From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (389)
第386話 唯一の方法
田中の運転する車に乗って、悠真は実家に向かっていた。
東京とはいえ郊外にある家のため、付近は人通りもなく閑散としていた。そこそこ大きい一軒家の前で車が止まる。
「ありがとうございました、田中さん。すいません、こんな遠くまで」
車から降りた悠真は運転席の田中にお礼を言う。
「いやいや、これくらいどうってことないよ。それより早く親御さんに会ってあげて。ずっと悠真くんのことを待ってただろうから」
「そうだといいんですけど」
悠真は苦笑いする。もう一度お礼を言い、ドアを閉めた。田中は笑顔で手を振り、車をバックさせて来た道を戻っていった。
悠真は踵を返し、自分の家へと向かう。
玄関の前に立ち、本当に戻ってきたんだと安堵する。扉を開けて「ただいま」と声をかけると、「はいはい」と声が返ってきた。
母親がタオルで手を
拭
きながらやってくる。
「悠真!」
驚いた顔を見せた母親は歩み寄り、悠真を抱きしめて「ああ、無事だったのね」と涙声で喜んだ。
「すぐにお父さんにも知らせなきゃ。すぐ飛んで帰ってくるわよ」
「え? でもまだ仕事中なんじゃ……」
「いいの! 今日ぐらい早退したって、誰も文句は言わないわよ」
母親はご機嫌でスマホを取りに行く。
悠真は頬を掻きつつ、リビングへと向かった。久しぶりの家を見回しながら、裏庭に続く掃き出し窓を開ける。サンダルを履いて庭に出た。
勢いよく走って来た影に、思わず頬を崩す。
「わんわん!」
「おう、マメゾウ。元気だったか!」
駆け寄ってきたマメゾウを抱き上げ、よ~し、よしよし、と撫で回す。マメゾウもペロペロと悠真の顔をなめてきた。
久しぶりに感じる癒やしの時間。
日本に帰ってきて良かったと、改めて思えた。
◇◇◇
東京某所にあるエルシード社のトレーニング施設。広い道場のような空間にいたのは、ルイと天王寺、泰前と美咲ブルーウェルの四人だった。
ルイと天王寺は道場の中央で相対し、泰前と美咲は壁際でそれを見守っている。
「さあ、始めようか。遠慮はいらない。全力でぶつかってこい」
「はい」
ルイと天王寺の二人は最新型のプロテクターを身に纏い、訓練用の魔法付与武装を手にしていた。
帰ってきたルイの実力を試すため、天王寺が稽古相手を買って出たのだ。
ルイは天王寺の胸を借りるつもりで刃の引いた剣を構える。
天王寺はわずかに腰を落として魔力を練る。周囲にプラズマが走ると、天王寺の髪が逆立ち、金色へと変わっていく。
プラズマは金色の輝きから徐々に黒く染まっていった。
雷の第二階層――【黒雷】。
「お前も旅を通して成長しただろうが、俺たちも遊んでいた訳じゃない。大量の魔物を倒して、俺の魔力も上がっているぞ!」
天王寺が床を蹴った。足に雷の魔力を宿す”雷走歩法”。すさまじい速さでルイの
懐
に飛び込む。
――入る!
天王寺の拳が打ち込まれた瞬間――ルイの姿が消えた。
「なに!?」
天王寺は足を止め、周囲を見回す。ルイは背後で
佇
んでいた。
「やるな……」
天王寺は唇をなめ、もう一度突っ込む。目にも止まらぬラッシュを放つが、ルイはその全てを紙一重で避けてしまう。
天王寺は後ろに飛び退き、右の拳を引く。
「これならどうだ!」
天王寺が放った正拳から、黒い稲妻が『虎』の姿となってルイに襲いかかる。例え逃げても自動追尾する必殺の第三階層魔法。ルイに当たる瞬間、魔法を解除しようと思っていた天王寺だが、ルイは避けず剣を高々とかかげた。
「正面から迎え撃つつもりか……おもしろい!」
黒雷の『虎』はそのまま突っ込む。
ルイは振り上げた鉄剣に黒い炎を灯した。黒雷より強い第四階層の火魔法。
黒い稲妻と黒色の炎がぶつかり合い、轟音と衝撃が辺りに広がる。
天王寺は目をすがめて前方を見るが、そこには誰もいなかった。
どうやらルイの一撃によって『虎』は消滅したようだ。そしてなにより驚くべきはルイのスピードだろう。
天王寺は自分の首に当てられた鉄剣を見る。
ルイは背後に移動していたのだ。天王寺はニヤリと笑い、鉄剣を手で押しやる。
「強くなったな、ルイ。俺じゃあ相手にならないようだ」
「いえ、天王寺さんも”黒雷”を使いこなしていたので驚きました」
二人が話していると、離れた場所で見ていた泰前と美咲が近づいてくる。
「いや、すげーな! 離れてたのに、ルイの動きがまったく見えなかったぞ。どうなってんだ、一体?」
泰前が呆れ顔で聞いてくる。ルイは苦笑しながら『
暗黒騎士
』の話をした。
強力な魔鉱石によって尋常ならざる速さを手にいれたことを三人に説明する。話を聞き終えた美咲は、信じられないとばかりに頭を振った。
「そんな魔鉱石があるなんて……。私たちが知らないことは、まだまだ多いみたいね」
隣で聞いていた天王寺も、同意するように深く頷く。
「弟も……明人も同じぐらい強くなったのか?」
「はい、すごい強いですよ。マナ指数なら、明人の方が僕より上です」
「そうか……」
天王寺は難しい顔をしたまま黙り込む。しばらくなにかを考えたあと口を開いた。
「実は以前から計画していたんだが、ルイと明人がいれば可能かもしれない」
天王寺の言葉に、ルイは眉根を寄せ「なんですか?」と尋ねる。
「日本国内でもっとも被害を出しているのは『赤のダンジョン』の魔物だ。この被害を止める方法は一つしかない」
「それって――」
息を飲むルイに対し、天王寺は小さく頷いた。
「赤のダンジョンを攻略する。そのために力を貸してくれ、ルイ」