From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (327)
第325話 エンパイヤ・ステートビル
大きなホテルのような入口。悠真たちは三人のアメリカ人と共に、エンパイヤ・ステートビルに足を踏み入れる。
有名なビルだけに、悠真も名前ぐらいは知っていた。
だけど実際に見るビルは、想像を遥かに超えるものだった。エントランスはシックな色合いで美術館のよう。
そこから訪問者を迎える美しいロビーが見える。
悠真が呆気に取られていると、前を歩いていたジャックが振り返った。
「な、すげーだろ! 住民が全員避難しちまったからな。俺たちはこのビルを使いたい放題って訳よ。本来なら俺らみたいな庶民が来るところじゃねーんだけどな」
楽しそうに笑うジャックに、悠真は「はぁ……」と答えるしかなかった。
豪奢なロビーを歩き、エレベーターの前で止まる。ロッドと名乗った白人の
探索者
がボタンを押した。
六人はエレベーターに乗り込み、上階へと向かう。白人が押した階は六十八階。
それを見て、明人が眉根を寄せた。
「そんな高い階に行って大丈夫なんか? 黄金竜が飛び回ってるんやから、攻撃されることもあるやろ」
「大丈夫だよ、心配しなくても。この辺りに黄金竜が近づくことはないから」
ロッドが笑いながら話す。「どういうこっちゃ?」と不思議がる明人に、もう一人の白人、ニコライが説明する。
「このビルや近くのビルには、対魔物用の兵器が配備されてるんだ。魔物もそれが分かってるから近づいて来ないんだよ」
悠真たちはピンときた。イギリスに配備されていたものだ。
確かアメリカにもあると誰かが言っていたな、と悠真は思い返す。
明人が「ほんなら、この辺りに魔物は近づかんちゅうことか?」と聞くと、今度はジャックが答える。
「いや、あるのは対空兵器だけだからな。地上から来る魔物は防げない。だからなるべく高い階の部屋を使ってるんだ」
明人は腕を組みながら「なるほど」と唸り、悠真とルイの二人も納得した。
そんな会話をしている間にエレベーターは六十八階に到着する。外に出ると、キラキラと光る黄金の廊下が続いている。
いくらなんでも金かけすぎじゃないのか? と悠真は思うものの、滅多に来れない場所にテンションは上がっていた。
アメリカの
探索者
三人は扉の前に立ち、ノックもせずにそのまま入っていく。
悠真たちもあとに続いた。そこは普通の部屋ではなく、ビジネスで利用するような会議室。中には十人ばかりの人間がおり、性別や年齢、人種もバラバラだ。
「どうしたジャック。その人たちは?」
ガタイのいい三十代ぐらいの男性が歩いてくる。ジャックとガシリと握手を交わし、互いの背中をポンポンと叩く。
ジャックは振り返って悠真たちを見た。
「街で見つけたんだ。日本から来た
探索者
らしい」
「日本!? まさか海を渡って来たのか? ちょっと信じられんが……」
困惑する白人を
余所
に、ジャックは悠真たちに視線を向ける。
「紹介するよ。こいつがこの
探索者集団
『ダイアウルフ』のリーダー、オーランドだ。気のいいヤツだから、分からないことがあったらなんでも聞いてくれ」
ジャックがバンバンとオーランドの肩を叩く。迷惑そうな顔をするオーランドだったが、悠真たちに明るい笑顔を向けてきた。
「まあ、君らがどこから来たかはともかく、ここは非常に危険な場所だ。長くいない方が賢明だと思うよ」
「危険じゃない場所なんて、どこにあんねん?」
明人が軽口を叩くと、ルイが「明人!」と注意する。明人は気にする様子もなく、両手を頭の後ろで組み、口笛を吹く。
「確かにな。今から日本に帰るのも困難だろう。もし君たちが良ければ、我々と行動を共にしないか?」
「それはありがたいです。オーランドさんたちは、どんな活動をしてるんですか? それに
探索者集団
のメンバーって他にいるんでしょうか?」
ルイが質問すると、オーランドは笑顔で答える。
「
探索者集団
のメンバーは、俺を入れて二十人ほどだ。俺たちはアメリカの、まあ、中堅の
探索者
だ。そんな重要な任務をこなしてる訳じゃない。この辺りの魔物の動向を監視するのが仕事だな。それを定期的に報告しているんだ」
「報告? 報告する方法があるんですか?」
ルイが興味深そうに尋ねる。
「はは、そうだな。通信できなくなって久しいから、どうやってるかは気になるだろう。実際見た方が早いよ。こっちに来てくれ」
オーランドは悠真たちを連れ、部屋を出て同じ階の別の部屋に向かった。
扉を開き、中に入った瞬間、悠真は「あ!」と声を漏らす。
そこにあったのはいくつもの『ケージ』。オーランドたちがなにで連絡を取っていたのか、すぐに分かった。
「鳩! 伝書鳩を使って連絡とっとるんか? すごいアナログな方法やな」
明人が感心して辺りを見回す。悠真とルイも驚きを隠せない。部屋の中はちょっと臭かったが、聞けば百羽近くの鳩をここで飼育しているようだ。
臭いがきついのも当然だろう。
「アメリカ軍では『魔導装置』を用いた通信機器もあるんだけど、数が少なくてね。俺たちみたいな末端じゃ、こんな通信手段しかないよ」
「でも、鳩を放って魔物に襲われないんですか? 途中で殺されたりとか……」
ルイの疑問に、オーランドは「ハッハッハ」と豪快に笑った。
「鳩を襲うような魔物は黄金竜しかいないが、あの魔物は鳩など気にしないよ。それより鷹やカラスに襲われる可能性の方がよっぽど高いね」
ルイは「なるほど」と納得した様子だ。
しかし、悠真は今ひとつ腑に落ちなかった。魔物の動向を把握したところで、今の現状が変わるとは思えない。
一体、アメリカは今後どうするつもりなのだろうか?
「オーランドさん、今アメリカ政府は機能してるんですか? それとも
探索者
が先導して魔物と戦ってるんですか?」
悠真の質問に、オーランドはニッコリと微笑む。
「海外から来たのなら、そこは一番気になるところだろうね。アメリカの政府はちゃんと機能してるし、
探索者
も健在だ。今は
探索者
と軍が、がっちりタッグを組んで連携してるって感じかな。まあ、最終目的は
あ
い
つ
の
打
倒
なんだけど」
「あいつ?」
悠真が尋ねると、オーランドはわずかに口の端を上げた。
「破壊神と呼ばれる魔物……【黄の王・ガルドムンド】。ヤツがこの辺りに来ないかどうか、それを見張るのが俺たちの役目だ」