From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (398)
第395話 白の君主
異形の姿に変わった悠真は、ピッケルを下段に構えて走り出す。
メデューサが後ずさるものの、悠真の方が速い。相手の脇腹目がけ、ピッケルを横に振るった。
だが、やはり”光の障壁”に阻まれる。
悠真はギリッと歯を噛み、さらに力を込める。
「うおおおおおおおおおおおおおお!!」
ピッケルは”光の障壁”を打ち砕き、メデューサの腹を
抉
り取った。
悠真は間髪入れずに左足を踏み込み、相手の顔面を殴りつける。メデューサはよろめいて後ろに下がった。
悠真はその隙を見逃さない。ピッケルに火の魔力を流し、クルッと回して下段に構えた。
相手が態勢を崩す中、下から振るったピッケルがメデューサの右腕に当たり、爆発して吹き飛ばす。
腕を失ったメデューサは一瞬ひるむが、すぐに態勢を立て直した。
頭に生える無数の蛇が襲いかかってくる。悠真が慌てることはない。蛇は次々に噛みついてくるが、鋼鉄の体にはなんの影響もなかった。
悠真は全身に火の魔力を流す。体表に赤い紋様が浮き出てきた。
「はっ!!」
悠真に噛みついていた蛇が爆発していく。突然のことにメデューサはバランスを崩して尻もちをついた。
腹の傷は【自己再生能力】ですぐに治ったようだが、右腕と頭の損壊は治っていない。爆発魔法によって再生能力が阻害されているのだ。悠真はやはり、と思う。
「例え
君主
だとしても……相手にならない」
悠真はピッケルをクルクルと回し、ヘッドを高々とかかげた。メデューサは左手を前に突き出し、光の障壁を展開する。
強力で分厚い障壁。それでも――
悠真は真っ赤に発光したヘッドを”光の障壁”に叩きつけた。
障壁は爆発し、メデューサは地面ごと吹っ飛ぶ。火柱が高く昇り、粉塵が舞う。
メデューサは跡形もなく消滅した。周囲に『魔宝石』が落ちている様子はない。どうやらドロップはしなかったようだ。
悠真は
踵
を返し、秋山たちの元へ歩ていく。
金属化の時間が切れ、歩きながら人間の姿へと戻る。丘の上で見ていた秋山たちは、なんとも言えない表情で立ち尽くしていた。
やはり”黒鎧”の姿で戦うのは刺激が強かっただろうか?
「終わったよ。階層の出口を探そう」
「あ、はい……」
秋山は戸惑った様子で答える。北沢と大浦も顔が引きつっていたが、口を挟むことはなかった。
四人で丘を下り、青々と茂った森の中へと足を踏み入れた。
◇◇◇
「ねえ、どうするの!? あの人って、黒鎧なんでしょ?」
声をひそめて言ったのは北沢だった。
「エルシードや各国の
探索者
が必死に倒そうとした最強の
特異な性質の魔物
。それがどうして人の姿でここにいるの?」
北沢の言葉に、口数の少ない大浦も黙っていない。
「あの人って……人間なの? 魔物なの? 私たちの味方なんだよね。なにか知ってるの、秋山くん?」
秋山は黙ったまま口を真一文字に結んだ。五メートルほど先を歩く悠真を見つつ、後ろの二人に話しかける。
「俺は『黒鎧討伐作戦』に参加してたけど、末端の構成員で黒鎧が倒されたところは見てないんだ。ただ……」
「ただ……なに?」
北沢が眉間にしわを寄せる。
「黒鎧がどこかに運ばれたあと、ある噂が流れた」
「噂って、どんなですか?」
大浦が怖々とした表情で聞き返す。
「黒鎧は人間なんじゃないかって噂だ。政府や会社の上層部はなにも言わなかったんで、そのまま有耶無耶になっちゃったけど」
北沢と大浦は黙り込む。その噂が本当であることは、目の前を歩く三鷹悠真が証明している。
なぜ人間が魔物の姿をするのか?
黒鎧の処遇はどうなったのか?
エルシード社はどうして三鷹悠真に協力しようとするのか?
疑問は尽きなかったが、それを
質
す
術
はない。秋山たち三人にできるのは、ただ会社の命令を実行するだけ。
「とにかく、俺たちは三鷹さんを下層に連れて行くしかない。それしかできなんだ」
秋山の言葉に反論する者はいない。三人は悠真の後ろを歩きながら、さらなる下層に向かって進み続けた。
◇◇◇
巨大な縦穴。世界最大のダンジョン――オルフェウスの中を進む人影があった。
欧州各地から集まった
探索者
の集団だ。
上位の
探索者
が集まっただけあって、百層までは問題なく進むことができた。しかし、百層を越えた頃から様相が一変する。
『深層の蜃気楼』によって、明るい平原がどこまでも続いていた。
「ここから先が”天使の住処”か」
声を上げたのは集団の先頭を行くヴァレンティンだ。ポルトガルの
探索者
であり、今回の攻略責任者でもある。
歩いていた
探索者
たちは足を止め、頭上を注意深く見る。
抜けるような青空には、白い影がゆらゆらと飛んでいた。
天使――白のダンジョンに巣くう上位の魔物。
探索者
たちは緊張の色を強くした。
下位の天使であっても強力な魔法を使う。気を抜けば全滅もあり得る。
ヴァレンティンは「行くぞ!」と声をかけ、再び歩き出す。ここまでは順調に辿り着くことができた。それでも、とヴァレンティンは思う。
この百階層から始まる”天使の住処”を無事に抜けた
探索者集団
は存在しない。
今まで挑んできた
探索者
たちは、百二十階層の手前で全滅、もしくは手傷を負って逃げ帰っていた。
――本来なら進むことに
躊躇
するだろうが、これだけの上位
探索者
がそろってるんだ。恐れる必要はない。
ヴァレンティンは強気で歩き続ける。
その時、上空にいた白い影がこちらに気づき、急降下してくる。一体や二体ではない。数十体以上はいる天使の集団だ。
右手に光の剣を構え、左手には丸い光の盾を持っている。
「全員、迎撃態勢!!」
ヴァレンティンの号令で、列をなしていた
探索者
たちが武器を構える。
各々
が魔法を使い、天使の集団とぶつかり合った。