From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (400)
第397話 魔物の寝床
「あれは
智天使
です!!」
強張
った顔をする秋山を
一瞥
し、悠真は空に視線を戻す。
向かってくるのは四枚の翼を持つ天使だ。頭には王冠のようなものを被り、右手に光の剣を持っている。白い衣を纏い、見た目だけなら人間のようだ。
だが、顔には目鼻がなく、のっぺりとしたマネキンのよう。
そして近づくにつれ、天使の大きさに目を見張る。
身長は少なくとも三メートルはあった。
「デカいな!」
悠真がピッケルを構えると、
智天使
は剣を突き出して突っ込んでくる。
疾風怒濤――三体の
智天使
が悠真に襲いかかり、光の剣を突き立てる。悠真は飛び退いてかわすも、剣は大地に突き刺さり、地盤を崩壊させた。
降り立った
智天使
に、少し離れた場所に避難していた秋山は息を飲む。
「三鷹さん!
智天使
はかなり上位の天使です。油断しないで下さい!」
天使と距離を取った悠真は「ああ」と答えてから、ニッと口角を上げる。
――もう、逃げろとは言わないんだな。
それは秋山が自分のことを信じているということ。
黒鎧の姿になったので
避
けられるかと思ったが、秋山を始め北沢や大浦にもそんな様子はない。
悠真はピッケルを握りしめ、全身に力を込めた。
一瞬で黒い魔物へと変貌し、地面を蹴って
智天使
たちに向かっていく。
――どんな魔物であっても、即倒す!
信じてくれてる秋山たちを危険に晒す訳にはいかない。そう思った悠真は足の回転をさらに上げる。
「
血塗られた
鉱石
!!」
体に赤い血脈が流れた。動きはさらに加速し、残像を生み出して
智天使
に迫る。
三体の天使は対応することができず、剣を振り回して牽制するのみ。悠真は光の剣を掻い潜り、炎を灯したピッケルを
智天使
の腹に叩き込む。
一体が爆発し、上半身と下半身が分かれた。そのまま光の粒子となって消えていくが、悠真が止まることはない。
ピッケルを横に引き、もう一体に迫った。
智天使
は強力な”光の障壁”を展開するものの、悠真に取っては障害にもならない。
ピッケルのヘッドに雷の魔力を流し、”光の障壁”に向かって振り下ろす。
瞬間――衝撃が辺りに広がった。バチバチと大気を引き裂くような音が響き、最後には障壁を木っ端微塵に砕いてしまう。
ピッケルは
智天使
の胴体にめり込み、雷の魔力を容赦なく流し込む。
雷撃をまともに受けた
智天使
は体を痙攣させ、しばらくすると動かなくなった。数秒で体が崩壊し、粒子となって空気に溶けていく。
悠真はピッケルを回して肩に乗せる。
最後の
智天使
は固まったように動きを止め、悠真を見下ろしていた。
互いに睨み合い、一触即発の空気が流れる。先に動いたのは
智天使
だ。右手に持っていた剣を突き出し、悠真を刺し殺そうとする。悠真はその切っ先を難なくかわしてピッケルを引いた。
「終わりだ!」
悠真が振るったピッケルが
智天使
の胸を砕く。大きな天使の体がグラリと揺れ、そのまま膝をついた。
天使の胸から光が漏れ出し、徐々に形が崩れていく。
悠真はホッと息を吐き、辺りを見回す。
「魔物は、こいつらで終わりか?」
他に魔物がいないか警戒していると、上空から五体の白い影が近づいてくる。
「まだ、あんなにいるのか」
めんどくさいな。と思った悠真はピッケルを地面に突き刺し、左手に意識を向ける。手の甲にある『宝玉』の力を解放した。
左手はメタルレッドに染まり、竜の頭を形どる。
解放したのはエンシェント・ドラゴンの能力。口の部分に火種を集め、
収斂
させていく。
悠真は左手を空に向けた。
「行けえっ!!」
竜頭から五発の”火球”が放たれる。
火球は一直線に天使へ向かい、次々と炸裂した。直撃したのは三体だけだったが、爆発によって残り二体も巻き込まれ、燃えながら落下してくる。
地面に落ちて藻掻き苦しむ天使。止めを刺そうかとも思ったが、強力な炎は天使を焼き尽くした。
最後は弱々しい光となって消えていく。
「もう天使はいないみたいだな」
悠真は『金属化』を解き、天使が死んだ付近を見て回る。するとキラキラ輝く魔宝石が一つだけ落ちていた。
「小さいけどダイヤモンドか……それにしても、なかなかドロップしないよな。このダンジョン」
ぶつぶつ文句を言う悠真だったが、魔宝石を集めるのが目的ではないため、「まあいいか」と宝石を飲み込む。
その後、秋山たちと合流して階層の出口に向かう。小高い丘の合間に、縦穴がポッカリと空いていた。
秋山は「行きましょう」と早足で下っていく。
北沢と大浦もあとを追った。悠真も縦穴に足を踏み入れたが、ピタリと動きを止め、自分の左手に視線を移す。
――白の
君主
や
智天使
はコピーしたけど……こいつらじゃ”蘇生魔法”は使えないだろう。
悠真は次の階層に向かう大穴を見つめた。もっと強い、もっと上位の魔物をコピーしないと。
悠真は秋山たちのあとを追い、暗い穴を下っていった。
◇◇◇
赤のダンジョン・二百十二階層――
「恐らく、ここが最下層だ」
天王寺は周囲を見渡しながら汗を
拭
った。攻略隊が辿り着いた最下層は、今まで見てきたどの階層とも違っていた。クリムゾンの石柱がいくつも連なり、ゴツゴツとした大地がどこまでも続いている。
気温は40℃を超えているだろう。
そんな灼熱の大地を歩き続け、攻略隊が見つけたのは、
巨
大
な
魔
物
の
寝
床
だ
っ
た
。
切り立った崖に囲まれたその場所には、赤い甲殻に覆われた魔物が鎮座していた。尋常ならざる大きさだ。
長い胴体を持ち、頭はドラゴンのよう。
尻尾の先にも顔があり、どちらが頭なのか分からなかった。崖の上からのぞき込んだルイは、息を飲んでから口を開く。
「あれが……【迷宮の支配者】」