From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (78)
第78話 地獄の特訓開始
「よし、そういうことだ悠真。今日から一週間、みっちりと訓練していくからな覚悟しておけよ!」
「え、ええ……それはいいですけど、なにからやれば?」
「まずはダンジョンを出て、ホテルに帰るぞ」
「出るんですか? ダンジョンを」
社長はズンズンと出口に向かって歩いて行く。悠真がアイシャを見ると、フフッと微笑んでいた。
どうやら社長に全て任せる気のようだ。
悠真は社長の後を追いかけ、そのままダンジョンを出た。
◇◇◇
ホテルに戻った悠真は、紙になにかを書いている社長を見つける。
「おーし! できた」
「なんですか? それ」
「今後のトレーニングメニューだ。俺たちはアイシャから金をもらって依頼を受けてる立場だからな。やるだけやらねーと」
悠真は社長から紙を受け取り、内容を確認する。
①腕立て100回、腹筋100回、スクワット100回を一セットとし、一日三セット行う。
②朝と夕方、5キロずつのランニング。
③一日二時間は格闘技の訓練。
④毎日ダンジョンの二十階層から三十階層に入って魔物を倒し、魔鉱石を回収する。
「え~~~と……これ、全部やるんですか?」
悠真が不安気に聞くと、社長は当たり前のように答える。
「まあ、様子を見ながらトレーニングは追加していくから、最初はこんなもんかな。最終的にはもっとハードになるだろうけど」
それを聞いて悠真は青ざめる。
はたしてこの仕事が終わるまで、生きていられるだろうか?
すぐにトレーニング開始となる。筋トレを一通り終わらせ、肩で息をしていると、社長はどこからか格闘技用のミットを何種類か持ってきていた。
「じゃあ、ダンジョンに行くぞ。悠真!」
そう言って意気揚々とホテルを出た。活き活きしてる様に見えるのは気のせいだろうか?
ダンジョンの一層に着くと、さっそく社長の格闘技訓練が始まった。
「まずはボクシングのワン、ツーだ。このミット目掛けて打ってこい!」
社長はパンチングミットを両手に装着して構える。悠真は仕方なくボクサーっぽく殴ってみるが――
「なんだ、そのへっぴり腰は! もっと姿勢を正して力を込めろ!!」
社長にどやされながら、その日は二時間どころか四時間以上格闘技の練習に費やされた。へろへろになってホテルに帰ろうとすると、
「悠真、最後に五キロ走ってから帰るか。俺も走るから一緒に行こうぜ!」
本当に地獄だった。
翌日からも体に鞭打って訓練に励む。筋トレとランニングが終われば、社長とのマンツーマンの格闘訓練。
右足を振り上げ、真っ直ぐに踏み込む。同時に右拳を突き出した。
「そうだ、それが中国拳法の〝一拳動″だ。空手やボクシングの‶二拳動″との大きな違いだな」
「これが中国拳法の‶正拳突き″みたいなものなんですか?」
「そういうことだ。動作が小さい分、より速く相手に拳を叩き込める!」
その後も社長が持つミットに向かって、ローキックやミドルキックを打ち込んで練習する。午後からはダンジョンに入り、魔物を狩りまくった。
ピッケルが無いので効率が悪くなってしまったが、代わりに自分が『液体金属化』で作り出せる武器のバリエーションを増やすことにした。
「悠真、行ったぞ!!」
ダンジョンの二十二階層で、足の速い四足歩行の魔物と戦っていた。背中にはアルマジロ以上に硬い甲羅がついている。
『金属化』している悠真は向かってくる魔物を視界に捉え、左手をかかげる。
左手はうねうねと形を変え、さらに液体金属が巻き付いていった。それは大きな斧となって頭上で魔物を待ち構える。
飛び込んで来た魔物に、悠真は斧を振り下ろした。
一撃必殺―― 甲羅を纏った魔物を斬り裂いて即死させる。赤い血液が辺りに飛び散った。
「よし、充分通用するぞ!」
「悠真、その調子だ。他の魔物も倒していくぞ」
「はい!」
その後も社長と一緒に何十体の魔物を倒し、帰る時はランニングで出口まで行く。
10キロ以上を走ることになり、ホテルに着く頃にはクタクタになった。
翌日は筋トレ、社長による格闘技指導、そしてアイシャに呼び出されて金属化能力の分析を行うことになる。
「液体金属化の能力ってのは、どれくらい姿を変えられるんだい? 少し変化させてみてくれないか」
「分かりました」
悠真は服を体の中へ取り込み、体の表面をピッチリと滑らかな状態にした。
「おお! こんな細かいこともできるのか」
「まあ、イメージさえできれば格好は少しぐらい変えられますね」
「そうか、では戦うのに有利な‶鎧″みたいな体にできないかな」
「鎧……ですか?」
アイシャに言われ、悠真は西洋の
騎士
や日本の
侍
を思い浮かべる。手足に甲冑を纏い、胸にはゴツめのアーマー。頭には角のついた兜を形成する。
「おお! いいじゃないか、凄く強そうだよ!」
アイシャは手を叩いて喜び、社長も「確かに戦闘向きだ!」と太鼓判を押す。
悠真は気を良くして、さらに鎧の形を変えていく。殴った時の破壊力を上げるため拳頭の部分にはスパイクをつけ、頭の角はより鋭角に研ぎ澄ませた。これで頭突きをすれば相手は血まみれになるだろう。
肩にはスパイクの付いたアーマーを形成し、顔もマスクで覆われたため素顔が分からなくなる。まさに‶金属鎧形態″――
部屋にある鏡で自分の姿を確認すれば、全身に黒い鎧を着こんだ厳つい戦士。戦隊ものに出てきそうな格好だ。
もっとも戦隊側ではなく怪人側の方だが。
そして両手の甲には、いつでも出し入れ可能な剣を仕込む。この部分だけはアニメに出てくるヒーローが使いそうなカッコいい武器だ。
そんなことを考えながら、悠真は今日も『黒のダンジョン』へと入って行った。