From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (347)
第345話 出航
カリフォルニア州にあるサンディエゴ海軍基地。
太平洋艦隊の本拠地であり、巡洋艦、駆逐艦、揚陸艦、戦闘艦など、計五十隻以上の艦艇が母港としている。
想像を超える大きな軍港を、明人とミア、そして車椅子を押すルイが歩いていた。
車椅子には悠真が乗っており、酸素マスクをつけている。あれから徐々に回復し、意思疎通ができるまでになった。
脳にも深刻なダメージを受けていたため、医者からは「奇跡的な回復だ」と告げられていた。
「悠真、大丈夫? もうすぐ着くからね」
「……ああ……あり……がとう……」
ボソボソとした声だったが、ルイは悠真の回復に頬を緩める。そんなルイと悠真を
他所
に、明人は子供のようにはしゃいでいた。
「あれ見てみい。めっちゃでっかいで!」
明人が指差した先に、せり出した
係船岸壁
がいくつもあり、その横に大型の艦艇が並んでいた。
見たことのない壮観な光景に、悠真とルイも目を見開く。
三人ともテンションを上げていたが、前を歩くミアは一つ息を吐き、冷めた声で「こっちよ」と先を
促
す。
ルイは正面を歩くミアに視線を向けた。
「今日、アルベルトさんは来ないんですか?」
問われたミアは、歩きながらわずかに振り向く。
「アルベルトは別件で来れないわ。だから私が代わりに来たの」
「そうですか……そうですよね。アルベルトさんも忙しいでしょうし」
少しがっかりした様子でルイは肩を落とす。
「なんや、あのおっさんに別れの挨拶でもしたかったんか?」
「そんなんじゃないけど……そもそも別れの挨拶なんて必要ないよ。また戻って来るんだから」
ルイはムスッとした顔で明人を見る。だが明人は気にする様子もなく、「ワイらが乗る潜水艦はどこや?」と手でひさしを作っていた。
しばらく歩くと
係船岸壁
に接岸された潜水艦が見えてくる。
「これが原子力潜水艦『ルイジアナ』よ。あなたたちを乗せるためにキトサップ海軍基地から移動させたの」
「へ~、思ってたよりでかいんやな」
明人が感心したように言う。ルイも同じように思った。
見えている部分だけでも全長100メートル以上はあるだろうか。ルイは車椅子を押しながら、潜水艦の接岸部に向かう。
堤防には軍の関係者が何人かおり、自分たちが来るのを待っていた。
「お待ちしておりました。太平洋艦隊所属、艦長のブレイス・カバーノ中佐であります。オーストラリアまでの護送任務を拝命しました」
三十代ほどの若い白人男性が、ミアに向かって敬礼する。
ミアは小さく頷き、ブレイスと視線を合わせた。
「ブレイス中佐、大変な任務になると思いますが、合衆国の命運がかかっています。どうか、よろしくお願いします」
「はっ!」
ブレイスは敬礼を解き、悠真たちに視線を向ける。
「目的地に皆さんを送り届けます。すぐに乗り込んで下さい」
「分かりました」
ルイが首肯し、明人と共に悠真の体を持ち上げる。潜水艦は通路が狭いため、車椅子は持ち込めない。担いでいくしかない。
潜水艦に渡された細いブリッジを進み、上部の丸いハッチから中に入る。
梯子
を下らなければならないため、悠真を運ぶのが大変だった。軍人の手も借りてなんとか乗船する。
「それにしても狭いな~」
「しょうがないよ。乗せてもらえるだけ感謝しないと」
ルイに叱責され、ぶつぶつ文句を言う明人。それでも、明人が一番積極的に悠真を運んでくれた。艦内を進み、自分たちに
宛
がわれた船室に入る。
そこは二階建てベッドが二つ並ぶ、狭い部屋だった。
悠真を下のベッドに寝かせ、ルイと明人が一息ついていると、艦長のブレイスが顔を出す。その後ろには、白い制服を着た女性もいた。
「申し訳ない。かなり窮屈に感じると思うが、しばらくは我慢してほしい」
「確かに狭いな。もうちょっと広い部屋ってないんか?」
明人が尋ねると、ブレイスは目を閉じて首を振る。
「この部屋でも広い方なんだ。一般の乗務員の船室はもっと酷くてね。まあ、二週間の辛抱だよ」
「二週間!?」
ブレイスの言葉に、明人は目を丸くした。
「オーストラリアまで、二週間もかかるんか!?」
「ああ、順調にいけばね。元々潜水艦はそれほど速度が出せないから……二週間は耐えてもらうしかない」
絶句する明人を横目に、ブレイスは後ろの女性を紹介する。
「彼女は一緒に乗船するプロメテウスの
救世主
、アリーシアだ。三鷹悠真の治療は彼女に一任する。それが上からの命令でね」
ブレイスは頬を崩し、アリーシアに「頼んだよ」と声をかけ、その場を立ち去った。残された明人は放心状態だ。
アリーシアはブレイスと入れ替わりに部屋に入ってきた。
髪は黒く、二つのおさげをした小柄な女性。アジア系の顔立ちで、どこかインド人の面影があるな、とルイは思った。
アリーシアは伏し目がちに会釈をし、ルイと明人を交互に見る。
「プロメテウスから派遣されました。アリーシアと言います。三鷹さんの治療は全力で行いますので、よ、よろしくお願いします」
大きく頭を下げるアリーシアに、ルイが微笑んで答える。
「こちらこそ、よろしくお願いします。アリーシアさんとは、マッコーネル空軍基地の治療室で会ってますよね」
「お、覚えていてくれたんですね。あの時はみんなと精一杯、回復魔法をかけたんですけど、三鷹さんを完治させることができなくて……」
ルイは「いえいえ」と手を振って否定する。
「アリーシアさんたちのおかげで悠真は一命を取り留めたんです。本当に感謝してもしきれません。今回も危険な旅に同行させてしまい、申し訳ないと思っています」
今度はアリーシアが「とんでもない!」と頭を振る。
「三鷹さんたちと同行できるのはとても光栄です。ミアさんからも重要な任務と聞いていますし、私にできることは全力でやりたいです!」
意気込むアリーシアに、ルイは自然と笑顔になった。その後、アリーシアは悠真に対し、回復魔法による治療を行う。
一時間以上連続で魔法を使っていたため、ルイは疲労してないか心配するが「全然大丈夫です」と気丈に振る舞っていた。
そして全ての準備を終えた潜水艦が動き出す。
艦内放送でブレイスがこの艦の目的地、航行期間、そして日常生活に関する指示を伝えていた。
その
間中
、ベッドに横たわる明人は「二週間……二週間もかかるんか……」と、ずっとぼやき続けていた。