From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (391)
第388話 炎と雷のぶつかり合い
「聞いたか? 悠真の話」
明人が腕にテーピングを巻きながらルイに尋ねた。
ルイは靴紐を結びながら「うん」と小さく頷く。
「白のダンジョンに行くらしいね。たぶん、”蘇生魔法”と関係あるんじゃないかな」
「そうやろうな。白のダンジョンにいる強力な魔物をコピーできれば、白の魔法が使いやすくなるやろ。悠真にしては冴えとるやないか」
「僕たちも行きたいところだけど……」
ルイは立ち上がり、トントンとつま先を叩く。
「ああ、ワイらに取っちゃ、赤のダンジョン攻略の方が重要や。なにより、悠真なら一人でもダンジョン攻略くらいできるやろ」
明人も立ち上がり、立てかけてあった訓練用の槍を手に取る。
「ほんなら、いっちょやるか!」
二人がいたのはエルシード社の訓練施設。二日前、ルイと天王寺がぶつかり合った武闘場だ。
今この施設には、ルイと明人以外に数十人の見学者がいた。
攻略に参加するエルシードとファメールの
探索者
たちだ。天王寺と石川も壁際で二人を見守っている。
「本当に良かったのか? 訓練とはいえ、あの二人を戦わせて」
不安そうに腕を組む石川。そんな石川に対し、天王寺は楽しそうに微笑む。
「いいさ。ここに集まった
探索者
たちも深層攻略に不安を抱いている。あの二人の実力を目にすれば、少しは安心するだろう」
天王寺と石川が見つめる先、武闘場の中央でルイと明人が向かい合う。
魔力を高め合う二人によって、周囲の空気はピリピリと震え出した。
「観客が多くてテンションが上がるで。お前もそうちゃうか、ルイ?」
「楽しそうだね。僕は緊張しちゃうから、人は少ない方がいいかな」
「おいおい、それを負けた時の言い訳にしたらあかんで」
明人とルイは目線を合わせ、ニヤリと笑う。先に動いたのはルイだった。その姿が一瞬にして消える。
いくら明人の魔力が強くても、自分の速さにはついてこれないだろう。
ルイはそう考えていたが――
「うっ!?」
明人に近づこうとした瞬間、体にバチバチとなにかがぶつかる。ルイは目をすがめて明人を見た。
明人から放出された魔力が、稲妻となって辺りに広がっている。
――空間を支配する魔力障壁。これじゃあ、簡単に近づけない。
二の足を踏むルイを見て、明人はふふん、と笑みを漏らす。
「なんや、ご自慢の足は使えへんのか? ほんなら、こっちから行くで!」
明人は訓練用の槍を引き、床を蹴ってルイに襲いかかる。穂先から黒い稲妻が噴き出し、ルイの喉元に迫った。
「やれやれ、やっぱり明人の魔力は半端ないね。敵に回すと大変だ」
ルイは不適に笑い、持っていた剣を振るう。剣身に走った炎は黒く染まり、剣圧で稲妻を薙ぎ払う。
凄まじい炎の勢いに、明人の方がたじろいだ。
「うお、いきなり第四階層魔法か! それならこっちも――」
明人は槍を片手に持ち、腰を落として構えを取った。穂先に莫大な魔力が集まり、
佇
むルイに狙いを定める。
「喰らえ!!」
明人が渾身の突きを放った瞬間、穂先から閃光が走った。雷の第四階層魔法、あらゆるものを貫く”滅殺の閃光”だったが、ルイは「おっ」と言って軽くかわす。
ルイが避けた雷撃は武闘場の外壁をぶち抜き、遙か彼方の空へと消えてゆく。
破壊された外壁を見て、周囲にいる
探索者
たちは目を丸くした。見たことのない第四階層魔法のぶつかり合い。
誰もが想像を超える戦いに息を飲む。
「じゃあ、今度は僕から行くよ」
ルイは黒い炎が灯った剣をゆっくりと振り、下段に構えた。腰を落としてから一歩踏み込み、神速の剣を振るう。
一太刀に見えた斬撃から数十羽の炎の鳥が飛び立つ。炎の鳥は黒く染まり、一直線に明人に向かう。
明人は最大限の魔力を放出し、強固な魔法障壁を展開した。
鳥は稲妻の壁にぶつかり、次々と爆発していく。その衝撃は辺りに広がり、見学していた
探索者
たちは吹き飛びそうになる。
「くっ、ここまで魔力が強いとは……」
天王寺は魔法障壁を張りながら顔をしかめる。石川や他の
探索者
も魔法障壁を展開してなんとか耐える。
そんな周囲の状況に構うことなく、ルイは”神速”で駆け回り、明人に近づこうとしていた。
だが、辺りに渦巻く稲妻が行く手を阻む。
「本当に厄介だな」
黒い炎の剣で稲妻を切り裂いても切りがない。手をこまねいているルイを見て、明人は「はっはっはー」と高笑いする。
「どんなに速くても、近づけんのやったら意味ないやろ! そのまま吹っ飛ばしたるわ!!」
明人の体からさらなる魔力が放出される。稲妻は上へ上へと昇り、ついには天井を突き破って空へと向かう。
被害を受ける範囲も広がり、ルイは「くっ」と奥歯を噛んで後ろに引いた。
とても突っ込めるような魔力ではない。
「もういい! そこまでだ!!」
想像以上の戦いに、天王寺は慌てて止めに入る。明人は「なんや、もう終わりか」と不満そうに魔力を解いた。
戦いが終わった武闘場には、凄惨な光景が広がっていた。
壁や天井には大穴が空き、床などは爆発の影響でボロボロ。
「魔宝石で強化されている施設でこのザマか……。俺の判断が甘かったようだな」
天王寺は本田にどやされる、と思いつつも、ルイと明人の成長に目を細めた。
傍
らにいた石川も、満足そうに鼻を鳴らす。
「これほどとはな。これなら赤のダンジョン攻略、充分可能だろう」
「ああ、ここに来た
探索者
たちにも、いい影響を与えたんじゃないか? こんなにも心強い味方がいるんだ。深層攻略を恐れる理由はない」
天王寺と石川が見つめる中、
探索者
たちは興奮した様子で拍手を送っていた。