From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (332)
第330話 地下シェルター
漆黒の火球と水の弾丸が空中で衝突した瞬間――激しい爆発が起こった。
衝撃波が辺りに広がり、ルイや明人、ミアは腕で顔を守りながら必死に耐える。煙から上空に抜けたのは、水の羽を広げて飛び立った悠真だ。
空で止まり、左手の竜頭を地上に向けている。
そこにいたのは無傷で
佇
むアルベルトだ。口の端をつり上げ、楽しげに空を見つめている。
「すごいね。単に水の魔力を纏うだけじゃなく、そんな姿に変身できるんだ。だったらこっちも”ギア”を上げないといけないね」
アルベルトの周囲で、炎が螺旋状に渦巻く。するとアルベルトの体が、ゆっくりと浮かび始めた。
「な、なんや、あれ! なんで”火魔法”で浮かぶことができんねん!?」
驚きを隠せない明人に対し、ルイが冷静に状況を分析する。
「たぶん、炎を螺旋状に展開することで、凄まじい上昇気流を作り出してるんだ。その気流を”魔法障壁”で掴み、浮き上がってるんだよ」
「そんなこと、簡単にできるんか?」
「いや……普通の人間にできるはずがない。アルベルトさんの圧倒的な能力があって初めて実現する技だ」
ルイと明人の二人は、困惑しながら眼前の戦いに視線を戻す。アルベルトは三十メートルほど上昇し、浮かんでいる悠真と向かい合った。
一瞬の静寂の後、悠真がバサリと羽ばたき飛翔する。
アルベルトも動いた。手の平から何発もの”火球”を撃ち出す。高速で飛んでいく火球を、悠真は飛行しながらギリギリでかわしてゆく。
火球は空中で次々に爆発。悠真も押されっぱなしのまま黙ってはいない。
左手の竜頭をアルベルトに向け、
顎
に魔力を集める。
「喰らえ!!」
竜の口から放たれた”水の弾丸”。何発も発射して当てようとするが、アルベルトは空中で軽やかにかわし、逆に火球を放ってくる。
どちらの攻撃もなかなか当たらなかった。外れた”火球”は空中や地面で烈火の如く爆発し、水球は爆散すると、辺り一帯を氷の結晶で覆ってしまう。
互いに一歩も引かない攻防。アルベルトは決着をつけるため、己の魔力を最大限に引き出す。
「まさか、ここまで強いとは……それでも、これはかわせないんじゃないかな?」
アルベルトの周りで渦巻いている炎が、黒く変色していく。轟轟と燃えさかり、やがて炎の龍へと姿を変えた。
第三階層と第四階層を合わせた火の魔法。
黒炎の龍は頭数を増やし、五頭の龍が空中に現れる。
悠真に狙いを定め、空を泳いで一斉に襲いかかった。
「上等だ!!」
悠真は水の魔力を全解放する。周囲の気温はマイナスまで下がり、ルイたちが立っている地面が白く凍り始めた。
それは悠真がイギリスで手に入れた大量の魔宝石の効果によるもの。
【青の王】の魔宝石を含め、取り込んだ水の魔力を全解放すれば、とんでもないことになってしまう。
そのことを知っていたルイと明人は「マズい!」と慌て出す。
このままいけばアルベルトの命も、ここにいる人間もただでは済まないかもしれない。ルイは明人の顔を見て、互いに頷き合う。
空を見上げ、同時に駆け出した。それを見たミアは「あっ! お前たち!」と叫び声を上げる。
明人はゲイ・ボルグに飛び乗り一気に上昇する。ルイは暗黒騎士の能力を発動し、アルベルトの真下まで高速移動した。
この戦いは止めるしかない!
鞘から刀を抜いたルイは、アルベルトに向かって斬撃を放つ。上空に飛び立ったのは三羽の鳥。
炎の翼を広げ、一直線に向かっていく。
「おや? これは見事な第三魔法だね」
アルベルトは鳥に手をかざし、火球を放つ。
三発の火球は火の鳥に直撃して、空中で爆発した。難なく攻撃を無効化されたルイだが、特に慌てることなく上空を見上げる。
「アルベルトさん! もう悠真が力をコントロールできることは分かったはずです。これ以上の戦いは無意味でしょう」
ルイに諭されたアルベルトは、ポリポリと頬を掻く。
「ああ、確かにそうだね。つい、夢中になって戦いにのめり込んでしまったよ。ごめんね」
アルベルトはそう言ってゆっくりと降りてくる。ルイはホッと胸を撫で下ろし、悠真がいる空を見た。
そこでは悠真の前に明人が立ちはだかっている。
やめるように説得しているのだろう。悠真も納得したようで、空から降りてきた。
ひょっとすると、まだ続けたかったのかもしれない。それほど熱くなる戦いだったのだろう。
ルイは一つ息を吐き、降り立つアルベルトの元へと向かった。
◇◇◇
悠真たちが案内されたのはインディアナポリス美術館の近くにある商業施設。その地下に設置されたシェルターに足を踏み入れる。
中はかなり広く、数十人の関係者が行き交っていた。悠真と明人はキョロキョロと辺りを見回し、「へ~」と唸り声を上げる。
ルイも先鋭的な施設に、これが【黄の王】を倒すための前線基地かと感心する。
「さあ、こっちこっち。この部屋に入ってくれ」
アルベルトが笑顔で手招きする。入ったのは綺麗な応接室のような場所。
悠真たちは緊張した面持ちのまま、ソファーに腰掛ける。ふと見ると、部屋に入って来たのはアルベルトとミアの二人だけ。
他の
探索者
たちは、外で待機しているようだ。
「さて、君たちの話を聞こうか。我々と一緒に【黄の王】と戦うと言うが、そんなことをして君らになんの得があるのかな?」
対面のソファーにアルベルトが座り、足を組んで悠真たちを見つめる。
朗
らかな笑顔を向けるアルベルトだが、言いようのない緊迫感が張り詰める。答えたのはルイだ。
「僕たちはボランティアで各国を回っている訳じゃありません。魔物を倒す代わりに”白の魔宝石”を報酬としてもらっています」
「白の魔宝石? どうしてそんな物を集めてるんだい?」
「それは……」
ルイは悠真の表情をチラリと見る。悠真はまっすぐにアルベルト見つめたまま、なにも言おうとしない。
ここで自分が楓のことを語るのは筋違いだろう。
そう思ったルイはアルベルトに視線を戻した。
「それを答える必要はないでしょう。重要なのは、みなさんが僕たちの要求に応じるかどうかです。僕たちは必ず戦力になりますよ」
ルイの言葉に、アルベルトはソファーの横に立つミアに目を向ける。ミアはなにも言わず、冷徹な視線を返した。
「OK、分かったよ。君たちの実力は充分理解している。こんな状況だ。戦力があるに越したことはない」
「じゃあ……」
興奮したルイの顔を見て、アルベルトはニコリと笑う。
「白の魔宝石は確か、政府や軍がかなりの量を保有してたはずだ。マナ指数でいえば20000ほどはあるんじゃないかな? 用意できるよう、政府と交渉するよ」
悠真やルイ、明人の表情がパッと明るくなる。マナ指数で20000は大きい。
アメリカで【黄の王】を倒せば、この旅の目的、楓を生き返らせる魔法が使えるようになる可能性がある。
悠真は立ち上がり、右手を前に出す。
「よろしくお願いします!」
アルベルトも立ち上がり、「交渉成立だね」と言って悠真と握手を交わした。