From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (75)
第75話 最高硬度の金属
「まずいぞ……この数」
社長がギリッと歯を噛みしめる。四方に十体以上のヴァーリンが行く手を塞いでいた。
「悠真、あのパワーはもう使えないのか?」
「……ダメです。使い切ったみたいです!」
出口までの道にもヴァーリンが立ちはだかる。このままでは全員殺されてしまう。
「悠真、お前はここを突っ切って出口に向かえ。俺はアイシャを連れて後を追う」
「分かりました!」
ヴァーリンたちが一斉に動き出す。悠真と社長も二手に別れて行動を起こした。
社長は岩陰に隠れているアイシャの手を引き、回り込んで出口に走る。悠真は目の前にいる二匹のヴァーリンの横を、ステップを踏んですり抜けた。
腕力こそ異常に強い魔物だが、素早さはそれほどでもない。
捕まりさえしなければ逃げられる。悠真はそう考えていたのだが――
「がっ!?」
なにかが頭にぶつかった。強い衝撃で思わずしゃがみ込む。
――なんだ!?
見れば地面に岩の破片が転がっていた。背後を振り返ると、ヴァーリンたちが岩を持ち上げ全力で投げている。
そこそこの知恵もあるってことか。すぐに立ち上がり逃げようとしたが、足を止めたのは致命的だった。
一匹のヴァーリンに足を掴まれ、もう一匹が肩と腕を掴んでくる。
もの凄い握力で振り払うことができない。
「く……っそ! 離しやがれ!!」
前から突進して来た一匹が、思い切り殴ってきた。衝撃で体が仰け反る。
手足を掴まれているため、一歩も動けない。背後から迫ってきた一匹には肩口を噛まれた。
鋼鉄の体はダメージを受けないが、もうすぐ能力が切れてしまう。
金属化が解ければ、体は引き裂かれ即死する。悠真は全身から血の気が引いていくのを感じた。
「悠真!!」
出口の近くまで行っていた社長が、六角棍を振り上げて戻ってくる。
この数では到底勝てない。それでも社長は怯むことなく向かってきた。六角棍は青く輝き、水魔法の力を宿す。
「今助けてやる! 待ってろ!!」
太い棍棒でヴァーリンを打ち据える。さしもの頑丈な魔物も、魔力の
籠
った打撃を受けると踏鞴を踏んで後ろに下がった。
辺りには水しぶきが飛んでいる。
「うおおおおおおおおお!!」
社長が渾身の力で六角棍を振り下ろす。だが、ヴァーリンにガシリッと掴まれ動かすことができない。
「くそっ!」
社長がヴァーリンの顔を殴りつける。だが鋼鉄の皮膚を持つ魔物はビクともしない。逆に社長の拳から血が噴き出した。
苦悶の表情を浮かべた社長の体を、ヴァーリンが腕を伸ばし掴もうとする。
――このままじゃ、社長まで死んでしまう! なにか、なにか助かる方法は……。
悠真は必死に考えた。自分が持つ能力を使えば現状を打破できるんじゃないか!?
そう思ったが、具体的にどうしていいか分からない。
唯一浮かんできたのは、あの
デ
カ
ス
ラ
イ
ム
だ。
滅茶苦茶強かったあの金属スライムの力が使えれば……。瞬間、悠真の脳内でデカスライムの姿が蘇る。
――そうだ、これなら。
全身をヴァーリンに掴まれた状態でできる攻撃。悠真の全身がうねうねと波打ち、液体金属が体の表面を這うように動く。
「喰らえ!!」
全身から何百本ものトゲが突き出す。ウニのような格好になり、その細長いトゲはヴァーリンの鋼鉄の体を易々と貫いた。
体を拘束していた魔物たちは、次々と
呻
き声を上げる。
血を噴き出しながら悠真から手を離し、一歩二歩と後ろに下がった。悠真はトゲを元に戻し、今度は自分の右手を短剣に変える。
以前より薄く鋭いイメージで、鋭利な刃物へと変化した。
「うわああああ!」
後ろに下がろうとするヴァーリンを悠真は追撃する。短剣となった手を伸ばして、魔物の胸元へ突き立てる。
「ガアアアア!」
悠真の体は、最強の硬度を誇る金属スライムの物。その金属で作られた‶剣″はあらゆる物を斬り裂く。
右手の短剣はヴァーリンの鋼鉄の胸板を貫き、心臓に突き刺さった。
悶え苦しむ魔物に、今度は左手を変化させる。黒い手甲のような形にし、その甲の部分から長剣を伸ばすイメージをする。
するとイメージ通り、左手の甲から長剣が突き出す。
悠真はその剣を振るい、ヴァーリンの喉元を掻っ切った。
血が噴き出し、後ろに倒れる黒い魔物。サラサラと砂になって消えていく。
力で勝てなくても倒す方法はあったんだ。ヴァーリンが消えた場所には‶魔鉱石″が落ちていた。
悠真はそれを拾い上げ、すぐに社長の元へと向かう。
社長に襲いかかっている二匹のヴァーリン。悠真は右手の短剣で一匹の脇腹を斬り裂く。さらにもう一匹には左手の五指を向ける。
五本の指は一気に伸び、長いトゲとなってヴァーリンの背中に突き刺さった。
唸るような鳴き声を上げ魔物が振り返る。指を元に戻した悠真は手甲から剣を伸ばし、その剣でヴァーリンの喉を斬り裂いた。
六角棍を掴んでいた手が離れた瞬間、社長は六角棍で二匹のヴァーリンを殴りつける。金属の破片を飛ばしながら魔物がよろめく。
「悠真!!」
社長の声で、後ろから走ってくる
何
か
に気づく。振り返って見れば、片腕になったあのヴァーリンだ。
悠真に飛びかかって襲いかかる。だが悠真は冷静だった。
右手を地面につけ、屈んで構える。ヴァーリンが覆いかぶさろうとした瞬間、全身から何百本ものトゲを突き出す。
ヴァーリンは為す術なく体を貫かれ、呻きながら動きを止めた。
トゲを引っ込めると、体をぐらりと揺らし倒れてくる。悠真は右手の短剣で魔物の胸を貫き、さらに左手の剣で喉を斬りつけた。
ヴァーリンは大量の血を流し、最後は砂となって消えていく。
「やった……」
足元に落ちた魔鉱石を拾い上げ、「逃げるぞ!」と言った社長と共に、出口へと駆け出した。