From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (328)
第326話 アメリカの魔法付与武装
「ガルドムンド……【黄の王】の名前が分かってるんですか?」
悠真は眉を寄せながら尋ねる。するとオーランドはフフッと微笑み、ケージの扉を開けて鳩の頭を撫でる。
「そりゃぁ知ってるさ、アメリカとイスラエルは繋がりが深いからね。イスラエルにある『国際ダンジョン研究機構』の情報は、他の国より多く入ってくるよ」
「その【黄の王】がこの辺に来るちゅうことか!?」
興奮した明人が一歩前に出る。オーランドはケージを閉め、悠真たちに向き直った。
「確かに、【黄の王】はこの近くに来たことがある。でも神出鬼没でね。またここに来るかどうかは、正直分からないんだ」
「なんや! 期待させよって」
明人はガッカリして頭を振る。そんな明人に代わって、ルイが口を開いた。
「それで、もしこの辺りに【黄の王】が現われたら、みなさんはどうするつもりなんですか?」
「そりゃぁ、連絡して討伐隊が来るのを待つさ」
当たり前のように言うオーランドに、ルイは「討伐隊?」と聞き返す。
「アメリカ最強の
探索者集団
、”プロメテウス”を中心とした討伐隊だよ。【黄の王】を倒すために作られた組織だからね。そりゃ、強いのなんのって――」
「アルベルトさんもいるんですよね!」
ルイが食い気味に口を挟む。オーランドは苦笑して「もちろん」と答えた。
「討伐隊のリーダーは”炎帝アルベルト”だよ」
それを聞いて、ルイはホッと胸を撫で下ろす。プロメテウスが壊滅した、という噂を、まだ心配していたのだろう。
会話が途切れたところで、悠真は一番気になっていたことを口にする。
「アメリカの犠牲者ってどれぐらいいるんですか? それに、生き残った人たちって今どこに避難してるんですか?」
「う~ん、そうだな」
オーランドの表情がわずかに曇る。
「魔物に殺された人の数はハッキリしない。五千万人とも六千万人とも言われているけど、時間が経っているからもっと増えているかも……」
やはり、かなりの犠牲者が出ているようだ。悠真が暗い顔で
俯
くと、オーランドが「でもね」と声を弾ませる。
「大多数の人たちは避難して、無事に暮らしているよ。【黄の王】は自分が出てきたダンジョン『ラース・オブ・ゴッド』を中心に行動してるから、そこから離れた場所は比較的被害が少ないんだ」
「”ラース・オブ・ゴッド”って、どこにあるダンジョンやったっけ?」
明人に問われたオーランドが笑顔で答える。
「アメリカ北西部のモンタナ州だよ。だから、【黄の王】が来ない南部やアラスカに避難した人が多いんだ。もっとも、別の魔物に襲われることはあるけどね」
「でも、モンタナ州を中心に動いてるんなら、ニューヨークはかなり遠いですよね。だとしたら【黄の王】はどうしてここまで来たんですか?」
ルイが疑問をぶつける。それは悠真も不思議に思った。北西部をテリトリーにしているなら、ここまで来るはずがない。
ニューヨークに避難民が多くいてもいいはずなのに。
「それはまた別の理由があるんだ。それは――」
オーランドが答えようとした時、部屋の扉が乱暴に開け放たれた。
「オーランド! ビルの下に魔物の群れが集まってる。ほっとくとマズいかもしれないぞ!」
報告しに来たのは悠真たちを案内してくれた
探索者
のロッドだ。その話を聞いて、ジャックやオーランドの顔にも緊張が走った。
オーランドはすぐに指示を出す。
「ジャック、みんなを集めてくれ」
「ああ、分かった」
ジャックは
踵
を返し、急いで部屋を出ていく。
「すまないね。来て早々厄介ごとに巻き込んでしまって。この辺に魔物が集まることはなかなかないんだけど……」
苦笑いするオーランドに、明人はニヤリと笑う。
「いやいや、ちょうどええで。運動がてら”雷の魔物”をぶっ倒しに行こうや!」
テンションが上がる明人に、オーランドは小さく首を振る。
「残念だけど、下に集まってるのは”雷の魔物”じゃないと思うよ」
「なに!? この辺は雷の魔物が多いんとちゃうんか?」
「そのことは、あとで話すよ。君たちは戦わなくていい。俺たちが討伐に行くから、それを見ていてくれ」
悠真たちは部屋を出て行くオーランドの背中を見送った。静かになった室内では、鳩のクックー、クックーという鳴き声だけが響いている。
「僕たちも行こうか。もしもオーランドさんたちが苦戦するようなら、僕たちが助太刀しないと」
ルイの言葉に、悠真は「そうだな」と同意し、三人で一階に下りることにした。
金ぴかな廊下を抜け、エレベーターで一階まで行き、豪奢なエントランスを歩く。
正面の入り口から外に出ると、
探索者
たちの姿は見えなかったが、ドンッドンッという衝撃音が響いていた。
「あっちだね」
「ああ」
ルイが視線を向ける場所に、三人は足を進める。悠真はリュックから三つに分かれたピッケルを取り出し、歩きながら組み立てる。
ルイと明人も武器を構え、いつでも戦えるようにしておく。
しばらく歩くと、ビルの陰で火花が散っているのが見えた。
悠真たちは足を早め、ビルに近づいていく。そこで見たのは三体の大きな魔物と、その魔物と戦う二十人ばかりの
探索者
たち。
パッと見る限り、
探索者
側が押されているように見える。
「あれは……ペルーダ、それにファイヤ-ドレイクとワイバーンだね」
ルイが言った魔物たちを見る。ペルーダはブラキオサウルスに似た魔物で、口に火種を溜めていた。
ファイヤードレイクとワイバーンは空から
探索者
たちに襲いかかる。
「アメリカの
探索者
が持ってんのは最新の【魔法付与武装】みたいやけど、空からの攻撃は防げへんな」
明人が言うように、空から放たれる炎の
吐息
に、
探索者
たちは逃げ惑っている。
剣や槍が竜に届くはずがない。しかし、明らかに通常とは違った武器を持つ
探索者
たちもいた。
黒人のジャックは”盾”の付いた
厳
つい機関銃を空に向けている。
何十発もの弾丸がファイヤードレイクに炸裂していた。
探索者集団
のリーダーであるオーランドも、バレルに剣を装備した銃剣のようなスナイパーライフルを構え、ワイバーンに狙いを定めている。
竜たちはバサリバサリと羽ばたき、かなり嫌がっているように見える。
悠真はハハと頬を崩す。
「すげー! イギリス軍も同じような武器を使ってたけど、威力が段違いだな」
ルイも頷いて空を見る。
「確かに……あれは
探索者
用に作られた武器だね。軍人が使えるようにカスタマイズした物とは、次元が違うよ」
ジャックやオーランドの戦いに、悠真は目を輝かせた。
「…………あの武器……かっこいいな」