From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (345)
第343話 打開策
カンザス州にあるマッコーネル空軍基地。
空輸と給油を提供することを主な役割とする基地だが、現在は空軍の中継地として活用されている。
その基地の医療施設に、重傷を負った悠真が運び込まれていた。
二十四時間体制で医療、及び
救世主
による治療が行われ、なんとか命を繋ぎとめている。
そんな悠真の元に、ルイと明人、そしてアルベルトの三人が駆けつけた。
「アルベルト! 無事でしたか」
施設に現れたアルベルトに、ミアが顔を綻ばせて喜ぶ。
「ああ、なんとかね。で、三鷹悠真の状態はどうだい?」
「現在、治療中です。一時は危ないところでしたが、現在は安定してます」
その話に、後ろにいた明人が口を挟む。
「
救世主
がおるんやろ? すぐ治せるんとちゃうんか?」
ミアは「残念だけど」と言って、ふるふると首を振る。
「四人の
救世主
で集中的に魔法をかけているけど、傷の治りが遅いの。命は助かっても、もう動けなくなる可能性も……」
悲痛な表情になるミアに対し、ルイは毅然と言う。
「大丈夫です。悠真は【自己再生能力】を持ってます。時間はかかるかもしれませんが、完治はすると思います」
「自己再生能力!?」
明人が目をすがめ、ルイを睨む。
「そんな話、聞いてへんで! それって【深層の魔物】が持つ能力やろ? いつからそんなことになったんや!?」
「イギリスに入る前あたりかな。第三階層の回復魔法だと思うんだけど……」
「せやったら、なんで言わへんねん! めちゃめちゃ重要な情報やろ!!」
「言ってなかったっけ?」
「言ってへんわ、アホ!」
揉めている二人の会話を聞いたアルベルトとミアが顔を見交わす。
「なんだか物騒な話をしてますが……本当なんでしょうか?」
「さあ、どうだろう。第三階層の回復魔法? 自己再生能力?
俄
かには信じられない話だね。でも、彼らなら有り得そうだ」
病室に辿り着いた四人は、ドアを開けて中に入る。そこには慌ただしく動き回る医療関係者と、ベッドに横になる悠真がいた。
ベッドの
傍
らには、四人の
救世主
の姿も見える。
「悠真!」
近づこうとしたがルイだったが、ミアに腕を掴まれる。
「待って。今は面会謝絶の状態。私たちがウロウロしてると、かえって治療の邪魔になるわ」
「……そう、ですよね」
ルイは肩を落とし、力なくつぶやいた。
「とりあえず、アメリカの
救世主
に任せようや。悠真の意識が戻れば、自分で回復魔法が使える。そうなりゃ、一発で怪我も治せるで」
明人の言葉に、ルイは「うん」と頷き、病室をあとにした。
別のミーティングルームに案内され、長机の前に明人とルイが座り、対面にミアとアルベルトが座る。
「さて、これからどうするか話し合わないといけないね」
アルベルトが
朗
らかな表情で言う。ルイと明人は黙って頷いた。
「僕はアメリカ軍の本部に、今回のことを報告しにいかなきゃいけない。三鷹悠真をどうするかも本部に仰がないと」
「どうするかって、どういうこっちゃ!?」
明人がいきり立って身を乗り出す。今にも噛みつきそうな視線に、ルイはヒヤヒヤして目を泳がせた。
「三鷹はもっと安全な場所に
匿
った方がいいと思うんだ。でも、そんな場所は全部アメリカ軍の管轄下にあるからね。護送に協力してほしいと頼むつもりだよ」
「なんや、そういうことか」
明人は椅子に座り直し、背もたれに体を預ける。
「僕としては、【黄の王】を倒せる唯一の戦力は彼だと考えてる。だが、今回の戦いを見て分かっただろう。ヤツは簡単に勝てる相手じゃない。三鷹の傷が癒えても、今のままでは勝ち目がない」
明人とルイは視線を落とし、深刻な表情をする。
確かに【黄の王】の力は巨人化した悠真を凌駕していた。再戦したとしても、勝てるとは思えない。
考え込む二人を見て、アルベルトは話を続ける。
「そこで君たちに聞きたいんだ。彼がさらに強くなる方法はないだろうか? 三鷹は以前より遥かに強くなっていた。だとすれば【黄の王】と同じ”成長型”の【王】ではないのかな? 君たちなら詳しいと思ってね」
「そら確かに……悠真は戦って強くなってきたヤツや。【黄の王】を超えるほど強くなる可能性は充分にある」
そう言った明人はなにかに気づき、「あっ!」と声を上げる。
「そうや! アメリカが持っとる『魔宝石』を全部悠真に食わせりゃええんや! そしたら悠真の魔力が跳ね上がって【黄の王】を倒せるで!!」
明人の言葉に、アルベルトとミアは驚いた表情になる。
「全部の魔宝石って……そんな大量の”マナ”が三鷹にあるのかい?」
アルベルトの疑問に、明人はふふんっと鼻を鳴らす。
「悠真の持っとるマナは数十万単位や。どんだけ魔宝石が大量にあっても消化して取り込めるやろ」
勝ち誇ったように言う明人に、アルベルトとミアは困惑してしまう。
「その話が本当なら、確かに魔宝石の摂取は有効かもしれない。僕がアメリカ軍にかけあって、用意できないか聞いてくるよ」
「そうや、そうや、それが一番ええ!」
話がまとまりかけた時、異論を挟んだのはルイだった。
「ちょっと待って下さい。明人が言うように、悠真は大量の魔宝石を摂取することができます。でも、すぐに使いこなせる訳じゃありませんし……その、なんていうか、魔力量が上がるだけで【黄の王】が倒せるとも思えません。もっとなにか、根源的なものが足りないような」
そこまで言って、ルイは首を横に振った。
「すいません。うまく言えなくて……」
「いや、なんとなく君の言っていることは分かるよ」
アルベルトは優し気な眼差しでルイを見つめる。
「【黄の王】の強さは、フィジカル、格闘能力、魔法障壁の頑強さ、それらが複合的に合わさったものだ。魔法を上げても、それだけで対抗はできないだろうね」
会議室の中で、四人は黙り込んだ。【黄の王】を倒せるのは悠真しかいない。
そのことに関しては、アルベルトやミアも理解しているようだった。しかし、確実に勝てる道筋が見えない。
ルイは手の甲を鼻に当て、なにか打開策はないか考え込む。
隣では明人が「くそっ!」と言いながら、わしゃわしゃと頭を掻いている。まだ、悠真の意識が戻らない状況で、こんなことを考えるのは酷かもしれない。
それでも、なんとかするしか――
「あ」
ルイの脳裏に、あることが思い出された。
「どうした、ルイ。なんかいい案が浮かんだんか?」
頭を掻くのをやめた明人がルイを見る。アルベルトやミアも視線を向けてきた。
「いや……これはうまくいくか分からないけど……」
ルイは一度息を飲んでから話を続ける。
「悠真を……オーストラリアに連れて行くのはどうでしょうか」