From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (401)
第398話 驚異的な能力
赤いドラゴンは
蜷局
を巻いて眠っている。天王寺が後ろを向き、コクリと頷いた。それを見た石川たちは、機敏な動きで崖を下りていく。
ルイと明人も音を立てないように傾斜のキツい坂を下り、ドラゴンの寝床へと近づいていく。
間近で見る魔物は途轍もない大きさだった。まっすぐに伸ばせば、五十メートルはあろう胴体。
頭もエンシェント・ドラゴンの十倍はあるだろうか。人間など軽く一飲みにしてしまいそうな口からは牙が覗く。
攻略隊の面々は慎重に足を運び、ドラゴンを囲い込むように陣形を組む。
先頭を行く天王寺に
促
され、ルイと明人が前に出た。
二人は武器を構え、眼前の敵を睨む。
「ほんならいこうか! 一発で仕留めたるで!!」
「うん、全力でやろう!」
ルイと明人は
各々
が持つ武器に魔力を集めた。それに呼応するように、赤いドラゴンがピクリと動く。
だが、今から反応しても遅い。
ルイの斬撃が虚空を斬り裂いた。黒い炎がほとばしり、大きな鳥が顕現する。翼を広げ、飛翔する炎の鳥。ドラゴンの頭部に向かっていく。
明人も同時に魔法を放つ。矛先から生み出されたのは”滅殺の閃光”。
二人の攻撃はドラゴンに直撃し、激しい爆発を起こした。大量の煙が舞い、ドラゴンの姿は見えない。
普通の魔物ならこれで終わりだ。そう思ったルイと明人だったが、ザワつく感覚は消えることがない。
二人は油断なく武器を構えた。直後、煙がふわりと揺れる。
「くるで!」
「分かってる」
爆発したような衝撃。煙が雲散し、中から魔物が飛び出してきた。だが、一匹のドラゴンではない。
二匹のドラゴンがルイと明人に襲いかかる。
「なんや、一匹ちゃうんか!?」
一匹に見えていただけで、実際は二匹いたのか? ルイはそう思ったが、二匹に分かれたドラゴンの尾にも頭があった。ルイは突っ込んで来るドラゴンをかわし、刀で胴を薙ぎ払う。
長い胴はちょうど真ん中でまっぷたつになり、チリチリと黒い炎が
燻
っている。
これなら再生しないはずだ。ルイはそう確信したが、予想外のことが起きる。
切断した傷口が弾け、中から頭が飛び出してきた。
「なっ!?」
ルイは驚き、その場からあとずさる。分断した胴から、それぞれ頭が出てきた。
わずかに胴は短くなったものの、一匹のドラゴンが二匹に分裂したのだ。
――これがこの魔物の能力!
ルイはハッとして明人の方を見る。明人はゲイ・ボルグに乗り、上空からもう一匹のドラゴンを攻撃していた。
「だめだ、明人! 不用意に攻撃しちゃ!!」
ルイの叫びもむなしく、明人は強力な稲妻をドラゴンに打ち込む。胴体が引きちぎれ、二つに分かれた。
「よっしゃあ! どうや!?」
ガッツポーズを作る明人だったが、ドラゴンが傷口からボコリと頭を生やし、二つに分裂する。明人は驚いて顔を引きつらせた。
「なんや、あの魔物!? むちゃくちゃやないか!」
ルイと明人の前には、四匹に増えたドラゴンが睨みを効かせている。周りにいる
探索者
たちは絶句したまま、動くことができない。
明人は上空から下降し、ルイの横に飛び降りる。
「どうする? あんな魔物、見たことも聞いたこともないで!」
「うん、確かに知られてない【迷宮の支配者】だ。再生能力が半端じゃない」
二人は深刻な顔で四匹のドラゴンを見つめた。これ以上増えてしまうと、攻略隊を危険に巻き込むことになる。
それだけは避けないと。ルイはギリッと奥歯を噛む。
その時、後ろに控えていた天王寺が声をかけてくる。
「ルイ、明人! 俺たちがヤツの気を引く。その間に、お前たちが各個撃破しろ!!」
現状では妥当な判断に思える。でも――
「ダメです! それでは犠牲が多くなりますし、確実に倒しきれるか分かりません」
「しかし……」
「天王寺さんたちは下がっていて下さい。ここは僕と明人がなんとかします!」
背を向けたまま声を張り上げたルイ。どれだけ緊迫した状況なのかは、この場にいる全員が理解していた。
天王寺は隣にいた石川と視線を合わせ、納得するように小さく頷く。
「分かった。俺たちは後ろに下がる。あとは頼んだぞ。ルイ! 明人!」
自分たちは足手まといになる。そう感じた天王寺は後ろに退避し、石川や
探索者
たちもそれに続いた。
ルイはフゥーと息を吐き、改めて眼前の敵を睨む。
「こいつに中途半端な攻撃はダメだ。一撃で仕留めないと」
「せやな。そのためにはありったけの魔力をぶつけるしかない。いけるな、ルイ!」
「もちろん!!」
ルイと明人がニヤリと笑う。それを合図にしたかのように、四匹のドラゴンが一斉に地面を移動してきた。
明人はゲイ・ボルグに飛び乗り、上空へと舞い上がる。
ルイは二本目の刀【クラレント】を抜いてドラゴンの群れに突っ込む。
――頭を二つ持つ蛇のようなドラゴン……まるで神話に出てくる『ウロボロス』みたいだ。
ルイは蛇行しながら向かってくる一匹のドラゴンに狙いを定める。二つの刃に黒炎を流し、竜の頭に向かい十字に斬った。
炎が舞い散り、中から黒い獅子が飛び出す。
獅子はドラゴンに襲いかかって頭に喰らいついた。
大爆発が起こり、竜の頭を業火に飲み込む。一撃で倒そうとした攻撃。だが、竜は鎌首を持ち上げ、唸り声を上げる。
「ダメか」
頭の半分以上は吹き飛んでいるものの、完全に倒し切ることはできなかった。ドラゴンは尻尾側にあった頭をこちらに向け、再び襲いかかってくる。
ルイが刀を構え直した時、頭上から無数の”黒雷”が落ちてきた。
明人の援護だ。ルイは刀をクロスに構え、そのまま振り抜く。
切っ先から”炎の鳥”が生み出され、竜の顔目がけて飛び立つ。大口を開けたドラゴンはかわすことができず、激しい爆発に巻き込まれた。
皮が裂け、骨が見えて炎に巻かれても、ドラゴンは悶えながら向かってくる。
「くそっ!」
ドラゴンの傷口はモコモコと肉が盛り上がり、また再生が始まった。
――やっぱり、白の魔物と同じか、それ以上の再生能力! 完全に倒し切るのは難しいか……。
ルイが奥歯を噛んだ瞬間、空から雷光が落ちてきた。
明人が放った”滅殺の閃光”だ。
これにはさしものドラゴンも耐えられず、動きを止めて砂へと変わった。
「……倒せた」
ホッとしたのも束の間、空から怒声が降ってくる。
「まだや! 気い抜くな、ルイ!!」
明人の声で顔を上げるルイ。残ったドラゴンが蛇行しながら迫って来た。