From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (311)
第310話 空を走る閃光
「全員! 一斉掃射!!」
アンドリューを含め、軍人たちが空に向かって小銃を撃ちまくる。
襲いかかってくるのは一匹の
青の飛竜
。大きく羽をはばたかせ、上空を旋回しながら水の
吐息
を放ってくる。
二人の隊員が吹っ飛ばされるも、アンドリューたちは構わず撃ち続けた。
雷の魔力を付した弾丸。さすがの
青の飛竜
も体に当たることを嫌ったようで、甲高い鳴き声を上げながら去っていく。
アンドリューは銃口を下ろし、ホッと息をついた。
「なんとか追い払えたか……」
水の
吐息
を喰らった隊員に駆け寄るが、二人ともすでに事切れていた。
アンドリューは唇を噛みつつ、辺りを見回す。ここは大きなショッピングモールの屋上。
大勢の人たちが避難しており、軍人も同行していた。
屋上から辺りを見渡せば、溢れんばかりの海水が街を飲み込んでいる。ここはもう
海
そ
の
も
の
と言っていいだろう。
「隊長……対”
青の飛竜
“用の魔導兵器が……」
隊員の言葉に、アンドリューは「ああ」と答える。ここから見えるビルの屋上に設置された地対空魔導兵器。
それが海から来た魔物たちによって破壊されている。
恐らく街の至る所で起きている光景だろう。もはや襲いくる
青の飛竜
を撃退する方法はない。
「このままでは……大量の犠牲者が出てしまう」
アンドリューの予想は現実のものとなる。建物の屋上に避難した人々は、空から来る飛竜に
脆弱
すぎた。
なにもできないまま、多くの人たちが殺されていく。
唯一抵抗ができたのは
探索者
が固く守っている場所だけ。その一つにハンスとシャーロットの姿があった。
「はあああああああ!!」
シャーロットが稲妻を纏った刀で
青の飛竜
を斬りつける。胸と翼を裂かれた飛竜はバランスを崩し、つんのめって屋上に落ちた。
走り出していたハンスが剣を突き出す。
バチバチとプラズマを放射する剣先が飛竜の頭に突き刺さり、感電しながら飛竜は絶命した。
ハンスとシャーロットの見事な連携だったが、
青の飛竜
はまだ空に二匹いる。
上空から吐き出された”水の
吐息
“をかわし、武器を構える。二人は息を合わせて、雷撃魔法を空に放つ。
だが、二匹の飛竜にかわされてしまった。
空を飛ぶ魔物に攻撃を当てるのは容易ではない。
「チッ!」
ハンスは苦々しい顔をする。せっかく避難してきたのに、屋上にいては
青の飛竜
の格好の餌食になってしまう。
かと言って下の階はどんどん浸水し、安全な場所は屋上くらい。
いや、ここもいつまでもつか……。
ハンスが思考を巡らせている間にも飛竜は滑空し、まっすぐに向かってくる。雷撃を放って追い払うものの、またすぐに旋回して戻ってきた。
このままではいずれ殺される。こちらの魔力には限界があり、体力も長くもたないだろう。
それに対し、ヤツらの仲間は時間が経つごとに増えていく。
ここからは別のビル屋上も見える。そこにいる人たちも
青の飛竜
に襲われていた。軍人が必死に応戦しているようだが、焼け石に水。
全員が食い殺され、民間人も飛竜の餌になっている。
なにもできないことにハンスは
臍
を噛む。イギリス各地ではもっと大勢の人が魔物に襲われ、命を落としているはずだ。
それなのに助けに行くこともできず、目の前にいる人たちを守るのもやっと。
自分は一体なにをしているのだ? 日本の
探索者
と共闘できれば、もっと違う未来があったのではないか?
ハンスが自問自答を繰り返していると、
「ハンスさん!!」
シャーロットの声が耳を
劈
く。ハンスは我に返り、空を見上げた。
飛竜が目前に迫っている。ハンスは身を捻り、敵の突進をかわそうとするが、竜の羽が肩にぶつかる。
「がっ……あ!」
衝撃で吹っ飛ばされ、地面を転がる。「ハンスさん!」とシャーロットの叫び声が聞こえてきた。
ハンスはうつ伏せのまま、なんとか顔を上げるが、目に入ってきたのは”水の
吐息
“で攻撃される民間人。
為
す
術
なく体を押し潰され、大勢の人間が死んでいく。
「くっ、そ!」
ハンスは立ち上がって剣を振るった。稲妻が空中に走るが、飛竜は軽やかにかわして上空に舞い上がる。
ハァハァと肩で息をしながら、ハンスは空を
睨
める。
このままでは全員死んでしまう。なんとかしなければ……せめて、目の前にいる人たちだけでも……。
ハンスが震える足に力を込めた時、空に
眩
い閃光が走る。
光は
青の飛竜
に直撃した。竜はバランスを崩し、
錐
もみ状に落ちてゆく。
屋上に激突した飛竜を、ハンスは唖然として見つめた。
全身が凍りつき、すでに絶命している。これは氷魔法!? いや、そんな魔法を使う
探索者
はイギリスにはいない。
魔導兵器を
用
いて建物に”氷のコーティング”をすることは成功したが、攻撃魔法として使えるなど聞いたこともない。
一体誰が!? ハンスは光が飛んできた西の空を見る。
そこには小さな影があった。
「あれは……」
飛んできたのは一体の飛竜。通常の
青の飛竜
ではない。全身が透明で、キラキラ光る宝石を纏ったような姿。
その飛竜にハンスは見覚えがあった。
「あのデカイ飛竜! 死んでなかったのか!?」
第一地区から逃げる際、襲いかかってきた液状化するドラゴン。日本の
探索者
たちのおかげで逃げることができたが、まともに戦えば死んでいた。
「よりによって、こんなところで……」
ハンスは唇を噛む。通常の飛竜を相手にするのもやっとなのに、あんなヤツを相手にすることなどできない。
最悪の場合、ここにいる人たちだけでも避難させないと。
ハンスが覚悟を決めた時、上空にいた
青の飛竜
がけたたましい鳴き声を上げ、こちらに向かってくる。
ハンスは身構え、持っていた剣に”雷の魔力”を流す。
「くそったれが! 来るなら来い!!」
ハンスが剣を振ろうとした刹那――”氷の
吐息
“が
青の飛竜
を直撃する。
竜は空中で凍りつき、力なく落ちてきた。
ハンスと助けに入ろうとしたシャーロットが絶句する。
魔物が魔物を攻撃している。最初の一撃は単に外れただけかと思っていたが、そうではない。
間違いなく、氷の竜は
青の飛竜
を狙って
吐息
を放った。
どうしてそんなことを? ハンスは混乱して動きを止める。
シャーロットやその他の
探索者
、民間人もなにが起きているのか分からず、体を
強張
らせていた。
上空にまで来た氷の竜は、バサリバサリと羽をはばたきながら降りてくる。
全員が固唾を飲んで見守る中、竜が屋上に降り立つ。
透き通る水の体、キラキラと輝くクリスタルのような角。やはりあの時の飛竜だ。
ハンスは油断なく剣を構えた。
だが竜が襲ってくる気配はなく、代わりに
姿形
が変化していく。
徐々に小さくなり、人型へと収束していった。
「そんな……なぜ君が!?」
ハンスは驚いて目を見開いた。そこにいたのは黒い鎧を
纏
った異形の怪物。
【黒鎧】こと、三鷹悠真だった。