From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (304)
第303話 参戦
「くっ!」
ハンスは
氷柱
の切っ先を紙一重でかわした。
向こう側ではシャーロットも氷柱を回避したようだ。二人とも【雷魔法】の使い手だったのが功を奏した。
雷使いは体の電気信号を高速化できるため、反射神経が大幅に向上する。
この程度の奇襲攻撃は想定内だ。
ハンスは一旦飛び退き、体勢を立て直してもう一度斬りかかる。”雷”を帯びた剣が何本もの氷柱を両断する。
シャーロットも”炎”と”雷”を宿す剣で斬り込んでいた。
――このまま押し切れれば!
ハンスがさらに攻撃の速度を上げようとした時、空から
水
の
暴
力
が
降
り
注
ぐ
。
「ちっ!」
後ろに大きく飛び退いたハンスが舌打ちする。
正面のコンクリートが破壊され、深い穴が空いていた。水の
吐息
!
ハンスが空を見ると、上空にいた
青の飛竜
がバサリバサリと羽をはばたかせ、こちらを見下ろしている。
やはり黙って見ているほど甘くはないか。
別の
青の飛竜
たちも水の
吐息
を吐き出してきた。ハンスとシャーロットはその攻撃を全て回避し、上空を睨む。
二人が防御に徹している間に、巨大な飛竜は元の状態に戻ってしまった。
体は『水』の特性を維持しながら、所々にクリスタルのような氷の角を生やしている。高々と首を持ち上げ、口から大量の水を吐き出した。
通常の
青の飛竜
とは比べものにならない水量だ。
ハンスはなんとかかわすものの、水の
吐息
は軍用車両を吹っ飛ばし、そのまま『ジ・オーバル』の外壁を破壊してしまった。
あまりの威力に誰もが言葉を失う。
だが、魔物たちには関係ない。上空を飛び回っていた
青の飛竜
がけたたましい鳴き声を上げ、一斉に襲いかかってくる。
ジッとしている訳にはいかない。
ハンスは駆け出し、レイラの元へ行く。
「首相、ここはもうダメです! 逃げるしかありません!!」
「で、でも、どうやって!? こんなに囲まれては逃げられないでしょう?」
レイラの言う通りだった。あの巨大な飛竜を倒すことができたなら、まだ活路はあっただろう。
しかし、それもままならない。もはや生き残る可能性はゼロに近かった。
それでも――
「ジ・オーバルの入口は破壊され、完全に入れなくなっています。北に避難するしかないでしょう。私が道を切り開きますから、SPと一緒に走って下さい!」
ハンスは無理矢理レイラを立たせ、背中を押して走らせる。
振り返ればシャーロットが巨大な飛竜を攻撃し、アンドリューが上空にいる竜たちに向け乱射している。
注意を自分たちに向かせ、こちらを逃がそうとしているんだ。
竜に追って来られては、生き残る希望はない。ハンスはシャーロットたちに感謝しつつ、レイラと共に走り出した。
首相のSPや軍人、避難しようとしていた一般人もついて来る。
この人たちを救えるのは自分だけだ。そう思ったハンスだったが、行く手には数十匹もの魔物が立ちはだかる。
人々を
庇
いながら倒せる数ではない。
――くそっ! ここまでか……。
ハンスが諦めかけた時、周囲が明かるくなり、耳を
劈
く轟音が鳴った。
「なんだ!?」
驚いて振り返ると、巨大な飛竜が煙を上げ、ゆっくりと傾いていく。
なにが起きた!? ハンスは上空に目を移す。すると、そこには
な
に
か
が
浮かんでいた。
逆光でシルエットしか見えないが、長い棒の上に人が乗っているように見える。
まるで
箒
に乗った魔女のよう。ハンスはそんなことを考えながら、空に浮かぶ人影に警戒心を抱く。
しかし、異変は上空だけではなかった。
「ハ、ハンス! あれを!!」
レイラの声にハッとして振り返る。そこには信じられない光景が広がっていた。
行く手を阻んでいた魚人の頭が、ポップコーンが弾けるように爆発していく。なにが起きているのか分からず、ハンスは戸惑った。
だが次の瞬間、剣を振り切った状態で止まる男が目に入る。あれは――
「天沢……天沢ルイ!!」
大声を上げたハンスに、レイラは目を白黒させる。
「だ、誰ですか!? あなたの部下じゃないの?」
「首相、彼です。日本から来た
探索者
というのは!」
「ええっ!? 日本の
探索者
がどうしてここに……」
混乱するレイラを尻目に、ハンスは視線を素早く動かす。天沢がいるということは
彼
も
ここに来ているということ。
すると、その姿をすぐに見つけることができた。
大きなカエルの魔物が宙を舞う。地面に叩きつけられ「グエッ」と鳴き声を上げて砂に変わった。
その向こうには、ハンマーを持った黒い魔物がこちらに背を向け立っている。
間違いなく【黒鎧】こと三鷹悠真だ。だとすれば、空にいるのも彼らの仲間かもしれない。助けに来てくれたんだ。自分たちを。
ハンスは胸が熱くなる思いだった。
遥々
日本から救援に来てくれたのに、イギリス政府が取った対応は無礼極まりないものだった。見捨てられても文句は言えない。それなのに――
「すまない君たち! 助かったよ」
ハンスが大声で礼を言うと、天沢ルイが視線を向けてくる。
「ハンスさん、ここは僕たちが引き受けます! その人たちを連れて、すぐに避難して下さい!」
「ああ、分かった!」
ハンスはレイラに「さあ、行きましょう」と
促
す。レイラも「ええ」と応え、数十人の一般人と共に走り始めた。
後ろを振り返れば、天沢と三鷹が大量の魔物と戦っている。
天沢は凄まじい速度で魔物を斬り殺し、三鷹はパワーで大型の魔物を吹っ飛ばしている。
そんな彼らに感謝しながら、ハンスは前を見て足を速めた。
◇◇◇
「悠真! あの大きな飛竜を頼む!」
「ああ、分かった!!」
巨大カニの頭をハンマーで叩き潰した悠真は、そのまま駆け抜け、やたらデカイ飛竜の元に向かう。
近くまで来ると、その異質さがよく分かる。
体表が透けて向こう側が見えるのだ。まるで”水”そのものが【竜】の形を成しているような、そんな魔物だった。
悠真がハンマーにしたピッケルを構え、前に踏み出そうとした時、空から声が降ってくる。
「おい! 待て待て! そいつはワイの獲物やで!!」
空を見上げれば、ゲイ・ボルグに乗った明人が下降してくるところだった。
「獲物って……誰が倒しても別にいいだろ?」
「いい訳あるか! このゲイ・ボルグマークⅡの威力を試すには丁度いい相手や、なにより強そうやからな。ここは”水の魔物”に強い、ワイが相手をすべきやろ!」
強引な感じもしたが、確かに”水の魔物”には明人の【雷魔法】がもっとも効果を上げる。
悠真が任せてもいいかな。と思った時、無数の金切声が聞こえてきた。
四匹の”
青の飛竜
“が明人に襲いかかったのだ。
「あ!? なんや、こいつら?」
明人がゲイ・ボルグを操り、巧みに竜の攻撃をかわす。どうやら空中でウロウロしていたため、
青の飛竜
に目をつけられたようだ。
「明人! そっちは頼んだよ。俺はこいつを倒しとくから」
「なんやと!? ワイの獲物を勝手に……」
憤慨する明人だったが、
青の飛竜
に追い立てられ、やむを得ず上空へと昇っていった。
向こうは任せておけば大丈夫だろう。悠真はハンマーを構え、目の前にいる巨大な飛竜を睨む。
「さて、早目に決着をつけるか」