From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (294)
第293話 探索者と政府
部屋にいた全員が悠真に視線を向ける。悠真自身も緊張し、黙ったまま成り行きを見守るしかなかった。
ハンスは視線を切り、こめかみを押さえて首を横に振る。
「黒鎧の話は聞いている。途轍もない強さで暴れ回っていたが、捕獲してみれば若い青年だったと言う……耳を疑う話だが、事実である以上受け入れるしかない。魔物に姿を変える人間がいるなど、今でも信じられんがな」
ハンスは再び鋭い眼光で悠真を
睨
める。
「それで、君は本気で我々と一緒に戦うというのかね?」
「もちろんです! 俺たちの目的はイギリスにいる魔物を討伐して、見返りに”白の魔宝石”をもらうことですから。そのためには全力を尽くします!」
しばし全員が沈黙する。その間、ハンスはずっと悠真を睨み、悠真も力強い眼差しで睨み返していた。
ハンスは深いしわが刻まれた顔を少し緩め、小さく笑う。
「まあ、なぜそんなに”白の魔宝石”を求めるのかは知らんが、それより重要なのは、君たちが戦力として役に立つかどうかだ。”黒鎧”に変身できるというなら、その力。私に見せてくれんかな?」
問われた悠真は、横にいるルイに視線を向ける。ルイがコクリと頷いたのを見て、堂々と口を開いた。
「分かりました」
悠真はフンッと体に力を入れる。全身が黒く染まり、鋼鉄の鎧に覆われた異形の怪物へと姿を変える。
部屋の中にいた
探索者
たちは「おおっ」と唸り声を上げ、
慄
いているようだ。
それはシャーロットやマイケルも例外ではない。変身した悠真は、角を含めれば二メートル以上ある大柄の体躯。
間近で見れば、驚くのも無理はない。
多くの者が立ち
竦
んでいる中、ハンスだけは部屋を横切り、棚の上に置かれた剣を手に取る。
悠真の元まで戻ってくると、
躊躇
なく抜刀した。
鋭い刃に稲妻が走り、その剣を悠真に向かって振り切る。手加減無しの一撃。
だが、悠真は慌てることなく向かってくる剣を右手で掴み、何事もなかったかのように
佇
んでいた。
剣は手の中でバチバチとプラズマを散らし、ハンスも鬼の形相で剣を押し込もうとするも、剣が動くことはない。
悠真が力を加えると、剣はバキッと音を鳴らして砕け散った。
これにはハンスもギョッとして驚き、砕けた自分の剣をしばらく見つめていた。
そして――
「ハッハッハ、これは凄い! 実に愉快だ!!」
豪快に笑い出した。悠真とルイはキョトンとするものの、ハンスはお構いなしだ。
「なるほど……確かに噂通りの強さだ。これなら【青の王】討伐に打って出てもいいような気になるな」
「じゃあ、イギリス政府に俺たちのことを言ってくれますか? 充分役に立つ
探索者
だって」
まずはイギリス政府に当初の約束を守ってもらう必要がある。その上で【青の王】を討伐すれば、目的である”白の魔宝石”を手に入れることができる。
悠真はそう思い、黒鎧の姿のままテンションを上げていたが、ハンスは厳しい視線をルイに向ける。
「君はどうなんだ? 黒鎧に変身できる三鷹? だったかな。彼の実力は分かった。だが君の実力は我々を納得させるほどあるのかね?」
悠真は「ああ、なるほど」と頷く。要するに、一緒に戦うなら実力を示せ、ということなんだろう。
それに関して悠真が心配することはなにもない。
「そうですね。僕もみなさんと一緒に戦えることを、証明しましょう」
ルイがニコリと笑った次の瞬間――その姿が消えた。
「な!?」
目の前で見ていたハンスは呆気に取られる。全員が周囲を見回すと、ルイの姿は部屋の奥にあった。
「これで納得してもらえるでしょうか? ちなみに、これはみなさんが着ている制服の
第
一
ボ
タ
ン
で
す
」
ルイの手の平には七つのボタンが乗っていた。全員が自分の制服を見ると、一番上のボタンが取れている。
シャーロットやマイケルの物もだ。
あまりのことに、全員が押し黙る。想像を絶する力を持つ二人の
探索者
に、なんと言っていいか分からない。
自分の制服を見ていたハンスは、肩を揺らしてクツクツと笑い出す。
「ハーハッハッハッハ! これは面白い!! ここまでの実力者なら、文句などなにもないわ!」
ハンスは大笑いして『金属化』した悠真に近づき、肩をバンバン叩く。
「分かった。政府の連中は私が説得してくる。君らがいるなら大きな戦力になるし、このままでは魔物の方がどんどん力をつけてくるだろう。戦いに出るなら今しかない。シャーロット、ついて来い!」
「はい」
ハンスはシャーロットと共に部屋から出て行った。
ルイは「すいません」と言いながら全員にボタンを返し、悠真も『金属化』の時間が切れ、元の姿に戻った。
部屋に残ったマイケルを始め、
探索者
の人たちは眉間にしわを寄せ、悠真とルイをマジマジと見つめる。
悠真は所在なく、アハハと苦笑いした。
ハンスとシャーロットが戻って来るまでやることがない。ルイは「すいません。待たせてもらいますね」と断り、悠真と二人で部屋のソファーに腰かけた。
◇◇◇
ハンスとシャーロットは車に乗り込み、政府議会のあるキングス・カレッジ病院へと向かった。
氷の王国
はブリクストンを中心とした一定範囲のことを言う。
キングス・カレッジ病院はその中でも最も東にあり、政府の運営機能は全てこちらに移されていた。
駐車場に車を停め、車外に出た二人が見たのはレンガ造りの立派な建物。
入口で警備している軍人にIDカードを提示し、ハンスとシャーロットは中へと入っていく。
エレベーターで最上階まで上がり、廊下を歩いて正面の扉を開いた。
そこは大きな執務室で、十人以上の人々が話をしている。ハンスは立ち止まり、「失礼します!」と声を上げた。
「あら、ハンスじゃない。どうしたの? こんな所に来るなんて」
柔和な表情を向けてきたのは若い白人の女性だった。かっちりとしたダークネイビーのスーツを着こなし、背筋を伸ばした立ち姿はモデルのよう。
肩まで伸びたセミロングの金髪をかき上げ、ハンスの前に歩み出る。
イギリスの首相、レイラ・エバンズだ。ハンスは姿勢を正し、まっすぐにレイラの顔を見て口を開く。
「今日は魔物の討伐の件で伺いました」
「あら、またその話? それは議会で否決されたでしょ。今は街の防衛を固めるのが肝心であって、攻めに行く時期ではないわ」
「日本から二名の
探索者
がやって来ました。極めて優秀で戦力としては申し分ありません。【青の王】討伐は今を置いて他にないと考えまず。どうかご再考を!」
力強く進言したハンスに対し、レイラは小さく
溜息
をつく。
「その話は聞いているわ。でもたった二人なんでしょ? それでは戦力と言えないんじゃない?」
「いえ、そんなことはありません。彼らは多数の
探索者集団
を合わせたより、よほど大きな功績を上げてくれるでしょう」
「そう……でも、それ以外にも問題があるんじゃないかしら?」
「問題、ですか?」
ハンスが怪訝な顔をすると、レイラは部屋の隅に立っていた女性を見る。
ハンスはなんのことか分からなかったが、ハンスの後ろに控えていたシャーロットには見覚えがあった。
――あれは三鷹と天沢を案内していた女性、確かイライザとかいう名前の……。
レイラはニコリと笑みを漏らし、ハンスを見る。
「その日本から来た
探索者
……”黒鎧”という名の化物らしいわね」