From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (371)
第369話 二体の闘神
悠真は大猿の攻撃を、ただひたすらに耐えていた。
相手の連打が速すぎて、反撃する隙もない。体がバラバラになりそうな衝撃を受けて倒れそうになるが、なんとか踏ん張って態勢を維持する。
――このパワー。
特異な性質の魔物
の【
王
】を超えるほどの力だ。そんな力が永遠に続くはずがない。
血塗られた
鉱石
と同じようにタイムリミットがあるはず。
絶対的な確信はないものの、悠真は相手の”時間切れ”に賭けることにした。
唯一幸運だったのは、大猿が
物
理
攻
撃
し
か
し
て
こ
な
い
こ
と
だ
。
――俺は物理攻撃がまったく効かない。こいつに取って天敵なんじゃないのか? だけど、もし長時間この能力が使えたら……。
相手の攻撃がずっと続けば、こちらの『金属化能力』が先に切れる可能性もある。
もしそうならば勝ち目はない。
悠真は一抹の不安を覚えつつも、絶対に”超パワー”が先に切れる! と自分の気持ちを奮い立たせた。
そして大猿が赤紫の輝きに包まれてから五分が過ぎた頃――
殴り続けていた大猿の体から、急速に光が消えていく。
大猿は自分の両手を見ながら、一歩、二歩と後ろに下がった。そして鋼鉄の巨人に目を向け、驚いた表情をする。
悠真は両腕のガードを解き、背筋を伸ばして大猿を睨む。
――驚いてるな。全力を出して倒せなかった相手など、今までいなかったんだろう。勝負はここからだ!
悠真は
血塗られた
鉱石
を発動した。全身に赤い筋が走り、力が湧いてくる。
呆けていた大猿も危機感を覚えたのか、同じく
血塗られた
鉱石
を発動した。
赤い光を纏った二体の巨人。
悠真はさらに意識を集中し、自分の左手に意識を向ける。
血塗られた
鉱石
を発動するだけではこの猿に勝てない。
そう考えた悠真は【
王
】たちの力を解放する。
『うおおおおおおおおおお!!』
莫大な魔力が、悠真の体から噴き出した。【
王
】の力の一部を再現する『コングロマリット』の能力。もっと戦闘向きに、もっと接近戦に使いやすく――
“炎”と”冷気”と”風”が渦巻く状況に、大猿も警戒して一歩後ろに下がった。
粉塵が舞い上がり、悠真の姿を覆い隠す。 離れた場所で見ていたルイと明人も、ゴクリと息を飲む。
「悠真は勝負をかける気だ。これで勝てないと、かなり厳しいかもしれない」
ルイの言葉に、明人も同意する。
「ああ、せやな。大猿は”馬鹿力”を使い切ったみたいやし、勝負は一瞬でつくかもしれへん!」
ルイと明人が見守る中、舞い上がった粉塵が徐々に晴れていく。
大猿の前に現れたのは異形の巨人。
左腕はメタルレッドの鎧に覆われ、右腕はメタルブルーの鎧を纏う。両足にはメタルグリーンのレギンスが再現され、足首には黄金の体毛が巻き付いている。
より接近戦に特化された巨人の形態。悠真は両拳を顔の前まで上げ、ボクシングスタイルの構えを取った。
大猿は「グルル」と唸り声を上げ、地面を蹴って襲いかかってくる。
格闘能力は向こうの方が上。だが――
悠真は右手を前にかざす。爆発的な冷気が大猿を飲み込んだ。一瞬で地面が凍り、大猿の体にも霜が下りる。
相手の動きがわずかに鈍った。悠真はその隙を見逃さない。
右足を踏み込み、左の正拳突きを放つ。灼熱の剛拳が大猿の肩口にめり込んだ。
ジュウッと音が鳴り、猿の肩が溶け出す。
「ガアアアアアアアアアアア!!」
大猿は絶叫し、慌てて後ろに下がった。悠真は足に力を込め、地面を蹴って相手に突っ込む。
風の魔力を纏った両足は恐ろしい速度で回転し、一気に間合いを詰める。自分より速い大猿に追いつくには、この方法しかない。
相手が反応する前に、悠真は左の回し蹴りを大猿の首に叩き込む。
暴風が巻き起こり、大猿を岩壁まで吹っ飛ばした。
『まだまだ!』
悠真は追撃するため、さらに速度を上げる。壁にめり込んだ大猿も雄叫びを上げ、前に飛び出した。
左の拳で殴りかかってきたため、悠真は右のストレートで合わせる。
二つの拳がぶつかった瞬間――洞窟全体に衝撃が広がる。
殴り合った状態のまま動かない二体の巨人。その時、悠真の瞳がギラリと光った。氷の鎧を纏った右の拳は【絶対零度】の力を宿す。
大猿は白く凍った自分の腕を見て、甲高い声を上げた。
大猿が凍った左手を引くと、腕はバリバリと崩れ落ちる。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
この右手に触れたものは全て凍りつき、壊死して崩壊する。そして左手はあらゆるものを溶かすマグマの拳。
悠真は足を踏み込み、左のストレートを放った。
慌てふためく大猿は反応が遅れ、攻撃を顎に喰らってしまう。またしてもジュッと音が鳴り、顎の皮膚が溶け出した。
踏鞴
を踏んで悶え苦しむ猿に、悠真は前蹴りを叩き込む。
爆風が巻き起こり、大猿を三十メートル以上吹き飛ばした。岩に激突した猿は、よろめきながら膝をつく。
相当効いたようだ。それでも悠真が手を緩めることはない。
地面を蹴って大猿に襲いかかる。
相手もなんとか立ち上がり、迎撃態勢に入った。悠真は構わず突っ込む。
『これで終わらせる!!』
左右のラッシュが大猿に突き刺さる。炎の拳で相手のガードを粉砕し、氷の拳を大猿の顔や胸に叩き込んでいく。
悪夢のような猛撃。大猿に攻撃を防ぐ手段はなかった。
体の一部は溶解し、他の部分は凍っていく。立ったまま動くことのできない魔物は、悠真を睨んで口を開けた。
「ウガアアアアアアアアアアアア!!」
悠真は左足を踏み込み、右の拳を引いた。大猿の表情に、恐怖の色が浮かぶ。
右の正拳突きが大猿の首を捉えた。一瞬で首回りが凍りつき、大猿は動きを止める。悠真は
踵
を返し、相手に背を向けた。
『じゃあな。ヴァーリンの王様』
次の瞬間――大猿の首は木っ端微塵に砕け散った。