From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (67)
第67話 身体強化能力
週明けの月曜――
東京大田区にあるアイシャの研究所に、悠真たちの姿があった。研究所の一階は元々町工場だったため、かなりのスペースが確保されている。
屋内は裸電球が数個ぶら下がっているだけなので、総じて薄暗い。
部屋の至る所には、いくつもの機器が置かれていた。悠真はキョロキョロと見回しながら、社長と共に奥にいるアイシャの元へと向かう。
「あの……これってなんですか?」
パソコンをいじっていたアイシャはピタリと動きを止め、悠真の方へと振り返る。
「体力測定用の機器だよ。まずは君の身体能力を測らないと」
「は、はあ……」
アイシャは測定機器を手際よく調整し、準備を進めていく。
「社長、これ本当に俺がやるんですか? 社長でもいい気がしますけど」
「まあ……俺は体力も体格も平均的じゃねーからな。お前の方がデータが取りやすいんだろうよ。それに身体能力が上がるんなら悪くねーだろ。もっと強くなれば魔物をたくさん狩れるぜ!」
社長はあっけらかんと言うが、いまだに納得できない。
「さあ、悠真くん。準備ができたよ。測っていこうか!」
楽しそうに言うアイシャを見て、悠真はもう諦めるしかないと悟った。
◇◇◇
「はい、力を入れて~」
「ふんっ!」
悠真は握力計を握り込む。ギリギリと歯を食いしばり、力を出し切った。
「はいOK、もういいよ」
今握っているのは、かなり精密に測ることができるデジタル握力計だ。
これ以外にも、垂直跳び用の測定機器やデジタル背筋力計を使って悠真の体力を数値化してゆく。
他にも反復横跳び、外に出ての20mシャトルランなども行った。
「取りあえず、筋力関係はこれぐらいにしておこうか」
アイシャに休んでいいと言われたので、悠真は椅子に座って息をつく。
社長が「お疲れ」とタオルを渡してきてくれたので、「ありがとうございます」と言って受け取り、顔や首を拭いた。
疲れたなぁと思っていると、アイシャが笑顔でやって来る。
「悠真くん、休んでいる間にこれを食べようか」
丸い玉が大量に入ったケースを、悠真の前に差し出してきた。
「これって……」
「ダンゴ虫から取れた『鉄』の魔鉱石だよ。鉄は筋力を増強する効果を持つからね。まずはこれからだ」
「は、はい」
ニコやかにペットボトルを渡してくるアイシャに悠真は苦笑いで答え、右手に鉄の玉、左手にペットボトルを持つ。
玉は全部で72個ある。はぁ~と溜息を吐きながら、悠真は玉を口に含んだ。
◇◇◇
「う~~~ん、なるほど、なるほど」
アイシャはニコニコしながらパソコンにデータを打ち込んでいく。鉄の玉を全て食べて休憩を充分とった後、もう一度同じ体力測定を行った。
確かに鉄の玉は胃の中で分解されているようで、お腹が膨れることはなかったが、水で流し込んでいるのでその分は腹に溜まってしまう。
だいぶ疲れたので今日は終わりかなと思っていると――
「じゃあ悠真くん。今度は『鉛』をいってみよう」
「えっ!? 鉛? まだやるんですか!」
「もちろんだよ。鉛も筋力増強系の魔鉱石だからね。まとめて調べた方が効率的だ」
「筋力増強系以外にもあるんですか?」
「もちろんあるよ。視力を上げたり、動きを俊敏にしたり、持久力を上げたりするものもあるからね。まあ、数日かけて全部やるつもりだけど」
悠真は遠い目になる。終わった頃には死んでいるかもしれない。
その日は54個の『鉛』を食べた後、再び体力測定を行い、やっと終了した。
次の日からもアイシャの容赦ない体力測定は続いた。
視力測定や、ビジョントレーニング機を使った動体視力測定、パソコンを用いた反射神経テストを行う。
昨日より体力を使わないからラッキーだと思っていた悠真だが、アイシャが持ってきた大量の『アルミニウム』の玉に顔が引きつる。
その日も100個ほどの魔鉱石を食べ、測定が終了した。
翌日はさらに地獄だった。持久力を調べるため、肺活量や長距離走のタイムを測る。午前中だけでクタクタになった。
「さあ、悠真くん。これを全部食べて」
アイシャが持ってきたのは200個近い『銅』と『クロム』の魔鉱石だ。
「午後には同じ距離走ってもらうから、それまでに食べちゃってね。フフフ」
もはや悪魔の笑みにしか見えなかった。
三日かけて全ての測定が終了。その日の夜、アイシャに呼ばれて悠真は社長と二人で研究所の二階にやって来た。
「やあ、お疲れ! 分析の結果が出たからね。君たちにも報告しておくよ」
黒いファイルを持って楽し気にはしゃぐアイシャを、悠真は魂が抜けたような顔で眺めていた。
「素晴らしい結果になったよ!」
「悠真の身体能力が、そんなに上がったのか?」
パイプ椅子に座った社長が興味深そうに聞く。
「ああ、もちろん! 想像以上の成果だよ」
悠真も期待して顔を上げる。あまり筋力が強くなった感じはしないが、身体能力が向上しているならありがたい。アイシャは黒いファイルを開いて読み上げる。
「悠真くん、喜んでいいよ! 筋力は1.2%、視力は0.4%、動体視力は0.7%、敏捷性は1.1%、そして持久力に至っては1.5%も向上していたからね!!」
高らかに叫ぶアイシャを前に、悠真は絶望した。
あんなに食って、それだけかと。