From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (324)
第322話 アメリカ到着
竜の翼をうまく操り、風を捉えて上昇する。
行く手には確かに空を飛ぶ生き物がいた。全身がキラキラと輝き、大きな翼を広げて空を優雅に泳いでいる。
頭には長い角が生え、鋭いキバを覗かせていた。
「あれが……」
悠真の口から思わず声が漏れる。間違いない。
あれがエンシェントドラゴンや
青の飛竜
と並ぶ、竜種最強の魔物。――黄金竜。
悠真も何度となく名前を聞いたことはあったが、本物を見るのは初めてだ。
危険度はダブルAに指定されているものの、実際はエンシェントドラゴンより強いと言われている。
そんな魔物に、先行している明人は突っ込んでいった。
黄金竜もこちらに気づき、空を旋回して向かってくる。その数は七匹。
一匹の黄金竜が口を開けた。放たれたのは”稲妻の
吐息
“。閃光が空を駆ける。明人はその攻撃を軽やかにかわし、槍に乗ったまま突っ込んでいく。
「凄いな、あいつ。あんな自在に空が飛べるなんて……」
悠真は感心する。自分は飛べるようになって間もなく、まだまだ自由に飛び回れるといった感じではなかった。
さすがにイギリスまで飛んで来ただけのことはある。
そんなことを考えている間に、明人と黄金竜はぶつかり合っていた。
竜がいくつもの稲妻を体から放出すると、明人は難なくかわし、槍から飛び降りて黄金竜の真上を取る。
しかし、武器がない状態。どうするんだ? と悠真が心配していると、明人は左腕を横に伸ばした。
「来い! ゲイ・ボルグ!!」
空中を飛んでいたゲイ・ボルグが急に向きを変え、明人の元へと飛んでいく。
よく見れば、明人とゲイ・ボルグとの間に、細い光の糸が見える。あれは放電していた明人の雷魔法。
あれで繋がっていたのか、と悠真は思わず感心してしまう。
槍は明人の手に収まり、その勢いのまま黄金竜に向かって落下していく。竜の頭に槍を突き立てると、
「死にさらせ! クソったれが!!」
傷口に大量の雷魔法を竜に注ぎ込んだ。これは竜も効いたようで、頭からプスプスと煙を上げ地面に向かって落ちていく。
力なく落下する黄金竜は、もはや光ることもないただの魔物だった。
明人は槍に乗り直し、「次や、次!」と高速で移動する。
「俺も負けてられねえ!」
悠真は顔を前に向ける。すると二匹の黄金竜がこちらに飛んでくる。明人にばかり任せてはいられない。
悠真は右手の甲から長剣を伸ばした。
二匹の竜は”稲妻の
吐息
“を吐き出してくる。恐ろしい速さの閃光。
悠真は攻撃を体を捻ってなんとかかわし、真正面からぶつかり合う。
悠真は右手の剣を振るって竜を斬ろうとする。だが竜は体をくねらせ、それをかわす。
「くそっ!」
やはり空中戦では黄金竜に分がある。悠真は体勢を立て直し、再び斬りかかろうとした。
しかし、もう一匹の竜がそれを許さない。すぐ近くから”稲妻の
吐息
“を放ってきた。今度はかわせず、悠真は直撃を喰らってしまう。
「うわあああああ!!」
一瞬バランスを崩して落下した悠真だったが、慌てて羽ばたき、なんとか空中姿勢を維持する。
「あ、っぶねえ~。やりやがったな、こいつ!」
二匹の竜は羽をはばたき、ホバリングしながらこちらを見つめている。この竜相手に、斬撃で戦うのは難しそうだ。
悠真がチラリと目をやれば、明人がまた一匹、黄金竜を倒していた。
――俺も早くこいつらを倒さないと……。悠真は右手の剣を引っ込め、左手に目を移す。
空中戦を仕掛けても、竜の方が遙かにうまく飛ぶだろう。それでは勝ち目がない。
悠真は左手に意識を集中する。手がボコリと膨らみ、メタルレッドに染まる。
現れたのは竜の頭部。左腕にエンシェントドラゴンの頭をつけたのだ。【
王
】の力は、やはり強力な敵がいないと引き出せない。
一部なら可能かとも思っていたが、違うようだ。今使える能力はエンシェントドラゴンと水晶のドラゴンだけ。
威力は大幅に劣るだろうが、それでも充分な力を発揮するだろう。
悠真は竜の頭を黄金竜に向けた。
竜たちも危険を察知したのか、バサリと羽ばたき、悠真から距離を取ろうとする。
「逃がすかよ!!」
赤き竜の口に炎の魔力が集められる。圧縮され、火球に変わったエネルギーを一気に放出した。
炎の弾丸は上昇する黄金竜を捉える。
激しい爆発が起き、目の前の空を真っ赤に染める。渦巻いた黒煙から黄金竜が落ちていった。火球が”雷の障壁”を突き破ったのだ。
「よし! もう一匹!!」
悠真は器用に滑空して竜を追いかける。竜も旋回してこちらに向かってきた。
口をガバリと開け、”稲妻の
吐息
“を吐き出す。悠真は閃光をギリギリでかわし、左手の竜頭を相手に向ける。
放たれた炎の弾丸は、またしても”雷の障壁”を貫き、竜に直撃した。
火球は烈火の如く爆散し、竜の体を引き裂く。
火の粉と煙を撒き散らしながら、黄金竜は海へと落ちていった。
「ふぅ……なんとか倒せたな」
悠真が安心して息をついていると、槍に乗った明人が近づいてきた。
「なんや。やっと二匹倒したんか。ワイの方はもう終わっとるで」
ドヤ顔でニヤリと笑う明人。周囲を見回すと、すでに黄金竜の姿はなかった。
「おお、さすがに早いな」
「まあ、ワイにかかればこんなもんや! ほな、戻ろうか。もう竜はおらんからな、安全に着陸できるやろ」
明人と一緒に飛行中の【RC-135】に近づく。明人は難無く後部ハッチの中に入ったが、悠真はうまくハッチが掴めず、飛びながらアタフタする。
「なにしとんねん! はよせいや」
「わ、分かってるよ!」
悠真は何度も羽ばたき、四苦八苦しながら扉を掴む。機内に入ると、変化していた大きな羽と尻尾、それに左腕も元に戻した。
一分も経つと『金属化』も解け、人の姿となる。
通路を歩いて前に行くと、アテンド役の軍人は驚いた表情で明人と悠真を見る。
「いや、噂には聞いていましたが……凄いですね! あの黄金竜を本当に倒すなんて……」
「ああ、ワイらに取っちゃ朝飯前や。簡単、簡単」
明人がニシシシと笑う。前の席まで行くと、ルイが立ち上がってこちらを向く。
「お疲れ」
悠真は「おう」と返事をし、ルイと
拳
を合わせた。
三人は席に座り直し、シートベルトを締める。偵察機【RC-135】はアメリカの東海岸、ジョン F. ケネディ国際空港へと着陸した。