From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (394)
第391話 それぞれの攻略
悠真が北海道のダンジョンに潜っていた頃、イスラエルで大きな動きがあった。
テルアビブにヨーロッパから大勢の
探索者
が集まっていたのだ。
その人数は1200人以上。史上類を見ない大規模な攻略隊に、駆けつけた各国の政治家や官僚たちは感嘆の息を漏らしていた。
「いやはや、この光景は壮観ですな。これだけの
探索者
がいれば、オルフェウスの攻略など
容易
いでしょう」
そう話したのはポルトガルの国連大使、ジョルジュだ。
傍
らにいたポルトガルの大統領、マヌエル・マシャドも納得したように頷く。
「そうだな。なによりこの攻略隊のリーダーには、我が国の
探索者
ロレンゾが選ばれている。これは国に取って栄誉なことだ」
「はい、オルフェウスの攻略に成功すれば、世界を救ったのはポルトガルと後生まで語られるでしょう」
「ふふ、名誉なことだ」
二人が楽しげに見つめる先、広場には多くの
探索者
が整列していた。
そんな
探索者
たちを眺める者の中に、スイスの研究員ソフィア・シュミットの姿もあった。
「博士、このダンジョンの攻略……どれぐらいの期間でできそうですかな?」
ソフィアに声をかけたのはフランスの大統領オリオールだ。
縁
の太いメガネを指で押し上げ、鋭い視線をソフィアに向ける。
「そうですね。それほど時間はかからないでしょう。二週間……いえ、早ければ一週間で結果が出るかもしれません」
自信ありげに語るソフィアを見て、オリオールは満足そうに頷く。
「フランスも今回の遠征には多額の資金と
探索者
を出しているからな。結果が伴わないと国民からの反発を招いてしまう」
「ご安心下さい。オリオール大統領。参加する三百人の上位
探索者
には最新の魔法付与武装があてがわれていますし、補給用の物資も豊富にそろっています。失敗する要因はありませんよ」
「頼もしいな。私はこのままイスラエルに留まって、良い報告を直接聞こうと思っている」
ソフィアはニッコリと微笑んだ。
「朗報を楽しみにしていて下さい」
オリオールは控えていた取り巻きたちと共に去っていった。ソフィアは改めて大勢の
探索者
たちに視線を戻す。
――この攻略は私が全ての計画策定に
携
わっている。協力しなかったイーサン・ノーブルの代わりではあるが、成功すれば私の評価は大幅に上がる。
ソフィアの口角が妖しく上がる。
「オルフェウスの攻略は必ず成功する……いえ、
成
功
さ
せ
る
わ
」
◇◇◇
悠真に遅れること四日。茨城にある赤のダンジョン攻略準備が進んでいた。
『探索者の街』にあるドーム型の施設。ダンジョンの上に建設されたものだが、その外観は悲惨なことになっていた。
施設の前まで来ていた天王寺は、そびえ立つ建物を見上げる。
「【赤の王】による襲撃のせいで、街はほとん瓦礫の山だな」
隣にいた石川も周囲を見渡し、苦々しい顔をした。
「あの”火球”の直撃を受けたんだ。残骸があるだけでも奇跡的だよ」
二人は瓦礫の山を踏み越え、眼下にある大穴を見据える。
「やはりダンジョンだけは無傷で残っているな。こいつを破壊するには、攻略する以外に方法はない」
石川の言葉に、天王寺は「ああ」と相づちを打った。
「そのために俺たちが来たんだ。きっと攻略できる。これだけの
探索者
がいればな」
天王寺は振り返り、集まった
探索者
たちに目を移す。ここに来たのは100人を超える
探索者
とその協力者。
ほとんどがエルシードの人間だが、ファメールから応援に来た者もいる。
ルイと話し込んでいる明人もその一人だ。天王寺と石川は、今回の攻略に自信を持っていた。やはり大きいのはルイと明人の参戦だ。
この二人がいれば、きっと目標は達成できる。そう確信していた。
天王寺は瓦礫の上に立ち、集まった
探索者
たちを見る。
「全員、聞いてくれ」
100人を超える探索者たちが一斉に視線を向ける。天王寺は小さく咳払いしたあと、全員を見渡した。
「これからダンジョンに入る。今回目指すのは最下層。今まで誰も足を踏み入れたことのない領域だ。犠牲も多く出るだろう」
探索者
たちは無言のまま、真剣な眼差しで天王寺を見つめていた。
「例えどんなに犠牲が出ようと、撤退はない! 必ず攻略を成功させ、ダンジョンを消滅させる。そうすることで魔物による被害を最小限にするんだ。ここにいる者は、全員不退転の決意でついてきてくれ!」
天王寺は振り返り、ダンジョンに向かって歩み出した。
「行くぞ!!」
「「「おおっ!!」」」
轟くような歓声と供に、100人以上の探索者が一斉に動き出す。
集団の中にいたルイと明人も歩み始めた。
「兄貴も気合い入っとるやんけ! まあ、ワイらがいるんやから楽勝やけどな」
シッシッシと笑う明人とは対照的に、ルイは硬い表情を崩さない。
「そんなに楽観視はできないよ。この『赤』のダンジョンは世界で二番目に深いんだ。攻略が簡単にいくはずがない」
「か~硬ったいな~。ルイ、もっと前向きな考え方はでけへんのか?」
「現実的なことを言ってるだけだよ」
二人はそんな会話をしながら、他の
探索者
と共に巨大な穴へと入っていった。