From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (330)
第328話 最強との再会
どこまでも続く高速道路を、黒のワゴン車が走り抜ける。
外を見れば、
山間
ののどかな風景が広がっていた。
乗っていたのは悠真、ルイ、明人の三人。そして運転手としてジャックがハンドルを握っている。
行き先は”プロメテウス”が現在拠点にしているインディアナ州だ。
車で行くと十時間くらいかかるらしく、明人は「しばらく寝るわ」と後部座席で横になってしまった。
助手席に乗っていた悠真は、ハンドルを握るジャックに話しかける。
「そういえば、ニューヨークに【黄の王】が来た理由を聞いてませんでした。なんで縄張りから外れた場所まで襲いかかってきたんですか?」
「ああ、その話か」
ジャックは前を見ながらフフと笑う。
「ニューヨーク……まあ、東海岸には『黄色のダンジョン』がいくつかあるんだ。黄の王はなぜか『黄のダンジョン』の近くに現れる傾向がある」
「自分の仲間を集めてるんですか?」
「いや、黄の王は一匹狼なんだ。仲間を作ったりはしない」
「じゃあ、どうして……?」
悠真は不思議そうにジャックを見つめる。
「黄の王は
雷
属
性
の
魔
物
を
殺
し
て
回
っ
て
る
ん
だ
」
「えっ!? それってどういうことですか?」
その話に悠真が驚いていると、後ろの席に座っていたルイも「本当ですか?」と言って身を乗り出す。仲間である魔物を殺すなんて、とても信じられない話だ。
「本当だよ。だからニューヨーク周辺では、雷の魔物が少ないんだ。どうして黄の王が同族を襲うのかは分かってないが……それを調べるのも討伐隊の仕事って訳だ」
「そうなんですか」
悠真は視線を正面に向ける。赤の王や緑の王は仲間を引き連れて襲ってきた。
それに対し、青の王は単独で戦っている。王によって戦い方が違うのは分かるが、それにしても【黄の王】は異質だ。
魔物を殺しまくる魔物なんて、聞いたことがない。
悠真はなんともいえない気持ちになる。
車は高速道路を走り抜け、一路、目的地であるインディアナポリスに向かった。
◇◇◇
インディアナポリス美術館――
巨大なマンモスの骨格標本がある展示室。そこに、ベンチに腰掛ける背の高い男がいた。なにをする訳でもなく、ただ物言わぬマンモスを眺めている。
そんな男の後ろから、褐色の肌の女性が近づいてきた。
「アルベルト、ニューヨークの拠点から連絡が来ました」
「また鳩さんかい?」
アルベルトは両手をパタパタと振って、鳩のマネをする。ミアは「はぁ~」と溜息をつき、話を続けた。
「なんでもニューヨークの拠点に日本の
探索者
が来たそうです」
「日本の
探索者
? 日本から来たのかい? それはすごいね」
アルベルトは目を輝かせ、渋面のミアを見る。
「興味がありますか?」
「ああ、もちろん。そんな面白い
探索者
なら、ぜひ会ってみたいよ」
「それは良かった。今こちらに向かっているそうです。もうすぐ到着するでしょう」
「え? そうなの」
アルベルトはベンチから立ち上がり、笑いながら頭を掻く。
「だったら歓迎しないとね。黄色の王様に動きがなくて退屈だったから、丁度いいや」
アルベルトは部屋の出口へ向かい、扉を開く。外にいたのは数人の男女。全員が同じ制服を着ており、ただならぬオーラを放つ。
彼らこそ世界最強の
探索者集団
、”プロメテウス”のメンバーたち。
アルベルトはそのメンバーを引き連れ、美術館の入り口へと向かった。
◇◇◇
悠真たちを乗せた車は高速道路を降り、ビルが建ち並ぶ商業地に入っていく。
ここでは人の姿をちらほら見かけた。どうやらニューヨークのような無人地帯ではないようだ。
「あの人たちって、この街の住人なんですか」
悠真に問われたジャックは、ハンドルを回しながら「いや」と答える。
「あれは住人じゃない。ここに集まってる討伐隊と、その関係者だ」
「関係者?」
「直接戦ったりする
探索者
じゃないが、研究や情報収集、分析なんかを担当する学者や政府の人間だよ」
「なるほど……それにしても、こんなにいるんですね」
悠真は窓の外を見ながら感心する。恐らく、何千人とここに集まっているのだろう。車は大きな建物の前で止まる。
全員が車外に降りて建物を見上げた。
「この美術館にアルベルトがいるはずなんだが……」
ジャックは辺りを見回してから、美術館の入り口に向かう。悠真たちもそのあとについていった。
いよいよアルベルトに会える。悠真は少し緊張していたが、それは隣を歩くルイも同じようだった。唯一、明人だけはなにも考えていないようだが。
先導するジャックが扉に近づく前に、自動ドアが開いた。
中から出てきたのは背の高い男性。その後ろから褐色の女性と、七人ほどの男女が姿を現す。
悠真に取っては久しぶりの再会だった。
「炎帝……アルベルト……」
こちらに顔を向けたアルベルトはフフと微笑み、悠真を見る。
「やっぱり君だったか、日本から来た
探索者
と聞いてね。すぐに君の顔が浮かんだよ」
朗らかな笑顔。だが周囲にいる人間は違った。
「なっ!? お前は――【黒鎧】!!」
褐色の女性が目を見開き、悠真を睨む。悠真も女性のことを思い出した。
アルベルトの右腕にして”プロメテウス”の副リーダー。第二階層である氷魔法を使いこなすミア・イネス!
悠真はミアの魔法を受けたことがあったため、思わず身を強張らせる。
「この男は敵だ! 全員、囲め!!」
ミアの指示でプロメテウスのメンバーが戦闘態勢に入る。あっと言う間に展開して悠真たちを囲んだ。
全員が武器を構え、今にも襲ってきそうだ。
「おいおい、なんやいきなり! こっちは援軍に来たったんやで、歓迎するんが常識やろ!!」
「そうです! 僕たちは敵じゃありません。話し合いましょう!」
明人とルイがなんとか止めようとするが、ミアは聞く耳を持たない。腰から短剣を抜き、正面に構える。
ミアの周囲に冷気が漂い、気温が一気に下がる。
慌てふためいたのはジャックも同じだった。
「ま、待って下さい! 彼らは【黄の王】を倒すために来たと言っています。我々を助けてくれたし、敵なんかじゃありません。それにめちゃくちゃ強いんですよ。戦うべきじゃない!」
「……ふぅ~ん、そんなに強いのかい?」
アルベルトが興味を引かれたようにジャックに尋ねる。
「ええ、そりゃあもう」
アルベルトはニヤリと笑い、ミアの肩を叩く。
「まあまあ、ミア。彼らにもなにか事情があるのかもしれない。いきなり剣を向けるのはさすがに乱暴だよ」
「し、しかしアルベルト! あの【黒鎧】の恐ろしさは、あなたが一番分かっているはずです。ヤツが暴れ出したら簡単には止められないんですよ!!」
アルベルトはミアの前に出て、悠真の近くまで歩み寄る。
「ア、アルベルト!」
ミアが心配して声をかけるが、アルベルトは気にせず、落ち着いたまま悠真を見下ろしていた。
「君は本当に僕たちの味方なのかい?」
「……そのつもりですけど」
悠真とアルベルトの間に、ピリピリとした緊張感が漂う。
「そうか、私は君のことを信じようと思う。でも、ここにいるみんなは君が暴れ出さないか心配なようだ。その不安を払拭しない限り、共闘は難しいと思うよ」
悠真は目をすがめ、アルベルトを
睨
める。
「つまり、どうしろって言うんですか?」
「簡単さ! 君が怪物的な力を使っても、暴走することがないと示せばいいんだよ。すごく分かりやすいだろ?」
アルベルトの表情が、まるで子供のように明るくなった。
後ろにいたミアは肩をすくめ、やれやれといった感じで頭を振る。それを見た悠真は嫌な予感がした。
「それって、まさか――」
アルベルトは嬉々として目を見開く。
「そう! 僕と戦ってみればいいってことだよ」