From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (37)
第37話 株式会社D-マイナー
チラシの労働条件などを確認するが、とてもいいとは言い難い。
福利厚生は最低限あるものの、基本給が安すぎる。探索者はリスクがあっても報酬が高いことで人気があったのだ。
この条件では誰も応募しないだろう。
そう思ったが、悠真はピンッと閃く。
「待てよ……これだったら」
条件が悪いなら、それだけライバルが少ないってことだ。今までいい条件の企業を上から順に選んでいたけど、それが間違いじゃないのか?
むしろ悪い条件の企業を下から順番に受けていけば……。
とにかく内定が欲しかった悠真は、この方法に賭けてみることにした。悪い条件の企業に手当たり次第に応募して、受かった中から一番いい企業を選べばいい。
もう一度チラシを確認する。基本給は安いが、成果給はしっかり払うと書かれている。つまり働けば働くほど給料が上がる可能性はあるということだ。
「住所は千葉県……取りあえず応募してみるか」
◇◇◇
千葉県柏市――
悠真がD-マイナー社に電話を掛けたところ、面接したいと言われたため、千葉にある会社へ
赴
くことにした。
ネクタイを締め、リクルートスーツに身を固めた悠真が柏駅に降り立つ。
スマホの地図アプリを確認しながら歩いていると、寂れた商店街に迷い込む。
「う~ん、この辺だよな」
商店街を抜け、さらに人通りの少ない路地に入ると、年季の入ったオフィスビルに目が留まる。
それは五階建ての細長いビルで、お世辞にもキレイとは言えない。
「ここ……か?」
悠真は正面扉を開け中へと入った。室内は薄暗く、不気味な雰囲気さえ漂う。
「すいませ~ん、面接に来た三鷹ですが~」
大きな声で呼びかけるが応答が無い。どうしたものかと辺りを見回すと、壁に受話器が取り付けられていた。
その横に『御用の方は受話器を取って!』と、貼られた紙に書いてある。
「これを取ればいいのか?」
受話器を取って耳に当てると、プルルルルルと呼び出し音が鳴っている。どうやら自動的に繋がるようだ。
『――ガチャッ。はい、どなたですか?』
電話口に出たのは若い女性だった。
「面接に来た三鷹悠真です」
『あ~はいはい、聞いてます。悪いんだけど、一旦外に出て裏手に回ってくれる? そこに出入口があるから、三階まで上がってきて!』
「あ、はい、分かりました」
悠真は外に出て、ビルを回り込み裏手に行く。すると確かに裏口があった。
中に入ると
急勾配
の階段があり、上に向かって続いている。どういう造りなんだ? と思いつつも言われた通り三階まで駆け上がった。
「はぁ……はぁ……けっこうしんどいな」
息を整え、目の前にある扉を開く。
そこは雑多な物が乱雑に置かれ、えらく散らかっていた。デスクが並べられているので仕事場だと理解はできるが、この場所が物置だと言われても疑わないだろう。
「あの~三鷹です」
「あーはいはい!」
部屋の奥から若い女性がやって来る。歳は二十代前半だろうか、白のタンクトップにカーキ色のオーバーオールを履き、髪はロングの茶髪。
だが派手な感じはしない。むしろ落ち着いた印象を受ける。
「ごめんね、汚い所で。入って、入って!」
言われるまま中へと入る。部屋の中ほどにデスクが四つ。その上にはうず高く積まれていたのは、本や書類、何に使うか分からないガラクタだ。
「社長! 面接の子が来たよ。ほら、起きて!」
女性がそう言うと、部屋の奥にあるソファーから唸り声が聞こえてくる。
「うぅ~、ああ? もう、そんな時間か……」
社長と呼ばれた男は、ソファーから気だるそうに起き上がり、ボリボリと頭を掻いて大きな
欠伸
をする。
そのまま立ち上がって悠真の元までやって来た。
身長は大きく、百八十以上はあるだろうか。くたびれたTシャツから覗く胸板は厚く、腕も筋骨隆々だ。
だがボディービルダーのような
見
せ
る
筋
肉
じゃない。格闘家のような
使
う
筋
肉
だ。
「おう、よく来たな。まあ座れ」
社長は鷹揚な態度で席を勧めてきた。かすかに酒の臭いが鼻をかすめる。
――酒飲んでるのか!? 大丈夫かな、この人……。
悠真が近くにあったデスクチェアに腰をかけると、社長も隣のデスクにある椅子を引っ張り出し、ドスンッと座って悠真と向かい合う。
どうやら面接室などは無さそうだ。