From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (309)
第308話 決別
「はっ!? なんでワイらが中に入られへんねん?」
明人が眉間にしわを寄せ、門の前に立つ軍人に詰め寄る。
二人いた軍人は互いに顔を見交わし、迷惑そうに明人を見た。
「上からの命令なんだ。日本人を中に入れるなってな」
「ちょっと待ちなさいよ!」
後ろにいたシャーロットが、ルイや明人を掻き分けて前に出てくる。
「この人たちのおかげで、第一地区の住人は逃げて来れたのよ! それなのに街に入れないって、どういうこと!?」
「いや、我々に言われても……」
軍人の二人はかなり困惑していた。シャーロットはイギリスで有名な
探索者
。そのシャーロットに睨まれ、二人は反論できないようだ。
「まあまあ、一旦落ち着きましょう」
いきり立つシャーロットの前に、ルイが割って入る。
「彼らは政府からの命令を守ってるだけ、ここで揉めても仕方ありません」
「で、でも……」
「僕たちは外にいますから、上の人たちと話してきてくれませんか? 一緒に戦って魔物を倒す意思があることを伝えて下さい」
納得できないシャーロットだったが、ルイに
諭
され渋々了承する。
シャーロットだけが氷の門をくぐり、街の中へと入っていく。残された三人はそれを見送ることしかできなかった。
「なんで助けたったのに、追い出されんとあかんねん! 腹立つわ」
「まあ、あとはシャーロットさんに任せよう。でも、どれぐらい時間がかかるか分からないから、ずっと待ってる訳にもいかないね」
ルイに言われ、悠真は辺りを見回す。
「じゃあ、どっか休める場所を確保しようか。近くに入れる建物がないか探そうぜ」
「そうだね」
悠真たちは睨みを利かせる軍人たちを尻目に、その場をあとにした。
氷の門が見えるマンションの四階に足を運び、その一室で休息を取ることにする。マンションの住人は誰一人いない。
まあ、全員避難してるだろうから当然か。
悠真は部屋のソファーに寝そべり、目を閉じる。さすがに疲れたと思いつつ、チラリと窓辺を見た。
ベランダにはルイが立ち、下を眺めている。
氷の門からシャーロットが出てこないか確認しているようだ。シャーロットなら政府の上層部に話をして、その結果を伝えてくれるだろう。
だが、悠真は自分たちが受け入れられないと思っていた。
――まあ、俺が怖がられるのはいつものことだしな。イギリス政府に拒絶されても文句はいえない。
そう思っていた悠真の頭越しに、苛立った声が聞こえてきた。
「ああ~悠真のせいや! 悠真が嫌われまくっとるせいで、ワイらも巻き添えや!」
悠真はムッとして頭を上げる。部屋を見渡すと、明人がベッドで寝そべり、頭の後ろで手を組んで天井を見つめていた。
いくら無人とはいえ、人の家でくつろぎ過ぎだろう。と悠真は眉をひそめる。
「あ~悠真のせいや! 悠真のせいや! 悠真のせいや!」
「うるさいな! 俺に言っても仕方ないだろ!」
「せっかっくインドから飛んできて、やっとイギリスに着いたと思ったらこんな扱いやで!? おかしいやろ、世の中どうなっとんねん?」
反論するのもめんどくさいので、悠真はまたソファーに寝そべった。
しばらく寝よう。あとのことはルイに丸投げし、悠真は
微睡
の中に落ちていった。
◇◇◇
「悠真! シャーロットさんだ」
「うぅ……? え?」
悠真は手で
瞼
を
擦
り、前を見る。外はすでに暗くなっており、話しかけてきたルイの顔もボヤけて見えた。
「なに?」
「シャーロットさんが”氷の門”から出てきたんだ。僕たちを探してるよ」
まだ寝ぼけたままの悠真だったが、ソファーから立ち上がり、ルイと一緒に部屋を出ようとする。
その時、ベッドでイビキをかきながら寝ている明人が目に入った。
――俺よりも神経が十倍太いな。
明人を寝かしたまま、悠真とルイは静かに部屋を出た。
「門番をしてる軍人さんには、マンションに移動したことを伝えてあるからね」
「じゃあ、シャーロットさんもこっちに来るのか?」
「たぶんね」
電気が止まっているためエレベーターは動かない。階段で下まで降りると、ルイの言う通り、シャーロットはマンションの前まで来ていた。
悠真とルイは小走りでシャーロットの元へ駆け寄る。
「どうでした? 政府の反応は?」
ルイが尋ねると、シャーロットは難しい表情をした。それだけで結果は容易に想像できる。
「ごめんなさい。ハンスさんと一緒に何度も掛け合ったんだけど、どうしても取り合ってもらえなくて。あなたたちは街に入れられないって……」
申し訳なさそうに言うシャーロットに、ルイはやさしく声をかける。
「そうですか……仕方がありませんよ。シャーロットさんが悪い訳じゃないんだし」
「でも……」
苦し気な顔をするシャーロットを前に、ルイは小さく溜息をつく。
「残念ですが、僕たちはこれ以上一緒に戦うことはできません。魔宝石を集めるために世界を回っているので……すいませんが」
「いいえ、謝るのはこっちです。あなたたちのおかげでここまで逃げてくることができたのに、その恩に報いることもできないなんて。本当に情けない」
シャーロットは悠真に視線を向け、かすかに微笑む。
「ここでは一緒に戦えなかったけど……あなたの力は、きっとこの世界に希望をもたらすわ。またどこかで会いましょう。その時は力を貸してね」
「ええ、必ず」
ルイと悠真はシャーロットと握手を交わし、その場で別れた。
マンションの部屋に戻ると、明人は変わらず「ぶび~」とイビキをかきながら寝ていた。我関せずといった感じだ。
悠真は明人の顔をペチペチ叩いて起こす。
「……ん? なんや? なんかあったんか?」
大きく伸びをして上半身を起こした明人に、シャーロットとの会話を伝えた。
「なんやと!? どういうこっちゃ! 街に入れんて!! 助けたった報酬もないっちゅうことか?」
「そういうこと」
出発の準備をしながらルイが答える。
「なんでお前ら平然としとんねん! もっと怒り狂ってええとこやろ?」
「怒ってもしょうがないよ。次の国に行く方法を考えないと」
ルイの達観した態度に、明人は「うぐぐぐ」と歯ぎしりする。視線を悠真に向け、「悠真! お前はそれでええんか!?」と声を荒げる。
「う~ん、まあ、いつもこんな感じだからな。もう慣れちゃったよ」
悠真も当たり前のようにバッグを担ぎ、出発の準備をする。そんな悠真を見て明人が激高した。
「お前のせいでこんな目にあってるんやないか!!」
「いたっ!」
明人が投げた置時計が悠真の頭に直撃する。「なにしやがる!」とぶちぎれた悠真は明人に殴りかかり、二人でケンカを始めた。
それを見たルイは「先行ってるね」と声をかけ、一人で部屋を出ていった。