From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (396)
第393話 未踏の階層
茨城・赤のダンジョン八十九階層――
灼熱の大地が続く空間。丘の上に鎮座する魔物が、眼下の人間たちを睨む。攻略隊のリーダー、天王寺はゴクリと喉を鳴らして魔物を見た。
ゴツゴツとした赤い外殻、太い尻尾、地面に食い込む凶悪な爪。
目の前にいたのは赤のダンジョンに巣くう竜『ドレイク』だ。
エンシェント・ドラゴンの次に危険と言われる竜で、上位の
探索者
でも苦戦する魔物。隣でバトルアックスを構える石川が眉をひそめる。
「天王寺」
「ああ、分かってる」
天王寺が見つめる先、丘の向こうから二体のドレイク。左右の岩場から一体づつ、計五体のドレイクが歩いてくる。
天王寺は舌打ちした。
ドレイクは翼を持つものの、退化していて飛ぶことができない。だが、その火力は凄まじく、気を抜けば一瞬でやられるだろう。
天王寺は腰を落とし、攻撃態勢に入った。石川もバトルアックスを構えた時、後ろにいたルイが声をかけてくる。
「僕がやります。任せて下さい」
天王寺は振り返り、「いや」と首を振った。
「ルイと明人には、もっと下層で活躍してもらう。だから魔力は温存しておけ。ここは俺たちに任せろ」
天王寺に諭され、ルイは「分かりました」と言って一歩後ろに下がる。
エルシードの
探索者
たちが左右に散り、天王寺の合図で一斉に走り出した。熟練した連携を見せ、次々にドレイクを仕留めていく。
ものの五分でドレイクを全滅させ、なおかつ犠牲者をゼロに抑えた。
ルイは「さすがです!」と相好を崩し、明人は「これぐらいできて当然やで!」と軽口を叩いた。
一行はさらに深い階層へと進む。
攻略の速度はそれほど早くなかったが、なるべく犠牲者を出さないようにする。という天王寺の方針により、ここまで死亡者はゼロだった。
本来、後方待機の
救世主
を連れて来たことで、死者数を抑えていたのだ。
また、補給線の確保にも抜かりがない。
各階層に
探索者
を配置し、上からの補給を下に届けるルートを確保していた。その分、時間はかかってしまうが、死傷者を減らすためと言われれば反対する者はいない。
天王寺たちは数日をかけ、百四十階層に到達した。
「ここから先は、僕たちが前に出ます」
ルイは天王寺に断り、集団の先頭に立つ。明人もゲイ・ボルグを肩に乗せ、ルイの
傍
らに立った。
天王寺は「無理はするなよ」と言い、二人が集団を率いることを認めた。ここから先は強力な【深層の魔物】しか出てこない。
最強の二人が全面に出て戦わなければ、死傷者を抑えることはできないだろう。
天王寺はそう考え、石川と供に後ろに下がった。
日の照りつける大地を歩くルイは、汗を拭いながら視線を横に向ける。明人もまた
額
に汗をかきながら、大きな槍を肩に担ぐ。
「大丈夫、明人? 槍だけでも他の人に持ってもらったほうがいいんじゃない」
明人はフンッと鼻を鳴らす。
「大丈夫や、これくらい。ゲイ・ボルグはワイの相棒やからな。人に任せるなんて性に合わんわ」
笑って前を向く明人。ルイも同じように前を見た。地平の先に砂煙が立っている。
なにかがこちらに向かって来ている。
ルイと明人が足を止め、武器を構える。後ろにいた天王寺や石川も足を止めた。他の
探索者
たちも異変に気づいたようだ。
「よう知らん魔物やな」
「ここから先は行ったことのない場所だからね。どんな魔物が出てくるかはまったく分からないよ」
砂煙の中に見えたのは赤いバッファローのような魔物。それが集団となって向かって来ていた。
角は赤く発光し、全身から炎の魔力をたぎらせている。
天王寺や石川は顔を強張らせたが、ルイは
躊躇
せずに突っ込んでいく。一瞬で砂煙の中に入り、魔物を斬り飛ばしていった。
神速の力を使っているため、ルイはあっと言う間に二十体以上のバッファローをまっぷたつにする。
明人も負けてはいない。
ゲイ・ボルグに飛び乗り、上空へと舞い上がる。
上からはバッファローの大群がよく見えた。数は千から千二百程度。これぐらいなら問題ない。と明人は右手に魔力を集める。
大気を引き裂くような音が鳴り、空が曇りだした。明人は手を下に向け、ニヤリと微笑む。
「仰山おるな。まとめて吹っ飛ばす!!」
雷雲から稲光が大地に伸びる。至るところで爆発が起き、魔物たちが吹っ飛んでいく。稲妻は四方に走り、数百頭のバッファローを薙ぎ払った。
ルイと明人の猛攻に遅れを取るまいと、天王寺や石川も走り出す。
数十人の上位
探索者
がバッファローの群れに突っ込む。
ルイと明人、そして数十人の
探索者
の前に、いかに強い魔物でも無に等しい。彼らの進撃は止まらず、そこから百七十階層を突破するのに一日とかからなかった。
◇◇◇
「ぬあああああ! やっと抜けたあああ!!」
悠真は地面に突っ伏し、そのまま仰向けに寝転んだ。霧に覆われた階層を迷いに迷った末、なんとか抜けることができた。
ダンジョンの中で数日無駄に過ごしたことに、悠真は心底疲れ切っていた。
「大丈夫ですか? 三鷹さん」
秋山が心配そうに声をかけてくる。悠真は「ああ、大丈夫、大丈夫」と明るく返し、よいしょ、と言って立ち上がる。
「けっこう時間取られちゃったから、ここからはペースアップして行こうか」
「そうしたいのは山々なんですが……」
秋山は後ろに目をやる。そこにいた北沢と大浦は不安そうな表情をしていた。
「どうかしたの?」
秋山は真剣な眼差しで悠真を見る。
「ここから先はエルシード社の
探索者集団
でも潜ったことはありません。我々としても……未踏の階層です」