From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (331)
第329話 炎と氷の激突
アルベルトは虫も殺さないような温和な表情をした男だ。
だが、その体から放たれる殺気に、悠真とルイ、そして明人の背筋が凍りつく。
「おいおい、なんちゅう威圧感出してくんねん、このおっさん! 洒落にならんで!」
「ゆ、悠真……」
明人とルイが困惑する中、悠真はキッとアルベルトを見上げた。
「信用できるかどうか、戦いで判断するって訳か……顔は穏やかなのに、相変わらず武闘派だな」
悠真もハハと笑みを零す。
「上等だ! 再戦といこうぜ、”炎帝アルベルト”!!」
◇◇◇
悠真はアルベルトに案内され、美術館の隣にある大きな空き地に来ていた。
綺麗に刈り込まれた芝生が、陽光を照り返している。悠真とアルベルトの二人は、少し離れた場所で立ち止まり、互いに向き合った。
気持ちのいい風が二人の間を吹き抜ける。
「君と戦うのは半年ぶりぐらいかな? 初めて見た時は、その強さに驚いたよ」
アルベルトが微笑みながら話しかけてくる。悠真は鋭い眼光を相手に向けた。
「俺もラーメン屋で出会った外人さんが、まさか最強の
探索者
だなんて思わなかったよ。あんたは噂以上に強かったけどな」
二人ともイヤホン型翻訳機を耳にしているため、会話に支障はない。
「そう言ってもらえると嬉しいね。君がどうして自由に歩き回っているかは知らないが、前より強くなってる感じがする。色々な戦いをくぐり抜けて来たのかな?」
「俺がどれぐらい強くなったか、自分で確かめればいいだろ」
悠真とアルベルトはニヤリと笑い、臨戦態勢に入った。
周りで見ていたルイや明人、そしてプロメテウスのメンバーも、ただならぬ緊迫感に息を飲む。
先に動いたのは悠真だ。『金属化』を発動し、走り出した瞬間には【黒鎧】に変わっていた。プロメテウスのメンバーの多くは、日本で【黒鎧】を見ている。
黒く禍々しい怪物の姿に、ミアを始め、メンバーの表情に緊張が走った。
黒鎧になった悠真はそのまま突っ込んで行く。だが、アルベルトに慌てる様子はない。
冷静なまま、両手を胸の高さまで上げる。アルベルトの周囲に炎が渦巻き、彼は静かに口を開いた。
「……
噴火爆発
」
悠真の足元が一瞬でマグマに変わり、爆発して地面を吹っ飛ばす。
なんとかかわした悠真だが、アルベルトは手を緩めない。何度も大地をマグマに変え、次々と爆発を起こした。
火と噴煙で黒鎧の姿は見えなくなる。
ミアは「仕留めた!」と思ったが、噴煙の向こうから現れたのは、全身に青い紋様が刻まれた【黒鎧】だった。
紋様は鮮やかに輝き、周囲の温度を下げていく。
「ほう、すごいね。日本であった時より、遙かに強力な魔力を感じるよ」
感心するアルベルトを無視し、悠真は駆け出した。全身に”水魔法”を纏っていれば、いかにアルベルトの爆炎でも無効にできる。
そう考えた悠真は右拳を握り込み、アルベルトに殴りかかった。
「え?」
悠真は素っ頓狂な声を出す。目の前にいたはずのアルベルトが消えたからだ。辺りを見回すと、アルベルトは背後に回り込んでいた。
笑顔のまま、こっちこっちと手招きしている。
「野郎!」
悠真はすぐに反転し、アルベルトに殴りかかる。しかし、何発打っても相手の体に当たらなかった。
アルベルトの足元を見れば、移動する瞬間、足裏に小さな爆発を起こし、移動速度を上げている。
ルイも行っている移動方法だ。だが練度が違い過ぎる。
そして拳が当たりそうになっても、体の周りに張られた”魔法障壁”によって受け流されてしまう。
その巧みな戦い方に、改めて思い知らされる。
――このおっさん……強い!!
悠真が手をこまねいていると、アルベルトはやれやれと首を振る。
「君の力はそんなもんじゃないだろ? 本気でやって構わないんだよ」
明らかな挑発だった。しかし、
血塗られた
鉱石
を使えば、最悪、アルベルトを殺してしまうかもしれない。
このあと一緒に戦っていくんだ。さすがにそれはできない。
悠真が悩んでいると、アルベルトはフッと頬を緩める。
「君が本気を出さないなら、こっちからいかせてもらうよ!」
アルベルトが右手を振ると、周囲に炎が噴き上がり、その火が形を変えていく。現れたのは長い胴体を持つ炎の龍。
しかも三体同時に鎌首を持ち上げた。
「うっ!? これは――」
悠真は龍を見上げて絶句する。間違いなく第三階層の火魔法。
悠真ですら、火の魔物に変身しなければ使えない高等魔法を、アルベルトは生身で難なく使っている。
やはり最強の名は伊達じゃない。
悠真が二の足を踏んでいる間に、アルベルトは右手を前にかざす。
「行け……そして焼き尽くせ」
三頭の龍は一斉に動き出した。空を泳ぎ、蛇行しながら黒鎧に襲いかかる。
その時、離れた場所で見ていたルイが大声を出す。
「悠真! 使って!!」
ルイが投げ放った物が、クルクルと回転して飛んでくる。悠真は右手でガシリと掴んだ。それは戦闘になる前、ルイに預けておいた”ピッケル”だ。
魔物でもないアルベルトには必要ないだろうと思ってルイに持っててもらったが、そんな悠長なことをやってる場合じゃない。
悠真はピッケルを握りしめ、ヘッドの部分に魔力を込める。
イギリス遠征で大量に増えた”水の魔力”。ピッケルは青く輝き、パリパリと凍っていく。
「なめるなよ!」
向かってくる龍の頭にピッケルを叩きつけると、その瞬間に爆発した。
辺りに冷気がまき散らされ、炎の龍は消滅する。さらに二頭の龍が襲いかかって来るが、悠真は冷静にピッケルを振るう。
氷のハンマーと化したピッケルは、炎の龍をなぎ払った。
二頭の龍は爆発し、周囲に大量の炎が広がるものの、冷気によってかき消されてしまう。
悠真は氷のハンマーを構え直し、正面にいるアルベルトを睨む。
アルベルトもまた、微笑みながら黒鎧となった悠真を見据える。
「やっぱり強いね。半端な力では、君を倒せそうにないな」
アルベルトは胸の前で両手を構える。手の内側で火球が作り出され、メラメラと温度を上げているようだ。
「これなら効くんじゃないかな?」
妖しい笑みを浮かべたアルベルトに、悠真の背中に悪寒が走った。作り出された火球が黒く染まっていたのだ。
――あれは……第四階層の火魔法! 人間に作り出せる代物なのか!?
戸惑う悠真だったが、まともに喰らえばただでは済まない。こちらも本気を出さなければ!
悠真はキマイラの宝玉に意識を向ける。【王】の宝玉に反応はない。だとすれば、使えるのはこれだけだろう。
左手の宝玉が激しく光る。悠真の周りに水流が
迸
り、徐々に形を成していく。
背中に
水
の
翼
が展開され、肩や頭部にクリスタルの突起物が生えてきた。コングロマリットの能力によって、クリスタルドラゴンの力が引き出される。
最後に氷の竜の頭が左手に再現された。
「これで決着をつける!」
左手の竜頭が
顎
を開け、氷の魔力を集める。極限の炎と極限の氷。二つの魔法を高め合った悠真とアルベルトは、互いの技を同時に放った。