From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (316)
第315話 最強の魔神
「なに!? なんなの、あれは?」
レイラは屋上で前のめりになり、遥か彼方の海を見ていた。
途轍もない爆発が起き、空が赤く染まる。爆風はここまで到達し、全員が飛ばされそうになった。
遠目でハッキリとは分からなかったが、巨大な緑の蛾が、何度も姿を変えたように見えた。最後は空を飛ぶ黒い巨人となり、【青の王】と戦っている。
何度も爆発が起き、風が吹き荒れる。
どちらが押しているのかは判断できないものの、規格外の戦いであることは間違いない。
街を飲み込んだ海も、凍ったり、海水に戻ったりを繰り返している。
レイラが状況を飲み込めず、眉間にしわを寄せていた時、隣にいたニックが大声で叫んだ。
「しゅ、首相! あれを!!」
視線を向けると、氷の海を誰かが走っている。
いや、走っているのではない。滑るように移動している。レイラは屋上の
縁
から身を乗り出し、目を
凝
らしてその様子を見る。
見たことがある。シャーロットという女性の
探索者
だ。
足元がパチパチと光を発しているところを見ると、恐らく魔法を使っているのだろう。高速で近づき、氷の海を蹴って跳躍する。
トンッ、と自分たちがいる屋上に軽やかに降り立った。
「首相、ご無事でしたか」
レイラを始め、屋上にいた人々は目を白黒させながらシャーロットを見る。ニックも驚いていたが、有名な
探索者
が来てくれたことに破顔した。
「いやいや、シャーロット殿! 来てくれましたか。これで生き残ることができそうですな」
ニックと同じように安堵の息を吐く人々。しかし、レイラは疑問だらけで、単純に喜ぶ気分にはならなかった。
「シャーロット、ハンスはどうしたの? こちらには来ないの?」
シャーロットは息を整えると、まっすぐにレイラの目を見る。
「ハンスさんは別の場所で市民を守っています。私は氷の上を高速移動できるので、要人の元へ行くように、と言われました」
「そう……とにかく、あなたが来てくれて良かったわ。それで、さっきから起こってる爆発がなんなの?」
シャーロットは「ああ」と言って、後ろを振り向く。
「あれは恐らく、三鷹が戦っているんだと思います」
「三鷹? もしかして、日本から来た
探索者
のこと?」
「ええ、私も詳しくは知りませんが、あんな怪物じみた戦いができるのは、彼以外にいないでしょう」
「そんな……」
レイラは唖然とする。魔物同士がなんらかの理由で戦っていると思っていたのに、あの巨人が人間だという。
そんなことができるものだろうか? 【青の王】と互角に渡り合うなんて。
「でも、どうして!? イギリス政府は……私は彼らの助力を断ったのに?」
「さあ、分かりません。分かるのは一つだけです」
シャーロットはわずかに口角を上げた。
「【青の王】を倒せるのは、彼しかいません!」
◇◇◇
『こいつ……めちゃめちゃデカいな』
悠真が空から見下ろす先、氷のドラゴンがこちらを睨んでいる。
六つもある頭はキバの生えた口を開け、冷気の
吐息
を放ってきた。ただの攻撃ではない。絶対零度の
吐息
だ。
悠真は左手の竜頭を下に向け、ガバリと顎を開けた。
『喰らえ!』
噴き出したのは灼熱の炎。【赤の王】が放つ強力な火魔法だ。
絶対零度の
吐息
とぶつかり合い、激しく押し合っている。だが向こうは六つの頭から放っている。
さすがに分が悪い。悠真は大きな羽をバサリとはばたき、上空へと回避した。
絶対零度の
吐息
をかわすことができたが、【青の王】は首を動かし、執拗に当てようとする。
悠真は滑空して、左手に”火”の魔力を集める。
圧縮された炎は火球へと変わり、【青の王】に向かって発射された。着弾すれば、あの分厚い氷の鎧を吹き飛ばせる。
そう思ったが――
『なっ!?』
冷気の
吐息
が一瞬で”水の
吐息
“に変わる。大量の水が”火球”に衝突し、炎のエネルギーを消滅させてしまう。
『くそっ!』
急下降しながら右手の剣を構える。風を纏って剣を振るい、”風の刃”を放つ。
――当たる!
そう思った瞬間、巨大なドラゴンの足元から”氷の壁”がせり上がってきた。
風の刃は”氷の壁”を破壊するものの、【青の王】にダメージを当てることはできない。悠真は再び飛翔し、距離を取る。
――対応が早くなってる。あの姿になって、”水”と”氷”の切り替えがスムーズになったのか。
悠真は自分の両腕を見る。何度か魔法を使って、
こ
の
形
態
のことが分かってきた。
【赤の王】と【緑の王】。その能力の一部が使え、”火の魔法”と”風の魔法”が自由自在に扱うことができるが、空間のマナを魔力に換えることはできない。
使えるのは【黒の王】の能力、空間のマナを”質量”に換えることだけ。
あくまで、自分が持つ魔力分しか魔法は使えないということだ。だとすれば、それを前提に戦うしかない。
何度も強力な魔法を使ったことで、もう魔力に余裕はなくなってきてる。
長期戦はできない。一気に決着をつける!
悠真は一直線に下降し、【青の王】に向かって突っ込む。右手の剣をかかげ、風の魔力を集めた。
青の王もすぐに反応する。
またしても水晶クラスターのような氷が、足元からせり上がってきた。
途轍もなく分厚い氷が”防御壁”として立ちはだかる。通常の”風の刃”では斬り裂けない。だったら――
『おおおおおおおおおおおお!!』
右手の形が”長剣”から”巨大な斧”に変わる。思い切り振り下ろした”斧”は、大気を斬り裂いて衝撃波を生み出した。
水晶クラスターは粉々に砕け散り、さらに氷のドラゴンに迫る。
【青の王】はその巨体ゆえ、簡単には動けない。風の衝撃波が直撃すると、外殻の氷が割れ、中の肉を引き裂いた。
オオオオオオオンと断末魔のような声が響く。血を噴き出した【青の王】が、体をよじり、わずかにあとずさる。
悠真は間髪入れず、左腕を相手に向けた。圧縮された”火球”が放たれる。
青の王は防御が間に合わないと思ったのか、咄嗟に頭の一つを動かし、火球に喰らいついた。
激しい爆発が周囲を包む。灼熱の炎と衝撃は周囲の氷を解かすも、【青の王】は健在だった。
だが頭の一つを失い、氷の外殻は所々が破壊されている。全身からは煙が上がり、息も絶え絶えのように見えた。
『まだまだ!!』
悠真は左手の竜の口から、メタルレッドの長い剣を伸ばした。マグマの温度を超える”灼熱の剣”。
風の魔力で加速しながら氷のドラゴンに突っ込む。左手の剣がさらに伸び、ドラゴンの体を貫く。
噴き上がる蒸気と、声にならない悲鳴。
悠真の周囲に風が吹き荒れ、そのまま体当たりする。【青の王】は体勢を崩し、後方に倒れ込んだ。
氷の大地は割れ、凄まじい衝撃音が辺りに広がる。
白い結晶が空に舞い上がり、粉雪が降り注ぐ。悠真は【青の王】に刺さった左手の剣を、力いっぱい横に振り抜く。
ドラゴンの胴は裂け、氷の外殻が溶け落ちる。
焼け
爛
れた傷口は絶対に再生しないだろう。ドラゴンは
悶
えながら頭をこちらに向けてくる。
その数は五つ。一斉に冷気の
吐息
を放つつもりだ。
悠真は魔力を込めた”斧”を横に薙ぐ。吹き荒れる風が、ドラゴンの首二つを宙に飛ばした。
さらに斧を高々とかかげ、全力で振り下ろす。
生み出された”風の刃”は
何人
も抗えぬ暴力となり、ドラゴンの三つの首を木っ端みじんに吹き飛ばした。