From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (362)
第360話 漆黒の大穴
キャンベラ南部にある自然保護区。
緑豊かなその土地に突如姿を現すのは白く巨大なドームだ。東京ドームより重厚で遥かに大きい。
明人と共に空から見下ろした悠真は、なぜか不気味に感じるドームに息を飲む。
「あれが黒のダンジョン――『タルタロス』の入口や。ルイは中で待っとるからな。すぐに降りるで」
「ああ」
二人を乗せたゲイ・ボルグはゆっくりと下降し、ドームの手前に降り立つ。
入口の自動ドアまで行くが、すでに電気は通ってないらしく、明人は手動でドアを開け、スタスタと中に入っていった。
悠真もあとに続く。真っ白な廊下を歩いていくと、分厚い鉄扉がある。
明人がその扉を「ふんっ!」と言って押し開け、中に足を踏み入れる。悠真も中に入ると、壮観な光景が広がっていた。
「ここが……」
デッキの上から下を覗く。巨大な穴がポッカリと口を開けていた。
その大きさは、今まで見てきたダンジョンの中でも最大クラス。なにより言いようのないプレッシャーを感じてしまう。
「悠真!」
穴の前にいたルイが、こちらを見上げて大声で叫ぶ。
すぐに駆け出し、階段を上ってこちらに来た。肩を上下に揺らし、満面の笑みで悠真の腕を掴む。
「良かった……本当に良かった。無事だったんだね。すごい心配してたんだよ」
「ああ、悪い。ここに来るまで時間がかかった。もっと早く来られたら良かったんだけど」
「いや、来てくれただけで充分だよ。明人はここで待ってれば悠真は必ず来るって言ってたけど、僕は半信半疑だったからね」
悠真は隣にいる明人を見る。明人は視線を逸らし、
頬
を掻いていた。
「俺が来ることを信じてくれてたのか……ありがとな、明人」
「なんや、気持ち悪い。目的地がここなんやから当たり前やろ。むしろ来んかったらぶん殴っとったわ!」
明人は腕を組み、明後日の方向を向いたまま軽口を叩く。悠真とルイはそろって苦笑した。
「それにしても、俺があそこにいるってよく分かったな」
悠真の言葉に、明人は「ふんっ」と鼻を鳴らす。
「あんだけ莫大な魔力撒き散らしとったら気づくわ! すぐにお前やって分かったからな。ルイを残して飛んでったんや」
「ああ、なるほどな」
悠真は納得して頷く。三人の中で、明人はもっとも魔力感知能力が高い。これだけ距離があって感じるのは凄いが、そのおかげで合流することができた。
「それで……潜水艦に乗ってた他の人たちは今どうしてるんだ? アリーシアさんとかは?」
心配する悠真に、ルイは笑顔を向ける。
「大丈夫だよ。アリーシアさんや艦長さんも無事だし、船員の多くも助かったんだ。悠真が体を張って潜水艦を守ったおかげだよ」
「そう言われてもな……本当になんにも覚えてないんだよ。明人も俺が潜水艦を守ったって言うけど、全然実感がないな」
「そうなんだ」
ルイは意外そうに答える。
「潜水艦が壊れそうになった時、一瞬で液体金属化して、破損した潜水艦の内殻と外殻を覆ったんだ。そのおかげで浸水が止まって、僕らはなんとか接岸できたんだよ」
話を聞いても、悠真はなにも思い出せなかった。
「船員の人たちはシドニーの施設で保護してもらってる。そこで
探索者
たちが反乱を起こして、政府が崩壊してることを知ったんだよ」
「そうか……まあ、取りあえずみんなが無事で良かった。あとはこの『黒のダンジョン』を攻略するだけだな」
「ああ、そういうこっちゃ」
明人と悠真、ルイの三人はデッキから下にある大穴を覗く。
ドス黒い瘴気を漂わせているような漆黒の穴。【黄の王】を倒すためには、ここを攻略して自分自身が強くならなきゃいけない。
ルイたちからそう聞いていたが、悠真も同じ想いだった。
――横浜にあった『黒のダンジョン』を思い出すな。あそこに入ったからこそ、俺は多くのものを得ることができた。今回も必ず……。
悠真は覚悟を胸に、デッキの横に併設された階段を下りる。
「それにしても悠真、体の方は大丈夫なの? 前より、かなり良くなってるようには見えるけど……」
後ろを歩くルイに問われ、悠真は「ああ、まあな」と答える。
「まだ100%じゃないけど、普通に歩く分には問題ない。あとは『金属鎧』になって戦えればいいんだけど」
「なに!?」
明人が眉間にしわを寄せる。
「あの姿で戦えへんのか? ほんなら、どうやって戦うんや!?」
「魔法は使えるよ。それにスライムの姿にもなれるから、戦うこと自体はできる」
「そうなんか……まあ、ワイらもサポートするから、なんとかなるか……」
明人はやや不安気な表情をするものの、納得したようだ。そんな話をしていた二人を追い抜き、ルイが小走りで荷物がある場所に行く。
「取りあえず、ダンジョン攻略に必要なものは用意してあるよ。ほとんどが食料だけどね。これも持ってきたよ」
ルイは荷物の中から長い棒のような物を取り出し、悠真に向かって放り投げる。
悠真は「おおっ」と少し慌てて受け取ったが、それがなにかはすぐに分かった。手にしっくりと馴染む、自分専用の武器。
「ピッケル! 持ってきてくれたのか」
「それがないと寂しいでしょ?」
悠真はニヤリと笑い、「まあな」と言ってピッケルを肩に乗せる。
それを見た明人は、鼻をこすりながら口を開いた。
「これで準備は整ったな。取りあえず、このダンジョンの魔物を倒してパワーアップするのが目的やけど、食料にも限界があるからな。最下層にいる魔物、【迷宮の支配者】を倒すことを優先するで」
「どんな魔物がいるか知ってるのか?」
悠真が尋ねると、明人は「はっ」と小さく笑う。
「知らん、知らん。誰も行ったことないタルタロスの最下層やで? どんな魔物がおるかなんて分かる訳ないやろう。せやけど、ここまで深いダンジョンや。きっと凄い魔物に違いない。そいつを倒せば、強力な”魔鉱石”が手に入るんちゃうか?」
「まあ、そうだな」
「飲み水は悠真の”水魔法”で確保できるやろうけど、こないなところ長居しとうないからな。さっさと攻略して、アメリカにいる【黄の王】をボコボコにしたろうや!」
いきり立つ明人と共に荷物を担ぎ、大穴に入るための階段の前に立つ。漆黒の大穴からは、風鳴りのような音が聞こえてきた。
悠真はゴクリと喉を鳴らす。
ここを攻略して【黄の王】を超える力を手に入れない限り、前に進むことはできないんだ。悠真は改めて気を引き締める。
「ほんなら行くで」
明人を先頭に、悠真たちは先の見えない階段を一歩一歩下りていった。