From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (334)
第332話 飛行部隊
悠真たちが辿り着いたのは、広い発着場のような場所。
地下にこんなところがあるのか、と驚きつつも、多くの人が集まっている航空機に向かう。変わった形の飛行機だが、悠真には見覚えがあった。
「この飛行機、自衛隊にもあったな」
悠真がつぶやくと、ルイが航空機を見て
頷
く。
「V-22『オスプレイ』だね。確かに、日本の自衛隊も配備してる輸送機だよ」
ヘリコプターのような回転翼がある機体が、全部で五機並んでいる。三人はその内、一機に近づいていく。
軍人が荷物を積み込む横に、ミアの姿もあった。
「ミアさん」
ルイが声をかけると、ミアは振り返り、悠真たちに視線を移す。
「あなたたちも行く気なの? ここで待っていてもいいのよ」
「アホ言うな! なんのためにアメリカまで来たと思っとんねん。当然、行くに決まっとるやろ!」
明人が語気を強めると、ミアは「そう」と素っ気ない返事を返した。
「ついてくるならリスクは許容してもらうわ。あなたたちを守って戦うような余裕はないから」
「上等や! ワイらの力をなめんなよ!」
激怒する明人を
宥
めつつ、三人は
促
された航空機に乗り込む。各機体には軍人や
探索者
が何人も乗っていた。
探索者
は全員、”プロメテウス”のメンバーのようだ。
「それにしても、いきなり【黄の王】と戦うことになるなんて。さすがアメリカの情報網……今回は早く終わるかもしれないね」
ルイの言葉に明人も「せやな」と返す。
「まあ、早いとこ決着がつくなら、それに越したことはないやろ。もう、日本を立ってかなりの時間が経つしな」
明人は「なあ」と悠真に振るが、悠真は「ああ」と小さな声でつぶやくだけだった。
アメリカに来てから様子がおかしい悠真に、ルイと明人は困惑した表情をする。
それから十分ほどで準備が整い、オスプレイは離陸態勢に入った。
悠真たちは体を固定するベルトをしっかりと締め、離陸に備える。
ガクンッと機体が揺れたあと、上昇しているような感覚を覚える。どうやら床がせり上がっているようだ。
地下シェルターの天井が開き、オスプレイが一機づつ飛び立つ。
悠真たちが乗る機体は最後に発進し、五機全てがソルトレーク・シティへと向かい出発した。
◇◇◇
「なあ、あんた。アルベルトとの戦い見てたぜ。あんなスゲーの初めて見たよ! 俺はもう興奮しちまって……」
悠真たちが座る席の向かい側に、五人の
探索者
が座っていた。全員がプロメテウスのメンバーだが、その内に一人が話しかけてきた。
「俺はピーターってんだ。これから一緒に戦えると思うと心強いぜ! よろしくな」
ピーターと名乗ったのは、グラサンをした白人の男性。黒髪の角刈りで、やたら明るい雰囲気の
探索者
だった。
悠真が「ええ、よろしく」と答えると、ピーターは親指を立てて笑みを零す。
悠真は対面に座る五人の
探索者
を改めて見た。全員が変わった軍服を着て、グラサンをしている。
プロメテウスのメンバーは全員こんな感じだったっけ? と疑問を持つ悠真だが、機内に突然流れた警報が思考を掻き消す。
「なんや!? なんの音や?」
明人が目をすがめて辺りを見回す。悠真とルイの顔にも緊張が走ったものの、ピーターたちは落ち着いた様子だ。
「ああ、大丈夫。これは行く手に魔物がいる時の合図だよ」
「魔物って……まさか!」
ルイが青ざめていく。それを見たピーターは、両手を上げて肩をすくめる。
「そう、黄金竜だ。空を移動する場合、ヤツらは最大の障害になるからな」
「なに呑気に言うとんねん! 急いで迎撃せんと、この飛行機ごと落とされてまうやないか!」
明人は慌てて自分がしているベルトをはずそうとする。だが、ピーターは落ち着いたまま、「まあまあ、慌てるなって」と明人を
宥
める。
「こんな時のために俺たちがいるんだから」
「え?」
悠真が素っ頓狂な声を上げていると、
探索者
たちは椅子のベルトを外し、全員が後部ハッチに向かう。
「おい、開けてくれ!」
ピーターが操縦席に向かって叫ぶと、コックピットにいる軍人が親指を立てた。
後部ハッチがゆっくりと開き、機内の空気が外へ逃げてゆく。激しい風が吹き荒れ、体が持っていかれそうになる。
しかし、悠真たちはベルトをしていたため、なんとか耐えることができた。
悠真が風に耐えながら目をやると、五人の
探索者
たちは後部ハッチから次々と飛び降りていく。
全員が機外に出るとハッチがしまり、激しい風も消える。
悠真たちはすぐにベルトを外し、コックピットに駆け寄る。
「あの人たちはどうなったんだ!? どうして飛び降りた?」
訳が分からないといった様子の悠真に、操縦桿を握る軍人は笑顔を向ける。
「心配する必要はないよ。あれを見てみな」
軍人が顎をしゃくって、外を指し示す。悠真たちがフロントガラスから外を見れば、前方を滑空している五人がいた。
背中からグライダーのような翼が生え、鳥の如く飛んでいる。
「あの軍服、”スカイスーツ”みたいな機能があったんだね」
ルイが感心して声を上げる。悠真も「かっこいい~」と目を輝かせた。どうやら、全員が風魔法の使い手のようだ。
フロントガラスから見える五人の編隊は、まっすぐ遙か先にいる黄金竜を目指していた。
“風”と”雷”なら、風に分がある。
遠すぎてよく見えないものの、彼らならなんとかしてくれるだろう。悠真はピーターたちの善戦に期待した。
◇◇◇
「飛行部隊、出撃しました」
先頭を行くオスプレイ。そこに乗っていたミアが、アルベルトに報告する。
「彼らに任せておけば大丈夫だろう。あと何分ぐらいで目的地に着きそうかな?」
アルベルトは丸い窓から外を覗き、周囲を確認していた。
問われたミアは姿勢を正して答える。
「順調に進めば、あと二十分ほどです」
「そうか……ソルトレーク・シティに着いたら油断はできないね。どこから
ヤ
ツ
が来るか分からないから」
アルベルトはニヤリと笑い、ミアを見る。
その時、コックピットに乗る操縦士が声を上げた。
「レーダーに反応があります! 【黄金竜】とは別個体の魔物かと」
「別個体?」
アルベルトはコックピットに歩み寄り、眉を寄せてレーダーを覗く。
「大きいな。飛行部隊と黄金竜の会敵地点に近づいてる……ピーターたちだけで対応するのは難しいだろう」
「どうしますか?」
ミアの言葉に、アルベルトはフッと口元を緩める。
「仕方ない。僕も出るよ。サポートを頼めるかな?」
「もちろんです」
無表情のままミアが答える。彼らが乗るオスプレイの後部ハッチが開かれ、搭乗口に立つアルベルトの髪や服がバサバサと揺れていた。
「じゃあ、行こうか」
アルベルトが空中へ体を投げ出した。それを見たミアも魔法を発動する。
氷
で
で
き
た
薄
い
道
が空中に現れると、ミアはその上に飛び乗り、滑るように空を駆けていった。