From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (35)
第35話 ダンジョンビジネスの誕生
家に帰ってきた悠真は、さっそく買ってきた本を机の上に並べる。
リュックを放り投げ、スーツを
皺
にならないようハンガーに掛けた後、椅子に座って、その内の一冊を開いた。
ダンジョンと、新たに誕生した企業の成り立ちについて書かれた本だ。
「やっぱり本を開くと、勉強をしてる感じが出るな」
悠真は‟もくじ”を眺め、おもしろそうなページに
栞
を差し込む。そこには大企業がダンジョンの魔法を利用し、医療ビジネスを展開した経緯が記されていた。
ダンジョンには五つの魔法がある。回復魔法と四つの攻撃魔法。
当然、企業が注目したのは『回復魔法』だ。今まで治すことのできなかった病気や怪我の治療は、人類の夢であり医療の目標でもあった。
それが超常現象である未知の迷宮によって実現したのだ。
しかし問題があった。回復魔法を使うためには『白のダンジョン』に入り、魔宝石を入手しなくてはならない。
だが『白のダンジョン』は、六色のダンジョンの中で最も攻略難易度が高く、軍隊を投入しても下層に進むことができなかった。
そこで重要だと考えられたのが四つの攻撃魔法。
『火』『水』『風』『雷』の四つは魔法の四元素とも呼ばれ、白のダンジョンに巣食う魔物を倒すのに非常に有効だった。
特に『火』と『雷』は攻撃力が高く、白のダンジョン攻略に大いに役立つ。
しかし、ここでも問題が起こる。『火』と『雷』の魔法を手に入れるためには、赤と黄色のダンジョンに探索者を送らなくてはならない。
だが、そこにいるのは当然、狂暴な魔物ばかり。使えば強力な魔法は、使われれば危険な魔法になってしまう。
当初、ダンジョンの研究や攻略が進まなかった理由がここにある。
多くの人々が頭を抱える状況だったが、しばらくすると世界に朗報が流れる。
オーストラリアの学者、イーサン・ノーブルによって魔法の相関関係が解明されたのだ。
『火』は『水』に弱く、『水』は『雷』に弱い。『雷』は『風』に弱く、『風』は『火』に弱い。
すなわち火の属性を持つ赤のダンジョンの魔物は『水魔法』で倒し、雷の属性を持つ黄色のダンジョンの魔物は『風魔法』で倒すのが効率的であるとされた。
この役割を中小の企業が担い、入手した『火』と『雷』の‶魔宝石″を大手の企業に売り渡す。
大手企業はこの魔宝石を使って火と雷を使う
探索者
を育成し、『白のダンジョン』に挑む。これが現在確立されているビジネスモデルである。
企業の役割分担が明確となり、ダンジョンの攻略が進むようになったが、問題が無くなった訳ではない。
企業を悩ませたのは‶マナの特性″だ。
マナを消費して魔宝石を体に取り込むと、別の魔宝石が使うことはできない。
マナ指数が100あれば、同じくマナ指数100までの『火』の魔宝石を体に取り込むことができるが、風の魔宝石も使いたければ、『火』を50、『風』を50と二つに分ける必要がある。
しかし、これではどちらも中途半端になってしまい、強力な魔法は使えない。
現在は一つの魔法を極めるのが
探索者
の間で主流になっていた。
問題は回復魔法を使う人材の育成。最初は攻撃魔法を覚えさせてから、魔物を討伐し、マナを上げていこうとした。
だが、より多くの魔物を討伐するためには強力な攻撃魔法を覚える必要がある。
一方、攻撃魔法を覚えてしまっては回復魔法を使うための‟マナ”が残らないという矛盾を抱えることになった。
つまり攻撃魔法を使う
探索者
の育成より、回復魔法を使う
探索者
の育成の方が遥かに難しく非効率なのだ。
今では魔法の効果が付与された武器が開発されたこともあり、以前より探索者育成の環境は改善された。
それでも回復魔法を使う人材の確保が難しいことに変わりはない。
高度な治療を行えるのは、マナ指数1000を超える回復魔法の使い手だけ。彼らは
探索者
ではなく
救世主
と呼ばれた。
一人の
救世主
を誕生させるには、何人もの
探索者
がサポートに付き、ダンジョンでマナ指数を上げなければならない。
そのための費用は数億とも、数十億とも言われている。
「ふ~ん、やっぱり‶マナ″が一番重要ってことか……俺にもマナがあればな……」
悠真は愚痴っても仕方ないと分かりつつ、不満を漏らさずにはいられなかった。