From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (341)
第339話 同じタイプ
爆風が極遠に広がり、炎と煙がきのこ雲となって空高く立ち昇る。
その衝撃に耐えられる者は少なく、アルベルトとミア、ルイと明人以外の
探索者
たちは、全員吹き飛ばされてしまった。
必死に耐えるルイが、彼方を睨む。
「これは……悠真の攻撃! 【赤の王】の火球を超える威力だ」
明人も目をすがめながらニッと笑みを作る。
「さすがの【黄の王】でも、これは効いたやろ! 悠真の勝ちや!!」
ルイと明人が希望を抱く中、アルベルトとミアは冷静に状況を把握しようとする。
「確かに、直撃してればただでは済むまい。『黄のダンジョン』の魔物は再生能力も低いしね。でも……」
アルベルトの言い回しに、明人は眉根を寄せる。
「なんや!? あれで死なへん魔物がいるっちゅうんか?」
「さあ、どうだろうね」
アルベルトは立ち昇ったきのこ雲を見上げた。
「【黄の王】が展開する鉄壁の”魔法障壁”。はたして破ることができたかどうか……」
◇◇◇
悠真は肩で息をしながら正面を見る。
天高く舞った粉塵と煙。その中に
ヤ
ツ
は確実にいる。死んでなんかいない。
悠真は油断なく両拳を構えた。
煙が揺らめくと、そこから爆発したように飛び出してきたのは黄金の巨人。
まったく無傷のまま、尋常ならざる速度で突っ込んでくる。
『上等だ! 次こそぶっ倒してやる!!』
悠真の右手からメタルグリーンの剣が伸びる。そして左手の竜の口からはメタルレッドの剣が生み出された。
風を纏う剣と、灼熱の剣。
二つの剣を胸の前でクロスし、黄金の巨人を迎え撃つ。
悠真が右手の剣を横に薙ぐと、【黄の王】はその攻撃を掻い潜ってかわし、
雷
の剛拳を悠真の腹に叩き込んでくる。
顔をしかめて後ずさった悠真は左手の剣を高々とかかげ、一気に振り下ろした。
あらゆる物を溶かす”灼熱の剣”。当たれば無事では済まない。だが【黄の王】は軽やかなステップで斬撃をかわし、体を回転させて裏拳を放った。
悠真は右手でガードするが、威力が強すぎてバランスを崩す。
黄金の巨人はそこから一気に畳み掛けてきた。左右のラッシュからミドルキック、悠真が体をくの字に折ると、左のショートアッパーを打ち込んでくる。
悠真の顎が跳ね上がり、大きく後ろに
仰
け
反
る。
なんとか踏み止まった悠真だが、【黄の王】の追撃をまともに食らってしまう。腹に突き刺さる巨人の左ストレート。
思わず膝を折りそうになるも、足に力を入れ前を見る。
ガードを固めて
凌
ごうとするが、
止
まることを知らない【黄の王】の猛攻は悠真を徐々に追い詰める。
――くそっ、どうすれば……。
悠真が必死に戦う姿は、遠く離れたアルベルトたちには見えなかった。だが、何度も響く轟音で、戦っていることは容易に想像できる。
四人は息を飲んで粉塵の先を見つめていた。
「おい、どうなっとんねん? まだ戦っとんのやろ。【黄の王】はダメージを受けてないんか!?」
明人が衝突音が聞こえてくる方向を睨む。
まだ大量の煙が漂っている戦場。そこで巨人同士がぶつかり合っているのは間違いない。
「大丈夫やろうな、悠真。まさか負けるなんてことはないやろ」
焦りを隠せない明人に対し、ルイも強張った表情になる。
「【黄の王】は悠真と同じタイプの【王】なんだ。どちらも成長してどんどん強くなっていく。この戦いに関しては、本当に分からないよ」
「なにを弱気なこと言うとんねん! 悠真は【緑の王】と同じ、強力な”風の障壁”が使えるんや! 【黄の王】の雷撃なんか通るはずがない」
ルイも明人の意見に同意したかったが、懸念は
拭
えなかった。
「明人、忘れたの? 悠真がどうやって【緑の王】の”魔法障壁”を突破したのか」
「なに?」
明人は眉間にしわを寄せ、ルイを睨んだ。
「風と真空の二重障壁は、あらゆる魔法攻撃をシャットアウトした。でも唯一防げなかった攻撃」
明人のこめかみから汗が伝う。
「まさか……」
「そう、一点突破の物理攻撃。もし、”風の障壁”を突き破り、悠真の体に直接さわることができたなら」
ルイは高く舞い上がった粉塵を見つめた。
「尋常じゃない雷撃を、
直
接
体
に
流
し
こ
む
か
も
し
れ
な
い
」
不安がるルイの見つめる先、モクモクと広がる粉塵の中で、悠真と【黄の王】との戦いは続いていた。
『だあっ!』
悠真が放つ右ストレートも、【黄の王】は易々とかわし、カウンターとなる左ストレートを合わせてきた。
殴られた悠真の顔は跳ね、
堪
らず後ろに下がる。
――ダメだ。単純な殴り合いでは歯が立たない。どうすれば……。
悠真は体勢を立て直し、なんとか構えを取るが、打開策が見い出せなかった。雷の反動を利用した移動速度、卓越した格闘センス。
どれを取っても悠真を上回っている。
このままでは負けてしまう。そんな危機感を持った時、正面にいる【黄の王】の右腕に目がいった。
右手の甲の部分から、細い棒のような物が伸びている。
一瞬、なにか分からなかったが、よく見ればそれはアイスピックに似た形状だ。
黄金の巨人は右腕を引き、地面を蹴って突っ込んできた。悠真は嫌な予感がして後ろに飛び退く。
だが、相手の方が速い。あっと言う間に距離を詰められ、両者の手の届く間合いに入った。
悠真が右の正拳を打ち込むと、【黄の王】も右の正拳を放ってくる。
互いの拳が相手に当たる刹那、先に当たったのはアイスピックの先端。【黄の王】の右拳から伸びていたものだ。
アイスピックは”風の障壁”に食い込み、突き破ろうとする。
悠真は嫌な予感の正体が分かった。今、全身を覆っている”風の障壁”は、風と真空の二重構造。あらゆる魔法を防ぐことができる。
だが、唯一突破できるのが物理攻撃。自分もこの方法で【緑の王】を倒した。
アイスピックの先端が、コツンと悠真の体に当たる。この金属の体は、全ての物理攻撃を無効にする。
本来なら”風の障壁”を突破されても問題はない。本来なら――
アイスピックの先端からパチパチと光りが
迸
り、放射されたプラズマが鋼鉄の巨人に流れ込む。
『あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!』
悠真の絶叫が辺りにこだました。