でも……」
「うまく……いかなかったんですね」
ルイの言葉に、シャーロットとマイケルは顔を暗くする。
「そう、
あ
の
化
物
は
強
す
ぎ
た
わ
。【青の王】だけじゃない、海に住む巨大な魔物たちも、私たちが勝てる相手じゃなかった。多くの
探索者
が死に、特殊な武器を持った軍隊も壊滅してしまった」
全員が黙り込む。ルイと悠真は【青の王】や海の魔物にはすでに出会っている。
それだけに、イギリスの軍や
探索者
が壊滅したというのは充分理解できた。恐らく、犠牲者は相当な数になったのだろう。
「イギリス政府は【青の王】討伐を諦め、国の防衛に舵を切ったわ。そして出来上がったのが、この『
氷の王国
』。魔宝石を防御特化に使った形態よ」
「なるほど……そうだったんですね」
ルイは
俯
きながらつぶやく。イギリスがあくまで防衛に徹するなら、自分たちの出番はない。
「僕たちの応援は、無駄だったようですね」
力なく言ったルイに対し、シャーロットは「いえ」と頭を振る。
「今、海の魔物が増えてきてるし、より強力な個体も現れてる。たぶん、
海
中
の
マ
ナ
濃
度
が
上
が
っ
て
る
ん
だ
と
思
う
」
「海のマナ濃度?」
話を聞いていた悠真が怪訝な顔をする。
「そう、そしてこの傾向が続き、大量の魔物が襲ってくれば――」
シャーロットがギリッと唇を噛む。
「『
氷の王国
』は確実に崩壊する!!」