From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (395)
第392話 色々あって
北海道・白のダンジョン百十二階層――
白い霧が漂う中、悠真たちは視界が効かない平地を歩いていた。
ここまで順調に進んで来たが、百階層を越えた辺りから足踏みが続いていた。
「また同じ道を歩いてるな……」
悠真は手の甲で
額
の汗を
拭
う。階層内をグルグル回っているだけで出口に辿り着かない。そんな状態から抜け出せずにいた。
「これが北海道のダンジョンの特徴ですね。百階層より下に人を迷わす”迷宮の蜃気楼”が起きるんです。だから食料などが多く必要になってしまう」
後ろを歩く秋山が顔をしかめて言う。北沢と大浦も疲れ切った表情で歩いていた。
悠真は白い霧に覆われた前方を睨む。”空間認知能力”を使っても、正しい道なりが分からなかった。
特殊な環境によって自分たちを惑わしているのだろう。この階層に着いて丸二日歩き回っているが、出られるかどうか分からない。
「いずれは出口に着くんですかね」
悠真はうんざりしたようにつぶやく。秋山は苦笑いした。
「エルシードの
探索者集団
で潜った時は、ここを抜けるのに四日かかりました。運良く正しいルートを見つけたんですよ。今回もうまくいくかどうか……」
悠真は足元に広がる雑草を踏みつけ、気力を振り絞って前に足を出す。
ダンジョン内で迷ってしまったのもしんどいが、それ以上に厄介なことがあった。
カサッと音が鳴り、霧がゆらりと揺れる。
悠真は右手を横に伸ばし、後ろの三人に危険をしらせる。秋山たちはピタリと足を止め、息を殺した。
「いるな……けっこうデカい」
悠真がピッケルを構えると、霧の中から白いものが襲いかかってくる。悠真は後ろに飛び退き、ギリギリで
そ
れ
をかわす。
「三鷹さん!!」
秋山が叫ぶ。北沢と大浦も武器を手に取り、油断なく構えた。
悠真は「下がって!」と警告し、右手の人差し指を前方に向ける。霧の中にいるのは、間違いなく【深層の魔物】だ。
ゆらりとわずかに霧が揺れ、凶悪な魔物の顔が見えた。
巨大な白いドラゴン――秋山が大声を上げた。
「タラスクです! かなり危険な魔物だ!!」
向かってくるのは翼のない四足歩行の魔物。見た目だけなら竜というより、サイに近いだろうか。
悠真はタラスクに向かい、指先から”白い閃光”を放った。硬そうなタラスクの体表に当たると、七色の光が乱反射して閃光を弾き返す。
「光の障壁か……」
悠真は一歩下がり、忌々しげに眼前の竜を見た。巨体をのっそのっそと揺らし、こちらに近づいてくる。
階層が深くなるにつれ、白い閃光が効きにくい魔物が増えてきた。
やはり強力な白の魔物には、光魔法に対する耐性があるようだ。
――まあ、赤のダンジョンの魔物も火には強いからな……当然と言えば当然か。
悠真があとずさるのを見て、後ろにいた北沢が声を上げる。
「引きましょう! ここは危険過ぎます。退避するのは容易なはずですから」
悠真はピッケルを構えつつ、確かにな。と思った。この霧がかかる迷宮のような階層は出口が見つからない。
しかし、入口には何度も戻っていた。帰るだけなら簡単なようだ。
「確かに魔物は倒しにくくなってきたけど、ここまで来て帰る訳にはいかないよ」
「でも――」
北沢が食い下がる。
「タラスクは上位
探索者
十人以上で倒す魔物です。私たちだけではどうにもなりません!」
秋山や大浦も顔を強張らせて同意する。だが、悠真だけは余裕の笑みを浮かべていた。
「悪い。不安にさせて。こっからは
本
気
で
や
る
か
ら
」
「え?」
困惑する北沢を
余所
に、悠真はピッケルを高々とかかげた。
ヘッドの部分に風が集まり、真空の球体が生まれる。一気に駆け出し、タラスクの足にヘッドを叩きつけた。
真空の球体が弾け、タラスクの体を削り取る。
大量の血が噴き出し、巨大な竜は鳴き声を上げた。
悠真はピッケルに風の魔力を集め、全力で振り下ろす。地面が砕け、爆風が周囲に巻き起こった。
霧を吹き飛ばすつもりだったが、わずかに揺れるだけで、霧はそのまま残ってしまう。
「そうか……この霧は【迷宮の蜃気楼】。実態があってないようなものなのか」
悠真はピッケルを引き、怒り狂うタラスクを見つめる。白い竜は駆け出し、地面を揺らしながら向かってくる。
悠真は小さく息を吐いた。
「まあいいか。向かってくるなら霧があっても関係ないし」
ピッケルに最大限の魔力を流すと、ヘッド部分が緑色に輝き出した。ピッケルに組み込まれたグリーンダイヤモンドが反応しているのだ。
悠真はピッケルを横に薙ぎ、風の刃を発生させる。
強力な風の刃はタラスクの体を斬り裂き、あっと言う間にバラバラにしてしまう。転がった竜の体は砂となってサラサラと崩れていった。
悠真はピッケルを肩に乗せ、ふぅーと息をつく。
「風魔法……」
呆然としたままつぶやいたのは北沢だ。それは秋山と大浦も同じで、信じられないといった表情で悠真を見つめる。
秋山は意を決したように一歩前に出た。
「み、三鷹さんは”風魔法”も使えるんですか? 今まで火と雷と回復魔法まで使って、そのうえ”風魔法”まで……どうしてそんなに多くの魔法を?」
困惑する秋山に対して、悠真は事もなげに答えた。
「う~ん、まあ色々あって……。一応、黒の強化魔法と水魔法も使えるから、六種類全部の魔法が使えるよ」
なんでもないように言う悠真に、秋山たちは口を開けたまま絶句した。