From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (56)
第56話 世界の理
地上で魔法が使える? はっ、ありえねぇ。そんなこと絶対に。
しばらくすると舞香が用事で外出し、田中さんは『青のダンジョン』に行くための準備で下の階に行った。
オフィスには、神崎と悠真の二人きり。
神崎は机の引き出しに入っていたガラクタの箱を取り出す。昔、なにかの部品で使った物だが、なんだったのかは覚えていない。
「悠真」
「はい」
「せっかくだから魔法、使ってみるか?」
「え? でも魔法ってダンジョンでしか使えないんですよね。今から行く『青のダンジョン』で使ってみようかと思ってたんですけど……」
悠真は困惑した表情で見つめてくる。
「まあ、そうなんだがな」
神崎は悠真のデスクに、ことりとガラクタの箱を置く。
「こいつは特殊な機械でな、ダンジョンじゃなくてもこの箱の周りでなら魔法が使えるんだ。試してみないか?」
「ええ!? そんな機械があるんですか? 知らなかった」
悠真はまじまじとボロい箱を見つめる。もちろん大嘘だ。そんなことできる訳がない。
だがアイシャのくだらない話を否定するには丁度いいだろう。
「やっぱりプロの
探索者
って、凄いもの持ってるんですね」
「まあな。小さな水魔法ぐらいなら使えると思うぞ、やってみろよ」
「はい!」
悠真はなんの疑いも持たず、自分の手の平に力を込め、うぐぐぐぐと唸っている。
「最初は指先に魔力を集中させるんだ。うまくいけば小さな球体ができるはずだ」
「指先ですか、分かりました!」
今度は右手の人差し指を立て、プルプルと震わせながら力を込めていた。
「ううう……出ません……」
「はっはっは、まあ最初だからな。ダンジョンに行けばもっとうまくだせるから心配するな!」
やはり魔法は出なかった。神崎は安心して自分のデスクに戻ろうとする。
地上で魔法など使えるはずがない。神崎自身も以前、仲間たちとダンジョンの外で魔法が使えないか散々試したことがある。
当然、誰も成功しない。
ダンジョンの入口付近でも無理だった。完全にダンジョンの中に入って初めて魔法が使えるのだ。
後にダンジョン内に充満している『マナ』によって魔法が使えることが証明され、科学的にも地上では魔法が使えないことが解明された。
『ダンジョンの外で魔法は使えない』
それはダンジョンが出現した世界における不文律であり、
理
。
決して
覆
ることのない常識。
そんなことも忘れたのか、とアイシャに対して呆れた気持ちになる。
「ああ!」
大きな声に神崎が振り返ると、悠真は目を見開いていた。
なんだ? と思っていると悠真の指先で何かが揺らめく。
「社長! やりましたよ。水の球が出てきました!!」
悠真が差しだしてきた指先には、確かに小さな水球があった。とても小さな水球、だが間違いなく魔法が行使されている。
一度も見たことも無ければ、聞いたことも無い現象。
世界の理も、今までの常識も、なにもかもが崩れ落ちてゆく。
◇◇◇
その日の午後、神崎は車でアイシャの研究所に向かった。
「おい! アイシャ!!」
バンッと力任せにドアを開け、部屋の中へズカズカと入る。アイシャは椅子の背もたれに体を預け、目頭を指で揉んでいた。
「本当に魔法が使えちまったぞ!! どうなってんだ!?」
「……だから言っただろ、あの男は異常なんだよ」
「ど、どうすんだ? そんな莫大なマナ指数があったら企業間で争奪戦になるぞ!」
多くの大企業は『白の魔宝石』を使わせるため、大量の‶無色のマナ″を持つ人間の育成に力を入れている。
だが戦闘能力の無い者のマナ指数を上げるのは容易ではなく、どの会社も苦労していた。
「バカかお前は? 企業間どころじゃない。国家間の奪い合いになる。国際問題になってもおかしくないレベルだ」
「国際問題って、それは言いすぎだろ……」
アイシャはハンッと鼻で笑う。
「よく考えてみろ。四十六万のマナ指数だぞ? それだけあれば世界最高の魔宝石、各色の〝ダイヤモンド″が使えるということ。それも好きなだけな」
「ダイヤモンド……」
「それに……これは噂レベルだが、一部のダンジョンからマナが漏れ出してるって話もある。だとしたら、いずれ地上もマナで覆われる」
「なに!? そんな話、初めて聞いたぞ!」
「学者の間で出回ってる話だ。本当かどうかは分からんが、本当だとすれば国は魔法の軍事利用を当然考えるだろう。そうなれば、三鷹悠真は喉から手が出るほど欲しい存在のはずだ」
神崎はガシガシと頭を掻く。まさか、こんな大事に巻き込まれるとは思っていなかったため、どうしていいか分からなかった。
「もう頭が痛いぜ。平凡に
探索者
として金を稼ぎたいだけなんだが……」
「頭を抱えているところ申し訳ないが」
「なんだよ!?」
「もっと大きな問題がある」
「えええっ!?」