From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (399)
第396話 深層での激しい戦い
赤のダンジョン・百七十一階層――
目の前には大きな岩山がそびえ立つ。
その岩山はゆっくりと動いていた。四足歩行で歩く見たことのない魔物。一見すれば岩を背負った巨大な亀だ。
「これはデカいで! たぶんドラゴンの一種やろ、倒しがいがありそうや!」
見上げる明人はペロリと唇をなめる。亀の体高は優に四十メートルを超えていた。
周囲に展開した天王寺や石川、そしてエルシードの
探索者
たちは、あまりに巨大な魔物にたじろいでいる。
亀が背負った岩の上部から、大量のマグマが噴き出した。
階層内の温度は急上昇し、
探索者
たちは滴り落ちる汗をぬぐう。
亀の背から飛び出した噴石が辺りに落ち、衝撃で地面が揺れる。
亀は口からマグマを吐き出し、大地を火の海に変えていく。異常な魔力を宿す規格外の魔物だが、脅威はそれだけではなかった。
巨大な亀の後ろから、三匹の魔物が駆けてくる。軽トラックより大きな体躯で、マグマの大地を平然と疾走する。
「ケルベロスだ! 不用意に近づくな!!」
天王寺が大声で叫ぶ。ケルベロスは三つの頭を持つ大型の犬で、ヘルガルムの上位種に当たると考えられたいた。
深層の魔物の中でも極めて強いとされていたため、
探索者
たちは二の足を踏む。
さらに上空からは五頭のエンシェント・ドラゴンが滑空してくる。普段なら一目散に撤退すべき状況。
それでも天王寺は引くことを考えなかった。
「頼んだぞ……二人とも」
天王寺の思いに呼応するように、空と陸を駆ける二つの影があった。
ゲイ・ボルグで飛行する明人と、神速で走り抜けるルイだ。
ルイは抜刀し、刀を下段に構える。足に炎を灯してケルベロスと同じくマグマの上を走る。
「グゥオオオ!!」
恐ろしい形相でケルベロスが唸り声を上げた。三つの口に火種を溜め、ルイに襲いかかって来る。
極めて危険な状況、だが、ルイが慌てることはない。
冷静に刀を引き、移動速度を上げた。
次の瞬間――三匹いたケルベロスの、
九
つ
の
首
が
落
ち
た
。どれだけ強い魔物であっても、今のルイが遅れを取ることはない。
上空にいた明人も飛行速度を上げる。
「ワイも負けてられへんな!」
ゲイ・ボルグの先端から六つの穂先が飛び出し、稲妻を纏って空を駆ける。
本体のゲイ・ボルグと供に空中をジグザグに駆け回り、エンシェント・ドラゴンに襲いかかる。
恐ろしい速度で迫って来る槍と穂先。
竜たちは避けることができず、次々と撃ち落とされた。
強力な雷を纏った武器での攻撃。竜たちが展開する”炎の障壁”を易々と貫き、ものの数秒で五頭の竜を
葬
ってしまう。
下で見ていた天王寺たちは、二人の猛攻に言葉を失っていた。
「あとはこの”亀”だけや! 一撃で倒せるか? ルイ!」
大声で叫ぶ明人に、マグマの上を走るルイが答える。
「僕ら二人ならやれるよ。タイミングを合わせよう!」
「ああ、分かった!!」
明人が空中で黒い”雷龍”を生み出し、亀に向かって放つ。ルイはもう一本の刀を鞘から抜き、二つの刀で十字を斬った。
黒い炎の”獅子”が飛び出し、亀に向かっていく。二人の連携によって全てが決まった。”獅子”は亀の足に当たり、爆発して燃え上がる。
明人の放った黒龍はジグザグに空を泳ぎ、亀の背中に直撃した。背にあった岩が粉々になって弾け飛ぶ。
けたたましい鳴き声を上げた巨大な亀は、一歩二歩とあとずさった。
帯電する黒い稲妻と、燃え広がる黒い炎は亀を焼き尽くしていく。五分もかからず亀は倒れ、砂に還った。
マグマが冷えて固まった大地を歩き、ルイは砂の山に近づく。
そこには大きな宝石があった。真っ赤に輝く『レッドダイヤモンド』だ。
「ええ魔宝石がドロップしたな。使えるんはお前ぐらいやろ」
ゲイ・ボルグから飛び降りた明人が軽い口調で言う。ルイは屈んで宝石を拾い上げ、マジマジと見つめてから首を振る。
「これだけ大きい魔宝石を使うとなると、今の僕じゃ”マナ”が足りないよ。これは天王寺さんに預けることにする」
「ほんならこのダンジョンで”マナ”を上げればいいやないか」
「最下層まで行くことができればね」
ルイと明人はゴツゴツとした大地の先に目を移す。今いるのが百七十一階層。このダンジョンは二百十階層ほどあるとされている。
あと少しで最下層に辿り着く。否が応にも、二人の緊張感は高まっていた。
◇◇◇
悠真が白のダンジョンに入ってから一週間――
やっと百八十階層まで辿り着いた。ここまで来ると用意していた食料も少なくなり、いよいよ探索の継続が危うくなってきた。
『霧の階層』で足踏みしていたのが良くなかったのだろう。
悠真は厳しい表情のまま、美しい高原を抜けていく。
ふと見上げると、空になにかが揺らめいていた。
「天使ですね。北海道のダンジョンで確認されたことはありませんでしたが……やっぱりいたようです」
秋山が空を睨みながら言う。悠真もインドネシアで天使と戦っていた。
かなり厄介な相手と認識していたが――
「前に見たことがある天使じゃないな」
悠真の言葉に、秋山がコクリと頷く。
「ここまで深い階層にいる天使です。恐らくは上位種かと」
「天使の、上位種……」
悠真たちが見上げる空から、天使の群れがゆっくりと下りてきた。