From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (43)
第43話 最新式
「ところでこの武器、なんて名前なんですか?」
「うーん、確か長ったらしい正式名があった気がするが……」
そう言って社長は眉間に皺を寄せ、ボリボリと頭を掻く。
「やっぱり覚えてねえ。俺は‶ピッケル″って呼んでたけどな」
「ピッケル?」
「登山に使う道具だよ。あれに形が似てたんでピッケルって呼んでんだ。そうだよな田中さん!」
「ええ、私もそれ以外の呼び方は知りませんね」
――ピッケルか……。俺には合ってる気がするな。これを使ってガンガン魔物を狩りまくろう。
「あとは防具だな」
社長は重ねて置いてあるヘルメットを一つ取り、悠真の頭にバフッと
被
せる。
「こいつを被っていけ」
「これ、ダンジョン用のヘルメットですか?」
「いや、作業現場で使う普通のヘルメットだ」
「作業現場……」
怪訝な表情になる悠真を
他所
に、社長は床に置いてある黒い長靴を持ってくる。
「ほい、これも履いていけ」
「これも、まさか……」
「もちろん作業現場で使う普通の長靴だよ。いやいや、なんだかんだ言って、これが一番役に立つんだって」
「はあ……」
「ああ、あと――」
社長は部屋の奥へ行き、ロッカーを開けて何かを取り出す。「これこれ」と言いながら悠真の元へ持ってきた。
「ほら、これ使え。ゴム手袋だ」
「ゴム手袋ですか?」
「重要な防具だ。水気の多いダンジョンでスタンガン系の武器を使うんだ。感電を防ぐ長靴とゴム手袋は必須だぞ!」
「いや、まあ、そうかもしれませんけど。これ防具って言えるんですかね?」
「立派な防具だよ!」
「ちなみに、このゴム手袋も作業現場用ですか?」
「いや、これは家庭用だ」
「家庭用!?」
唖然とする悠真だったが、社長に「いいから行った、行った」と言われ、部屋から追い出される。
道具を一式持ち、仕方なく田中さんと共に『青のダンジョン』へと向かった。
◇◇◇
福岡県大野城市――
五年前、大野城総合公園に出現した『緑のダンジョン』。
穴の上には大きなオフィスビルが建造され、様々なダンジョン関連企業が入居していた。
DeNAエルシードもその一つ。
ビルの四階フロアを全て借り上げ、エルシードの福岡支部として利用している。
「こっちだよ。天沢君」
福岡支部の
探索者
吉岡に手招きされ、ルイは黒い自動ドアを抜けて『armoury』と書かれた部屋に入る。
そこに並べられていたのは数々の武器や防具、どれもエルシード社製の物だ。
「はっはっは、凄いだろう! 最新式の物ばかりだ。こんな物が好きだけ使えるのはエルシードの
探索者
だけだぞ」
豪快に笑う吉岡に、ルイも顔を綻ばせた。
本田に言われた通り、卒業後すぐに福岡へ飛んだルイは早速ダンジョンに入ることになる。
今日は探索に使う武器や防具を受け取りに来ていた。
「確かに凄いですね。こんな高価な物、雑誌でしか見たことありません」
「まあ、エルシードは探索者の育成費をケチったりせんからな」
ルイの目の前にいる吉岡は、福岡の探索者集団‶
害虫駆除業者
″のリーダーだ。
身長はそれほど高くないが、がっしりした体格。角刈りにした髪型は、いかにも職人気質に見える。
「まず防具からだな。今着ているスーツは防刃仕様だが、それだけじゃ心もとない。その上からプロテクターを着てもらう」
ルイは白と灰色のツートーンカラーのピッチリしたスーツを着ていた。
なんの素材で作られているのかは分からなかったが、とても丈夫な素材なのは間違いない。
吉岡がラックから、ルイ用にオーダーメイドで作られたプロテクターを取り出し、部屋の中央にある長机の上に置いていく。膝脛、胸部、脊椎背面、パンツインナー、肩肘など体のあらゆる箇所を守るプロテクターが並べられる。
さらに白い手袋とブーツも置かれ、吉岡は最後にヘルメットを手に取った。
それは白と黒で彩られたフルフェイス型のヘルメット。
「取りあえずこれだけだな。これは全部耐熱、防刃機能を持ってる。緑のダンジョンは風魔法を使ってくる魔物が多いからな。斬撃を防げる防具は必須なんだ」
「このヘルメットは……」
「おう、知ってたか。こいつはハイテクの塊だ。通信機能はもちろん、シールドの部分には望遠、暗視の視覚サポート機能。ネットにも繋がるから、AIによるサポートも受けられるぞ。そんでこいつが……」
吉岡は白い手袋を手に取り、ルイに見せてきた。
「ここに液晶画面があるだろう。ここで時間やバイタルをチェックできる。体調管理も大事な仕事だからな。異常が出たらすぐ言えよ」
「はい、ありがとうございます」
「次は武器だ。俺のおすすめがあるんだが……」
「吉岡さんの指示に従います。この『緑のダンジョン』の専門家中の専門家ですから」
「はっはっは、そうか! だったらこいつが最適だぜ」
吉岡が棚から取り出し、鞘から抜き放ったのは赤い刀だった。