From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (66)
第66話 大量の魔鉱石
悠真たちは十階層まで下りて金属のムカデや大きな蛇の魔物を何匹か倒し、その日は引き上げることにした。
ダンジョンを出て、事前に予約したビジネスホテルに向かう。
チェックインした後、アイシャは一人部屋に行き、悠真と社長は同じ部屋で休むことになった。
「うう~、明日動けるかな~」
悠真は風呂から上ると、体中に湿布を張りまくった。
全身が悲鳴を上げてるようだ。ガチガチになった体を休めるため、ベッドで大の字に寝転がる。
「大丈夫か、悠真?」
缶ビールを飲みながら社長が心配してくれる。
「厳しいですよ。これが毎日続くんですか?」
「まあ、けっこうなスパルタだったな。しばらくすれば慣れると思うが……」
社長の頑強な体なら大丈夫だと思うけど、自分の体ではとても持たないんじゃないだろうか?
そんな心配をしながら、悠真は憂鬱な気分で眠りに就いた。
◇◇◇
「さあ、今日も張り切って行こう!」
翌日、揚々とダンジョンに入っていくアイシャの後ろを、悠真と社長はゲンナリした表情で歩いていた。
「アイシャさん、今日も十階層まで行くんですかね?」
「いや……二十階層まで行くって言ってたぞ」
社長と二人で「ハァ~」と溜息をつく。
八階層まで下りると、昨日と同じように魔物を次々と倒していった。
筋肉痛で動きが鈍い悠真に代わり、社長が魔物を捕まえて慎重にダメージを与えてから悠真が
止
めを刺す。
この方法で魔鉱石をドロップさせ、昨日と同じペースで回収していく。
さすがに社長も大変だったようで、半日でグロッキー状態になっていた。
それから一週間。
十階層から二十階層まで何度も往復しながら、さらに大量の魔物を倒していく。
十階層より下に進むと‶ゴーレム″と呼ばれる魔物が主流となり、土で出来たものから、岩で出来たもの、中には金属で出来たゴーレムまでいて倒すのに苦労した。
そして週末の夜。横浜のビジネスホテルの一室で――
「さあ、見てくれ! このすばらしい魔鉱石の数々を!!」
アイシャはテーブルの上に、大量の魔鉱石を入れたケースを並べる。それを悠真や社長に見せていた。
「これが『鉄』、これが『鉛』、こっちが『銅』で、他にも『クロム』『カリウム』『アルミニウム』……全部で421個もあるぞ!」
大喜びするアイシャに、社長は「はいはい、良かったな」と空々しく答える。
「すごい数ですね。これでもまだ魔鉱石を集めるんですか?」
悠真が尋ねると、アイシャは笑いながら首を横に振った。
「いいや、一旦研究所に帰って、この魔鉱石の分析をしようと思ってる」
「そうなんですか……じゃあ、俺と社長はなにしてればいいんですか? しばらく休んでてもいいですかね」
悠真が聞くとアイシャはキョトンとした顔になる。
「なにを言ってるんだい、悠真くん。魔鉱石の分析には君が必要なんだよ」
「え!? 俺ですか?」
突然聞かされた話に悠真は驚いた。
「君にはこの魔鉱石を食べてもらって、身体能力がどう変化するのかを調査したいんだ」
「こ、これを食べるんですか……? 何個ぐらい食べればいいんですかね」
「ん? もちろん全部だよ」
「全部!?」
サラッと言われた一言に、悠真は衝撃を受ける。421個の魔鉱石を全部食えなんて正気の沙汰じゃない。
悠真は振り返って社長を見るが、缶ビールを飲んでいた社長は明らかに視線を逸らした。――ダメだ。この人じゃ頼りにならない!
悠真はなんとか断ろうと、アイシャの説得を試みる。
「いや……でも、さすがに421個は無理じゃないですかね~食べ切れませんよ」
「大丈夫、大丈夫。魔鉱石は体の中で溶けて無くなるから、お腹がいっぱいになんてならないよ」
「いや、しかしですね。俺、マナ指数200しか無いですし、こんなに魔鉱石食べたら‶魔法″が使えなくなっちゃいますよ!」
「大丈夫、大丈夫。魔鉱石の‶マナ指数″は総じて低いんだよ。どれも小数点以下の物ばかりだ。それに君は連日魔物を狩り続けてマナ指数も上がってるはずだからね。マナに関しては、私がしっかり計算しておくから心配しなくていいよ」
「いや~でもですね……」
ニコやかに笑うアイシャを見て、悠真はシドロモドロになる。10個や20個の魔鉱石なら食べてもいい。
金属スライムの魔鉱石だって、たくさん食べてきたんだから。
でも421個は嫌だ! 体に悪い予感しかしない!!
「大丈夫だよ、悠真くん。本来回収した魔鉱石の所有権は依頼主の私にあるが、その魔鉱石を全部あげると言っているんだから悪い話じゃないだろ?」
「そ、それはそうかもしれませんが……全部食べたらどうなるんですか? 体がムキムキになるとか?」
「いやいや、大量に食べたとしてもね、それほどの効果は無いよ。魔鉱石の影響は少ないのが普通なんだ。君の使った『金属化』なんてのは異例中の異例だよ」
「そうなんですか」
「それにこの話は、鋼太郎も承諾済みだよ」
「ええ!?」
慌てて社長の顔を見るが、社長は一切目を合わせようとしない。
――こ、こいつ……。
社長に売られたことを理解した悠真は、がっくりと肩を落とした。