From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (352)
第350話 テロリスト
「おい……なんだ、あの車?」
ショッピングモールにいたブリスベンの人々がざわめき出す。見慣れない三台の車が生活エリアに入ってきたからだ。
男たちは女子供を避難させ、車を囲むように歩み出る。
車から降りてきたのは、統一された制服を着た男女。それがオーストラリアにいる
探索者
だということは、誰の目にも明らかだった。
「おいおい、こんなところに集まって暮らしてんのか? 俺たちが助けに来てやったんだ。もう安心だぞ」
先頭に立つ金髪モヒカンの男が、横柄な態度で話す。
それを聞き、ショッピングモールで暮らす人たちは顔を強張らせた。その内の一人が前に出る。
「あんたたち、『ワラガンダ』の
探索者
だろう? こんなところになにしに来たんだ?」
四十代ほどの男性が、
探索者
たちを睨みつける。モヒカンの男は肩をすくめ、「ずいぶん喧嘩腰だな」と薄笑いを浮かべる。
「俺たちはお前らを心配してやってるんだ。魔物がいつ襲って来るか分からない状況で、魔法も使えないんじゃ心細いだろ? 俺らの傘下にはいりゃ、ビクビク怯えずに暮らしていけるぜ」
その物言いに、大勢の人たちが激怒する。
「ふざけんな! お前たちが国を壊したせいで被害が広がったんだろうが!!」
「そうだ! 政府がなくなったことで支援もなくなったんだぞ。このテロリストどもが!!」
「とっとと帰りやがれ! ここにも軍はいるんだ、お前らなんか必要ない!!」
人々の怒りの声が降り注ぐ。それを聞いたモヒカンの男は、「やれやれ」と言って苦笑いする。
「だから助けに来てやったんじゃねえか。四の五の言ってねえで、ここの責任者を呼んでこい!」
探索者
たちと、ブリスベンの住人の間に緊張感が走る。
その時、人ごみの後ろから誰かがやってきた。住民たちが左右に分かれ、その間を年配の女性が歩いて来る。
探索者
たちの前に立つと、堂々とした態度で向かい合った。
「私がこのブリスベンの責任者、市長のマデリーンです。どんな用件でここに来られたのか、私が
伺
います」
マデリーンは凛とした表情で
探索者
たちを見つめる。
モヒカン頭の男は、クツクツと笑いながらマデリーンに視線を向けた。
「やっと話ができそうなヤツが来たな。俺たち『ワラガンダ』は、各所で支配地域を増やしてるんだ。政府以上に国民思いってことだよ。なぁ、そうだろ?」
モヒカン男は振り返って仲間たちを見る。若い男が六人、女が三人いたが、全員ニヤニヤと笑っていた。
「目的はなんです? あなたたちがタダで人助けをするはずがないわ。なにか理由があってここまで来たんでしょう?」
「話が早くて助かるよ、市長さん。ここが安泰なのは、近くにブリンバの海軍基地があるからだ。つまり、大量の魔宝石があるってことだよな?」
「やはり、それが目的ですか」
マデリーンの視線がわずかに動く。それを見逃さなかったモヒカン頭の男は、フフッと笑い、周囲を見回す。
「そこにいるんだろ? いいぜ、出てこいよ」
男の声をきっかけに、建物の陰から多くの軍人が出てきた。小銃を構え、小走りで
探索者
たちを囲む。
全員が若い兵士で、銃口を相手に向け、照準を合わせる。
「ここは私たちが自衛する場所です。あなたたちの力は必要ありません。早々にお帰り下さい」
マデリーンは冷たく言い放った。しかし、
探索者
たちが引く様子はない。
「やれやれ、せっかく穏便に済ませてやろうと思ったのによぉ」
モヒカンの男が手を上げると、後ろにいた
探索者
たちは車から【魔法付与武装】を取り出し、それぞれ戦闘態勢に入った。
「後悔するんじゃねえぞ、ババア!!」
◇◇◇
悠真たちが街に戻ってくると、ショッピングモールの方から煙が上がっていた。
安斎はアクセルを踏み込み、さらにスピードを上げる。燃えている建物が見えてきたところで急ブレーキをかけ、安斎は車を止めた。
シートベルトを外し、慌てて車外に出る。
「悠真くん、君はここで待ってて! 私が様子を見てくるから」
「え、ちょっと待って下さい。俺も――」
悠真が止めようとするが、安斎は走り去ってしまった。悠真もシートベルトを外し、ゆっくりと車を降りる。
思うように動かない体に
苛
つきながら、杖をついてショッピングモールに向かう。
――じっとなんてしてられない。俺も助けに行かないと。
悠真は出来る限り速く歩き、安斎のあとを追う。しばらく歩くと銃撃音や爆発音が聞こえてきた。
戦いになってる。ルナや安斎、ウィルソンさんたちの顔が脳裏を過る。
探索者
たちが犯罪集団になってると聞いてショックだったが、本当に一般市民相手に魔法を使っているようだ。
「くそ、もっと早く歩ければ……」
このままではみんな死んでしまう。悠真は立ち止まり、体に力を入れた。
全身が黒く染まり、鋼鉄の鎧に覆われる。『金属化』を発動して走ろうとするものの、やはり体は思うように動かない。
「ダメか! 『金属化』すればなんとかなるかと思ったのに」
悠真はギリッと奥歯を噛む。毎日回復魔法をかけ、【自己再生】の能力も機能してるはずなのに、傷の治りは異常なほど遅い。
こんな状態では駆けつけたとしてもなんの役にも立たない。
どうすればいいんだ、と思い悩んでいた時、「あっ!」とあることを思いつく。
「そうだ、これなら」
悠真は体の力を抜き、全身をドロリと溶かす。丸いスライムに変身すると、目玉をグルッと回して前を見た。
ピョンピョン飛び跳ねてみたり、触手を何本か出してうねらせる。
「おお! 思い通りに動くぞ!! この姿なら怪我は関係ないんだ」
液体金属を動かすのは魔法の一種。しかも使い慣れた”黒の魔法”であるため、扱うのに支障はなかった。
悠真は「よっしゃっ!」と雄叫びを上げ、ピョンピョンと飛び跳ねる。
走るより速い速度で、ショッピングモールに向かった。
◇◇◇
爆発が起き、炎が舞い散る。銃弾が飛び交い、辺りには怒号が響く。
ショッピングモール周辺は戦場と化していた。
探索者
たちが魔法を使い人々を蹂躙していく。
それに応戦するため、軍人たちは魔法が付与された弾丸を放つ。
最初は一進一退の攻防を見せたが、徐々に
探索者
たちが押していく。軍人は数で上回っていたものの、純粋な魔法には敵わなかった。
「くそっ! 住民を避難させろ!! 奴らを止められるのは我々だけだ」
軍人たちは
探索者
を牽制しつつ、ゆっくりと後退する。
「おいおい、その程度で俺たちを止めるつもりか? 冗談も大概にしてくれよ!」
モヒカン男は大剣をかかげ、炎の魔力を集める。剣身に爆炎が渦巻き、メラメラと膨れ上がっていく。
「吹き飛べ! クソども!!」
振り下ろした大剣は地面を
抉
り、大爆発を引き起こした。