From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (397)
第394話 見覚えのある魔物
白のダンジョン・百五十七階層――
悠真たちは四苦八苦しながらも、なんとか階層を進んでいた。
「もっとすいすいダンジョンを攻略できると思ってたのに……こんなにしんどいとは」
顔を歪める悠真を見て、秋山は苦笑する。
「仕方ありませんよ。この『白のダンジョン』は、茨城の『赤のダンジョン』に次いで深いですからね。最下層に辿り着ければ、それだけで快挙だと思います」
「そんなもんかな」
悠真たちはゴツゴツした岩場を通り、丘の上を目指す。青空の下、丘からは開けた平地が見えた。
そこには小さな池があり、人影がある。
悠真たちは目立たないように身を隠し、池の近くにいる人影を眺めた。真っ白な体。女性のように線は細く、頭になにかがついている。
魔物であるのは間違いないようだが、悠真には見覚えがない。
隣にいる秋山に視線を送る。
秋山も知らないのか、小さく首を振った。北沢と大浦も同様のようで、戸惑った顔をしている。
「あの魔物……ひょっとしたら【
特異な性質の魔物
】かもしれませんね」
秋山の言葉に悠真は「ああ」と唸る。
「その可能性はあるか。じゃあ【
君主
】か【
公爵
】ってことか」
「ええ、そうだと思います。ただ、どちらか分かりません。【
公爵
】なら戦いようがありますが、【
君主
】なら逃げるしかありません。とてつもない強さでしょうから」
「う~ん、なるほど」
悠真はしばし考え込むが、初めて見る魔物だ。
君主
なのか
公爵
なのかなど、分かるはずもない。
「まあ、戦ってみれば分かるか」
悠真はおもむろに立ち上がり、丘を下りて池に向かう。
「み、三鷹さん!!」
大声を出すとマズいと思ったのか、秋山は最大限に抑えた声で悠真を呼び止める。
チラリと振り返れば、秋山だけではなく、北沢と大浦も青い顔をしていた。悠真は気にせず、速足で歩いて行く。
池の側に辿り着くと、白い魔物がこちらに顔を向けた。
悠真はわずかに眉をひそめる。魔物には顔がなかった。
のっぺりとした顔に、つるりとした手足。一見すれば、まるでマネキンのよう。
だが、頭部は極めて特徴的だった。
頭から白い蛇がいくつも生え、髪の毛のようになっている。まるで神話に出てくるメデューサのような姿。
悠真は慎重に足を進め、ピッケルを構えた。白いメデューサは地面を蹴り、一気に距離を詰めてきた。もの凄い速さだ。
メデューサは手から光の剣を伸ばし、横に振るった。
「うおっ!」
悠真は体を引いてギリギリでかわし、後ろに飛び退く。さらに突っ込んでくるメデューサを見て、悠真は奥歯を強く噛む。
「野郎!!」
ピッケルを高々とかかげ”火の魔力”を集めた。ヘッドにメラメラと炎が灯る。
悠真はピッケルを地面に叩きつけた。烈火の如き爆発が起き、向かってくるメデューサの足を止める。
今度は悠真が走り出した。
――近づいてピッケルを叩き込む!
そう思って踏み込んだ瞬間、メデューサの頭から何匹もの蛇が伸びてきた。悠真はギョッとして足を止める。
「なんなんだよ、こいつ!」
悠真は襲いかかってきた蛇をピッケルで打ち払う。蛇は引き千切れ、次々に地面に落ちていった。
白いメデューサは悠真を警戒し、動きを止める。両者は互いに距離を取り、睨み合った。悠真はメデューサの頭に視線を向ける。
白い蛇の何匹かは千切れていたが、一瞬で再生し、また元の蛇に戻ってしまう。
――やっぱり再生能力が高いんだ。再生できないほどダメージを与えないと。
悠真は駆け出し、メデューサに向かって白い閃光を放つ。だが”光の障壁”によって弾かれてしまった。
――ダメか……だったら直接打ち込むまで!
今度は接近し、炎の力を宿したピッケルを振るった。相手の脇腹に当たる刹那――またしても光の障壁に阻まれる。
「くっそ! 硬いな」
メデューサはお返しとばかりに光の剣を振るう。悠真はかわそうと飛び退いたが、剣の切っ先が左手の小指をかする。
「うっ!?」
異変はすぐに起こった。傷口がボコリと膨らみ、その膨らみが左手全体に広がっていく。悠真はマズい、と思い、ピッケルを自分の左手に当てた。
爆発が起き、悠真の左手が吹っ飛ぶ。
悠真とメデューサは再び距離を取って睨みあった。悠真は自分の左手に視線を移す。
手首から上が完全に無くなっていた。激痛が走り顔を歪めた悠真。だが、こうしなければ体全体が膨張し、弾け飛んでいただろう。
丘の上で戦いを見ていた秋山が大声で叫ぶ。
「三鷹さん、撤退しましょう! ヤツは
君主
です。このままじゃ殺されてしまう!」
青ざめた顔の秋山。隣にいる北沢と大浦も似たような顔をしている。
――俺が負けると思ってるのか。心外だけど、今の状況では仕方ないか……。
悠真はピッケルを地面に突き刺し、右手で左手を覆う。右手から光が溢れ出すと、一瞬で左手は再生していた。
それを見た秋山たちは、なにが起きたか分からず戸惑っていた。
悠真は再びピッケルを掴み、自分の肩に乗せる。
「しょうがない。あんまりあいつらに見せたくなかったけど……このままじゃ勝てそうにないし」
悠真はハァーと大きな溜息をついたあと、フンッと体に力を入れた。
皮膚が黒く染まり、禍々しい鎧が全身を覆う。秋山たちは青ざめていった。それは魔物と
見紛
う姿。
なにより秋山はその魔物に見覚えがあった。恐怖と供に口をつく。
「あれは……”黒鎧”! 黒の
君主
だ!!」