From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (58)
第58話 アイシャからの提案
早朝、電車に乗って会社に向かっていた悠真は、ドアの近くにあるポールに掴まり車窓を眺めていた。
車内がそこそこ込み合う中、流れゆく景色を見ながら悠真は物思いにふける。
――まあ、庭にできた穴が世界で一番深いダンジョンだなんて有り得ないよな……社長や田中さんも、エレベーター式のダンジョンはただの噂話だって言ってたし。
なにより、そんな深い所にいる魔物を倒せるはずがない。それより重要なのは魔法のことだ。
会社で魔法を使ったあと、田中さんと『青のダンジョン』へ行き、そこでも魔法を使ってみた。
社長が言う通り、ダンジョン内の方が遥かに魔法は使いやすい。
田中さんは「とっても上手だよ!」と喜んでくれた。次の日もダンジョンに入り、カエルを倒してから、魔法の使い方を教えてもらっている。
まだまだ弱い魔力なので飛ばしたりすることはできないようだが、今は水球の大きさを変えたり、出したり消したりといった練習をしている。なかなか楽しい練習だ。
それにしても会社で魔法が使えたと言ったら、田中さんに「ありえないよ!」と笑い飛ばされてしまった。そんなに才能が無さそうに見えるんだろうか?
まあいい、もう少し‶水の魔力″が上がれば、魔法付与武装を使えるみたいだし、そうすれば『赤のダンジョン』でも活躍できるかもしれない。
悠真はグフフフと、気持ち悪い笑みを浮かべながら柏駅で電車を降りた。
◇◇◇
「悠真、一緒にアイシャの所に行くぞ!」
「え? アイシャさんの所ですか?」
出社した悠真は社長に声をかけられ意外に思った。今日も当然『青のダンジョン』に行くと思っていたからだ。
「この前やった身体測定のデータが出たみたいだ。今後のこともあるし二人で聞きに行こうと思ってな」
「あ、そうなんですか」
なるほど。確かにマナ指数がいくつなのかなど、詳細は聞いてなかった。自分のマナが上がりにくいのか、それとも測りにくいだけなのか。
その辺りのことは分からないままだ。
詳しいことを教えてもらえるなら、ありがたい。
「分かりました。行きましょう!」
悠真は二つ返事で承諾した。
◇◇◇
会社がある千葉県柏市から、研究所がある東京の大田区まで首都高速6号を通って1時間ほどで到着する。
研究所の敷地内に停めた車から降り、建物を見上げた。
相変わらず見た目はボロい、トタンの町工場だ。社長と一緒に中に入り、階段を上がる。
「おい! 来たぞ、アイシャ」
「おじゃまします」
部屋に入ると、そこにアイシャが待っていた。
白衣のポケットに両手を突っ込み、立ったままこちらを見ている。
スラリとしたスタイルに、整った顔立ち。相変わらず目の下の隈はヒドイが、以前と違いニコやかな笑顔だった。
「やあ、悠真くん。よく来たね、待っていたよ」
明らかに雰囲気の違うアイシャに困惑しながら、悠真は手招きされたソファーに腰を下ろす。
対面にアイシャが座り、その隣に社長が座った。
そわそわしている社長が、咳ばらいをしてから口を開く。
「悠真……お前、なにか隠してないか?」
「え?」
ドキリとした。急にどうしてそんなことを聞くんだ!? 悠真は慌てて言い繕う。
「い、いえ、隠し事なんてありませんけど」
なんだ? なにかおかしなことでもしたんだろうか!? 悠真が頭の中でグルグル考えていると、今度はアイシャが口を切る。
「実は先日行った身体測定なんだけど、ちょっとおかしなものが見つかってね」
「お、おかしなものですか?」
悠真はゴクリと喉を鳴らす。
「君……魔鉱石を摂取してるね。それも大量に」
ああああああ! バレてる!! それも完全にいいいいいいい!!
ま、まずい。なんとか誤魔化さないと。
「な、な、な、なんのことでしょう? さっぱり分かりませんが……」
もはや呂律は回らず、額に大量の汗をかく。
それでもバレる訳にはいかない。バレたら間違いなく逮捕される。
「おい、悠真……あのな~」
「待て」
なにか言おうとした社長をアイシャは手で制し、ギロリと睨みつけた。
「ここは私が話す。いいな?」
「お、おう……」
その迫力に押されたのか、社長は素直に引き下がった。
「悠真くん、君が言いたくないのは、もちろん理由があるんだろう。それを無理矢理教えろなんて、とても厚かましいお願いだ」
アイシャは柔和な表情を浮かべた。だが目の奥がギラついているように見える。
「そこで我々もリスクを負うべきだと思うんだよ」
「リ、リスク?」
言ってる意味がよく分からない。隣にいる社長も困惑しているようだ。
「君はダンジョン関連のことで何か隠している。だが、私は研究者としてどうしてもそれが知りたい。そこで――」
アイシャはテーブルの上に一枚の紙を差し出した。
「これが私からの提案だ。三鷹悠真くん」