From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (367)
第365話 獲得した能力
「おお!」
金属鎧の姿のまま、悠真は自分の右手を見やる。そこには五つの【宝玉】が、円を描くように付いていた。
「それがキマイラの魔鉱石を食べたことによる変化なの?」
不思議そうに聞いてくるルイに対し、悠真は力強く頷いた。
「おう! 左手に五つ、右手に五つ。これで合計十体の魔物をコピーできる。かなり役に立つはずだ」
悠真はご機嫌でピッケルを持ち、次の階層に向かって歩く。
キマイラを倒したあと、キラキラと輝く銀色の魔鉱石がドロップした。さっそく食べたところ、前回と同じように相手に擬態できる能力を獲得することができたのだ。
コングロマリットの能力と合わせれば、戦闘では絶大な効果を上げるだろう。
そのあとも階層に進むにつれ、巨大で強そうな魔物がわんさかと出てきた。
悠真たち三人は魔力を温存するため、なるべく戦わずに最下層を目指す。悠真は音を立てず歩いていた時、なつかしい感覚を覚えた。
――横浜のダンジョンと同じことしてるな。あの時も巨大な魔物と戦わないように最下層を目指したっけ。
悠真たちは大型の魔物に見つからないよう、そろりそろりと迷宮の岩場を抜けていく。ただし、玉虫色の魔物がいた場合だけ討伐しようと決めていた。
それほどに魔法耐性のある魔鉱石が貴重だったからだ。
悠真も当然そのつもりだったが、207階層で出会った魔物を見て、大いに決意が揺らいでしまう。
「お、おい、マジか! めちゃめちゃかっこいいやないか!!」
「ああ、横浜のダンジョンで見たヤツより、かなり大きいぞ」
明人と悠真は興奮して岩場の陰から身を乗り出そうとする。それを見たルイが、
眉間
にしわを寄せた。
「なに言ってるの、二人とも! 見つかっちゃうよ」
窘
められた明人と悠真は、しゅんとして身を引っ込める。三人は岩陰に隠れつつ、洞窟の中心部にいる魔物を観察した。
そこにいたのは”黒竜”だ。
黒のダンジョンでも、
希
にしか発見されない魔物で、巨大な体躯に大きな翼。堅そうな漆黒の外皮と長い尻尾が目につく。
凶悪なキバを覗かせる頭をゆったりと振り、辺りを見回していた。
その容姿は、今まで見てきた竜種の中でもっともかっこいい。
明人と悠真は興奮して目をギラつかせる。
「どんな能力があるんやろ? ビームとか出すんとちゃうか?」
「ビームはともかく、ブレスは出すだろう。あと聞いた話だと、ドロップするのは魔鉱石じゃなくて『ブラックダイヤモンド』じゃないかって噂があるらしいぞ!」
悠真が鼻息荒く言うと、ルイは小さな溜息を吐く。
「そんなのただの噂だよ。倒してもドロップするのは魔鉱石だと思うよ」
「分かんないだろ! 誰も倒したことない魔物なんだから。やるだけやってみようぜ!」
「そんなことしてる場合じゃないよ。なるべく魔力を温存して最下層に行かなきゃいけないのに」
悠真とルイが言い合ってる間に、明人は岩陰から出てゲイ・ボルグに飛び乗る。
「あ! 明人、ズルいぞ!!」
「あの黒竜はワイの獲物や! そこでルイと見とったらええ!!」
明人は洞窟内を飛翔して黒竜へと接近して行く。悠真も岩陰から飛び出し、『金属化』を発動して駆け出した。
「ちょ、ちょっと待って悠真!」
二人に呆れたルイが止めようとするものの、悠真は巨大化し、鋼鉄の巨人となって走り出した。
◇◇◇
「やっぱり強い魔物と戦ってみたいと思うんは、
探索者
の本能やで」
明人は槍に乗ったまま黒竜の頭上を旋回する。竜も明人の存在に気づき、頭をグルリと振った。
飛び回る明人を見て、わずかに反応する。
「余裕たっぷりみたいやな。自分に勝てるヤツはおらん思うてるんか? せやったらその考え、ワイが全力で否定したる!」
ゲイ・ボルグの先端から六つの”穂先”が飛び出した。穂先は黒い稲妻を纏い、ジグザグの軌道を描いて黒竜に向かう。
それは『黒い龍』とも呼ぶべき姿。六体の黒龍は巨大な魔物に襲いかかる。
全てが竜の外皮に喰らいつくも、大したダメージを与えられず弾き返された。
「なんやアイツ! 魔法が効かんのか!?」
空中で顔をしかめる明人を
余所
に、悠真は猛然と黒竜に突っ込む。鋼鉄の巨人は右腕を引き、相手に殴りかかろうとする。
その刹那、竜は口から黒い霧のようなものを吐き出した。
「うっ!」
悠真は嫌な予感がして後ろに飛び退く。そのまま突っ込んでも良かったが、本能がそれを許さなかった。
「なんなんだ、この霧は?」
悠真は竜を見据えたまま、ふと自分の腕を見る。思わず「え?」と声が漏れた。
腕の外殻が、わずかに腐食しているように見えたのだ。いかなる物理攻撃も受け付けず、火・風・雷・水の四大魔法でしかダメージを受けなかった黒の鎧。
その鎧が明らかに損傷している。
「これが……あの黒竜の能力……」
霧はさらに広がり、空を飛ぶ明人とルイに襲いかかった。
「うお! なんやコレ!? 雷の障壁をすり抜けてくるで!!」
「炎の障壁でもダメだ! 特殊な攻撃だよ」
二人は霧から距離を取って事なきを得たが、あの霧をまともに喰らえば全滅もありえる。悠真は逃げるべきだったか、と後悔するが明人は違っていた。
「やるやないか! なおさら倒したくなってきたで!!」
乗っているゲイ・ボルグごと黒竜に突っ込み、頭に攻撃してわずかな傷を作った。さらに雷魔法を撃ち込み、霧のブレスを吐かれる前に距離を取ろうとする。
しかし、黒竜もただでは帰すまいと口をガバリと開く。
その刹那――黒竜の体でいくつもの爆発が起きた。
悠真が視線を向ければ、ルイが刀を振って”炎の鳥”を生み出し、竜を攻撃していた。その一撃、一撃が強力で、黒竜は明らかに嫌がっている。
もしかしたら火魔法が苦手なのかもしれない。
「今だ! 僕が抑えてる間に悠真、明人! アイツを倒すんだ!!」
ルイの声に呼応するよう、悠真と明人が動き出す。悠真は左腕に『緑の王』の力を宿し、右腕に『赤の王』の力を再現した。
竜はギラッと悠真を睨み、首を引いてから”腐食のブレス”を吐き出す。
恐ろしい威力の攻撃だが、悠真が臆することはなかった。
メタルグリーンの外殻を纏った左手を竜に向けると、強力な風が巻き起こる。風は霧のブレスを吹き飛ばし、後方へと追いやった。
悠真はドンッと左足を踏み込み、右のストレートを竜の顔面に叩き込む。
メタルレッドの拳が当たった瞬間、竜の顔は烈火の如く爆発した。