From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (346)
第344話 オーストラリア
「オーストラリア? なんでそんなところに行くんや?」
明人は訳が分からないといった様子でルイに尋ねるが、アルベルトは顎に手を当て納得したように微笑む。
「なるほど……『黒のダンジョン』か」
ルイはアルベルトを見つめ、コクリと頷く。
「はい。オーストラリアには世界でもっとも深い黒のダンジョン、『タルタロス』があります」
「三鷹悠真は【黒の王】の力を持ってる。それと関係があるんだね」
「そうです。以前、悠真に聞いたことがあるんですが、黒のダンジョンで魔物を倒すと、魔鉱石が100%の確率でドロップするそうなんです」
「100%!?」
アルベルトの隣にいたミアが声を上げる。
「そんな能力、今まで聞いたことがないわ。本当にドロップ率が上げられるの?」
疑問を持つミアと同じように、明人も顔をしかめる。
「ワイも聞いてへんで! そんな能力が悠真にあったんか!?」
「うん。僕も詳しくは知らないんだけど、悠真がそう言ってたんだ。横浜にあった黒のダンジョンで試したみたいだから、間違いないと思う」
四人は黙り込んだが、しばらくするとアルベルトが口を開いた。
「黒のダンジョンの”魔鉱石”は、身体を強化するものだ。つまりフィジカルの向上が期待できる」
「【黄の王】を倒すのに必要な要素っちゅうことか」
明人の言葉に、アルベルトは首肯する。
「なにより、世界最大の黒のダンジョン『タルタロス』ともなれば、深層にいる魔物は強いものばかり。途轍もない”魔鉱石”が手に入るかもしれない」
ルイは「僕もそう思います」と、アルベルトに同意した。
「悠真の魔力は【黄の王】を上回っています。身体能力が互角以上になれば、勝てる確率は跳ね上がるはずです」
「ほんなら、すぐに準備せんとな!」
明人が膝を叩いて立ち上がる。
「ちょっと待って、明人。これはあくまで悠真の怪我が治ってからの話だよ」
ルイの苦言に、明人は「分かっとるわ!」と反論する。
「だから悠真が目覚める前に準備をしとくんや! あいつは絶対、【黄の王】と再戦しようとする。ワイらがサポートすんのは当然やろ」
「もちろん……そうだけど」
ルイが眉尻を下げていると、アルベルトも立ち上がった。
「話は分かったよ。オーストラリアに行けるように、軍と話をつけてくる。君たちは三鷹が回復するのを待っててくれ。ミア」
「はい」
ミアも立ち上がり、明人とルイに視線を向ける。
「あなたたちの部屋を用意します。こちらに来て」
明人とルイは悠真が治療中の間、マッコーネル空軍基地に滞在することになった。そして二日後の夜、ついに悠真が目を覚ます。
◇◇◇
「悠真……大丈夫か?」
ベッドで横たわる悠真に、明人が話しかける。隣にいたルイも「聞こえてる?」と心配そうに悠真の顔を覗き込んでいた。
「う……あぅ……う……」
悠真は目を半開きにしているものの、話すことはできず、焦点も合っていなかった。明人はすぐ側にいた
救世主
の女性を見る。
「おい、どうなっとんねん! 治ったんとちゃうんか!?」
問われた女性は目を伏せ、小さく頭を振る。
「私たち力では、傷を完治させることはできません。意識を取り戻しただけでも、奇跡に近いとしか……」
明人はギリッと歯噛みする。
「五人も
救世主
がおって治せへんやなんて……世界最高の治療ができるって言ってたやないか!!」
「明人!」
ルイが明人を
窘
める。明人も八つ当たりにしかならないと分かっていた。それでも感情を抑えられない。
「プロメテウスの
救世主
は充分な治療をしてくれてる。彼ら、彼女らがいなかったら、悠真は死んでてもおかしくなかった」
「分かっとるわ! ……充分、分かってんねん……」
明人は拳を握り締め、横たわる悠真に目を移す。ベッドの上で動くこともできず、話すことすらできない。
【黄の王】が使った雷撃の凄まじさを、改めて思い知らされる。
「くそっ! どうしたらええんや」
ルイと明人、二人は沈痛な面持ちでその場に立ち尽くす。そんな二人がいた病室のドアがノックされ、ミアが中に入ってきた。
「二人とも、アルベルトが呼んでるわ。オーストラリアへ行くことについて、軍から許可が下りたようよ」
ルイと明人は視線を交わし、病室を出ることにした。
◇◇◇
「来たか、座ってくれ」
応接室のような場所に案内されたルイと明人は、アルベルトに
促
され、革張りのソファーに腰かける。
「ここはなんやねん」
キョロキョロと辺りを見回す明人に、アルベルトはフッと微笑みかける。
「僕に
宛
がわれた執務室だよ。まあ、こんな堅苦しいところで仕事をする気はないんだけどね」
アルベルトもソファーに腰かけ、ミアは部屋の隅に立ったまま動こうとしない。
明人はアルベルトに視線を向けた。
「オーストラリアに行けるっちゅうことやけど。悠真の傷が思いのほか酷い。出発はもうちょっと待ってくれ」
アルベルトは前屈みとなり、目を閉じて小さく首を振る。
「いや、もう出発してもらう。【黄の王】との戦いで、軍の人員も装備品もカツカツなんだ。悠長に待ってる時間はない」
「せやけど、悠真は動かれへんのやで!」
語気を強める明人。しかし、アルベルトは構わず話を続けた。
「治療は移動しながらでもできる。
救世主
を一人同行させるから、オーストラリアに着くまでになんとか治療を終わらせてくれ」
「そんな無茶苦茶な!」
憤
る明人を、ルイが手で制す。
「仕方ないよ。無理を言ってるのはこっちなんだから」
明人がムググググと口を
噤
むと、ルイはアルベルトに視線を向ける。
「分かりました。すぐに準備します。それで、今回は航空機で行く……ってことでいいですか?」
アルベルトは「いや」と言って否定する。
「オーストラリア上空は、”竜の巣”とも呼ばれる危険地帯だ。『赤』『青』『黄』のダンジョンから出てくる竜たちがウヨウヨいる。誰も近づけず、国内がどうなっているかまったく分かっていない。航空機で行くなど、自殺行為だ」
「”竜の巣”……そんなことになってたなんて……」
ルイは眉間にしわを寄せる。想像していた以上に、オーストラリアの惨状は深刻なようだ。
「だとしたら……どうやってオーストラリアまで行くんですか?」
ルイの質問に、アルベルトはフフッと笑顔で返す。
「そのために、僕が軍と交渉してたんだよ。君たちには明日の夜、カリフォルニア州で
あ
る
も
の
に
乗
っ
て
も
ら
う
」
ルイが「なんですか?」と尋ねると、アルベルトは口角を上げて答える。
「原子力潜水艦だよ」