From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (386)
第383話 ありえない機影
ソフィアは持っていたタブレットに視線を落とし、事前にまとめた内容を読み上げる。
「各地の【王】が倒れたのと時期を同じくして、魔物の活動が勢いを失っています。これは空気中の”マナ濃度”が下がり始めたのと関係があるでしょう。つまり、魔物の【王】を全て倒せば、この異常な状況を脱することができると考えます」
ジョルジェは咳払いしてから「白の王を倒せる可能性は?」とソフィアに聞いた。
「充分可能かと。現在は【魔法付与武装】、及び【魔導装置】の技術が格段に発展しております。それに加えて
探索者
の技量も日に日に上がっているとの報告があります。以前は倒せなかった魔物も、今であれば恐れる必要はないかと」
「そうか」
ジョルジェは満足そうに頷く。役目を終えたソフィア席につき、足を組んで静かに微笑む。
その様子を見ていたイーサンは、小さな溜息をついた。
「では、各国から優秀な
探索者
を集い、白のダンジョン『オルフェウス』の攻略に当たる。この議題に関して『決』を取りたいと思う。よろしいかな?」
異論は挟まれず、参加国の投票が行われた。
この結果、世界最深度のダンジョン『オルフェウス』の攻略が、圧倒的賛成多数により決定した。
◇◇◇
太平洋上空に、悠真たちを乗せた『リアジェット35』が飛行していた。
悠真は小さな窓から外を覗く。どこまでも続く青い空、陽光でキラキラと煌めく広い海。今のところ順調な空の移動だ。
「やっぱり魔物は襲ってけえへんな。お前の魔力にビビッとんのやろ」
後ろの席に座る明人の言葉に、悠真は「そうなのかな?」と疑問を口にする。
すると、通路を挟んで隣の席に座るルイが話に入ってきた。
「充分ありえると思うよ。悠真はマナのほとんどを魔力に変えているからね。感覚が鋭い魔物は避けようとするよ」
「そんなもんか」
自分ではいまいちピンとこないが、やはり周りから見ると違いがあるのだろうか。
悠真はそんなことを考えながら、外の景色に目を移す。なんにしても、もうすぐ日本に着く。楓がいる日本に。
◇◇◇
今は使われていない成田空港。その滑走路に建設業者の姿があった。
魔物によって壊された滑走路の一部を補修していたのだ。六月の中頃を過ぎ、日に日に暑さが増していく。
スタッフの一人はヘルメットを取り、
袖
で
額
の汗を拭う。
その時、信じられない光景が目に入った。
「お、おい、あれ。飛行機じゃないか?」
急に話しかけられた別の作業員は、「あ? なに言ってんだ」と怪訝な顔をする。魔物が
跋扈
する世界において、空で移動するようなバカはいない。
今やっている滑走路の補修が終わっても、使われる予定はまったくないのだ。
そんな状況で航空機が離発着することはない。作業員はそう思い、空に目をやった。
すると、本当に空を飛ぶ機影がある。
「え? なんだ、アレ?」
十人以上いた作業員が次々と顔を上げ、異常に気づく。航空機はどんどん近づいてきた。向かって来るのは
こ
の
場
所
だ
。
「た、退避! 退避だあああ!!」
現場監督の声で全員が動き出す。慌てふためいて避難すると、航空機は補修場所のすぐそばを横切っていった。
徐々に速度を弱め、滑走路の中ほどで止まる。
作業員たちは少し離れた場所で目を丸くしていた。なぜ航空機が着陸したのか分からず、全員が戦々恐々としている。
かなり変わった形の小型飛行機。
作業員が見つめる中、完全に停止した機体のハッチが開く。
姿を見せたのは若い男。小さなタラップを下りて両手を伸ばす。その後も数人の男が次々と下りてきた。
現場監督は作業員を連れてその場を離れ、この事態をすぐに本社へと報告した。
◇◇◇
情報は日本政府を始め、エルシード社にも伝わる。
日本でも魔宝石を用いた通信機器が開発されていたが、まだ狭い範囲でしか使用することができなかった。
限られた人間だけが、成田空港に降り立った機体の情報を得る。
空港に向かったのはエルシード社の本田と石川、そして数名の
探索者
だった。
万が一に備えて武装させているものの、空港にいるのが誰なのか、本田と石川は分かっていた。
「彼らが帰って来たということは、旅の目的は達成したということでしょうか?」
ハンドルを握る石川が話すと、助手席に座る本田が「ああ」と答える。
「三人が日本を発って五ヶ月……空間のマナ濃度が低下してきたのを考えれば、恐らく各国にいる【王】を倒したのだろう。彼らなら充分考えられる。問題は望んでいた魔法を手にいれたかどうか……」
運転席に座る石川は無言のまま前を見る。三鷹悠真が求めていたのは人間を生き返らせる魔法。
そんな物があるとは到底思えない、荒唐無稽な代物だ。
それでも――と石川はわずかな希望を持つ。
「彼の願いが叶うことを祈りましょう。我々にはそれぐらいしかできない」
首都高速1号を進む二台の車は速度を上げ、一時間ほどで成田空港に到着した。
車を降りた石川たちが向かったのは、壊された空港ターミナル。誰もいない空港のロビーに足を踏み入れると、男たちの姿があった。
日本人三人と外国人が二人。
三人は石川と本田がよく見知った人物だった。
「あ! 石川のおっさんやないか!? ひっさしぶりやな」
「石川さん! 本田さん!」
天王寺の弟と天沢が駆け寄って来る。本当に久しぶりの再会だ。保護者のように目を細める石川だったが、意識が向いたのは二人の後ろにいた三鷹悠真だ。
以前にも増して、異常な魔力を全身から放っている。
プレッシャーで後ろに下がりそうになる石川だったが、グッと堪えて視線を前に向ける。
「……おかえり。三人とも、無事で良かった」