From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (344)
第342話 絶対的な王者
黄金の鹿は、ルイに向かって突進してきた。
脚に雷を宿し、地面の反発を利用して走る超高速移動方法。通常の
探索者
では対応できないだろう。でも――
鹿の角が当たる刹那、ルイの姿が消える。
これには【黄の王】も驚き、足踏みして辺りを見回す。
なにが起きたのか分からなかったが、ふいに鹿の首元が爆発する。続けて右の前脚、背中、後ろ脚が爆発した。
ダメージは受けていない。それでも鹿は警戒してあとずさった。
「さすがに硬いな……直接打ち込んでも魔法障壁は破れないか」
いつの間にか鹿の背後にルイは回り込んでいた。【黄の王】はゆっくりと振り向き、目の前の敵を睨みつける。
わずかに身を屈め、角から恐ろしいほどの稲妻を放出した。
直線上の大地が蒸発していく。当然、敵も消滅したと考えた【黄の王】だが、またしても首元が爆発する。
ギロリと視線を動かせば、そこには刀を構えたルイが立っていた。
「小さくなってくれて助かったよ。これなら斬撃を直接当てられる」
微笑むルイに襲いかかろうとした鹿だが、上からなにかが降ってきた。体に強い衝撃が走り、辺りが爆散する。
黄金の鹿はわずかによろめき、空を見上げた。
そこには宙に浮かぶ人間がいて、こちらを見下ろしている。
「なんや、ルイとばっかり遊ぶなや。お前の相手はこっちにもおるで!」
鹿は雄叫びを上げ、体から数多の雷を放出した。全てをまとめて消滅させる。
そう考えた【黄の王 】だったが、細い炎が自分を囲んでいることに気づく。すぐに逃れようとしたものの、炎は四方八方に展開していた。
「”雷”で”炎”は抑えられないからね。捕まえるのは簡単みたいだ」
アルベルトが空中に浮かびながら、右手を【黄の王】に向かってかざす。開いた手をゆっくりと握り締める。
それに呼応するように、鹿を取り囲んだ『鳥籠』が小さくなっていく。
「
誘引爆破
」
鹿を囲った炎が、烈火の如く爆発した。地面は吹き飛び、炎が巨大な火柱となって立ち昇る。
距離を取ったルイが、刀を構えたまま火柱を見据える。
空にいた明人とアルベルトも、眼下の様子を
窺
っていた。誰もが分かっている。この程度では【黄の王】を倒せないと。
それでも、多少のダメージは期待してしまう。
火柱がゆらりと揺れ、炎の中から光り輝く鹿が出てくる。その体に傷などはない。
ただ悠然と立ち、正面のルイに視線を向ける。前脚で地面を何度も蹴り、耳を
劈
くほどの鳴き声を上げた。
「うっ!」
ルイは片手で耳を押さえ、顔をしかめて一歩あとずさる。
そうとう怒っているようだ。ルイは刀を構え直し、緊張感を持って【黄の王】と対峙する。
「二人とも! もう時間稼ぎは大丈夫だ。僕たちも離脱しよう!」
上空にいたアルベルトが叫ぶ。悠真を乗せた航空機が、充分な安全圏まで脱したのだろう。
だとしたら、これ以上の戦いは無意味。
自分たちも早々に逃げないと。そうは思うものの、この怪物が簡単に逃がしてくれるだろうか?
ルイの脳裏に不安が過る。だが、やってみるしかない。
「もってくれよ。僕の足……」
目の前にいる”黄金の鹿”はわずかに身を屈め、体からバチバチと大量のプラズマを放出する。
数多
のプラズマは黒く染まり、”龍”の形となって四方八方に飛んでいく。
触れれば即死するレベルの【雷魔法】。ルイは”神速”を使い、全力で走った。上空に登ってくる龍を見て、明人も逃げを決め込む。
「これ以上、相手なんかできるか!」
迫りくる雷龍をことごとくかわし、明人は高速で空を突っ切る。アルベルトにも雷竜は向かってきたが、最強の
探索者
に焦りの色はない。
「やれやれ、これはあんまりやりたくなかったんだけど……」
アルベルトはパンッと手を合わせ、ゆっくりと離していく。するとそこには小さな火球が生まれていた。
その火球を、アルベルトは前に押し出す。
「
原子核爆発
」
閃光が辺りを包む。小さな核爆発を起こしたアルベルトは、その衝撃で彼方まで吹き飛ばされた。
強力な魔法障壁を展開しているとはいえ、無傷では済まない方法。
しかし、確実に敵の視界を奪い、逃げおおせる奥の手でもあった。
爆発の煙が晴れてくると、【黄の王】はキョロキョロと辺りを見回す。だが、そこに敵の姿はない。
逃げられた――【黄の王】はそう理解したが、追いかけることはない。
黄金の鹿は
踵
を返し、ゆっくりと歩いていく。
【黄の王】は、自分が絶対的な王者だということを知っている。
故
に無駄な狩りはしない。
向かって来る敵を
屠
るだけ。
鹿は光に包まれ、その場から消え去った。
◇◇◇
「ここまで来れば大丈夫か……」
空中で静止した明人が、遥か先の大地を睨む。かなりの距離を飛んできたが、敵が追ってくる気配はない。
明人はゲイ・ボルグの穂先を西に向けた。
ルイを探すため、高速で空を駆ける。わずかに感じる”マナ”を頼りに、十分ほど探し回ると、更地になった大地になにかが見えてきた。
上から見下ろせば、それは大の字で寝そべっているルイだった。明人は近づいて声をかける。
「大丈夫か、ルイ? 生きとるか?」
「ああ……明人」
ルイは薄く片目を開け、上空を見る。
「
暗黒騎士
の能力を使い過ぎたよ。しばらくは動けそうにない」
「しゃあないな~」
明人は地上まで下り、ルイを担いでゲイ・ボルグに
跨
る。魔女が
箒
に乗るような格好で、再び浮き上がっていく。
「とりあえず、アルベルトのおっさんを探すで。それから今後のことを考えようや」
「うん……そうだね」
二人は一時間ほど空の上を
彷徨
ったが、なんとかアルベルトを見つけることができた。荒廃した大地を、テクテクと歩いている。
驚いたのはその場所だ。【黄の王】から離れること五十キロ地点。
明人やルイがいた場所から、倍以上は離れている。
つまり、アルベルトがもっとも遠くまで避難していたということだ。
「おっさん、ようこんなところまで逃げてきたな。やられたんかと思って、ちょっと心配したで」
ゲイ・ボルグから降りてきた明人の言葉に、アルベルトは苦笑する。
「まあ、歳の功かな。強い相手に会ったら、なるべく早く逃げることにしてるんだ」
「最強の
探索者
とは思えへんセリフやな」
「君たちも無事で良かった。これからのことについて話そうか」
三人は今後のことを話し合い。まずはアルベルトの案内で、悠真が運び込まれた空軍基地に行くことにした。