From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (80)
第80話 体重増加
「さあ、休憩は終わりだ! もう一度測定しよう」
アイシャの指示で、悠真は筋力などの計測を全てやり直した。三十分もかからず測定は終わり、必要なデータは出たようだ。
「どうだった?」
社長が聞くと、アイシャは満足そうにニヤついていた。
「筋力で8%、敏捷性で6%、持久力で5%ほど上がっていたよ」
「なんだ。思ったより低いな。前に取ってきた銀の魔鉱石は10%近く上がってたんだろ?」
「いいや、これでいいんだよ鋼太郎。これで私の理論が証明されるかもしれない」
「なんだよ、理論て?」
社長が眉を寄せる。
「魔鉱石が身体を強化することは知られているが、どう強化されるのかは詳しく分かっていない。特に議論があるのが『乗算』か『加算』かということ」
「乗算と加算ですか?」
悠真が思わず聞き返す。アイシャは「ああ」と楽しそうに答えた。
「前にも言ったが、この身体強化能力は‶魔法″の一種だ。ダンジョンの中なら常時発動している。おっと、悠真くんは地上でも発動してるんだったね」
アイシャはクスリと笑って話を続ける。
「強化能力の計算方法の話だよ。パーセントで能力が上がるのか、プラスαで能力が上がるのか、長年研究者の間で議論になっていてね。まだ答えは出ていない」
「そうなんですか」
「でも悠真くん! 君のおかげで答えが出るかもしれないんだ!!」
「え、俺ですか?」
突然の話に悠真は困惑する。
「今回の測定で分かったのは、同じ魔鉱石は二度目に使った時の方が効果が低くなる可能性があるってことだ。なぜか分かるかい? 悠真くん」
「え? なぜって……」
悠真は頭を捻るが、当然答えなど出るはずもない。
「同じ種類の魔鉱石は加算されているってことだよ。つまり基礎体力100に対して10%能力が増加すれば、基礎体力は110になる。もう一度10%増えれば121になるが、これは乗数で計算した場合だ。もし最初の10%に、もう一度10%が加算されれば20%となり、基礎体力に掛ければ120になる。つまり、ここに121と120という違いが生まれる訳だよ。これが私の唱えている理論。魔鉱石の種類が同じであれば合算された状態で基礎体力に乗算されるが、種類の違う魔鉱石の場合はそれぞれで乗算されるという理論だ。どうだい、分かるかな?」
「…………いえ、まったく分かりません」
悠真は遠い目をして答え、社長に至っては窓の外に視線を移し、話すら聞いていない。
「まあ、要するに、君のおかげで私の理論が証明され、論文にして発表できるかもしれないってことだよ」
「はあ……それは良かった」
悠真はちんぷんかんぷんだったが、それ以上聞く気にはなれなかった。
「まあ、それはいいとして。悠真くん、実はずっと気になっていたことがあってね」
「なんでしょう?」
「ちょっと待ってて」
戸惑う悠真を
他所
に、アイシャは部屋の奥から体重計を持ってくる。悠真の足元に置くと、ニッコリと笑って立ち上がった。
「体重を測ってもらえるかな?」
「え、ええ、いいですけど」
悠真はアイシャに言われるまま、体重計に乗る。デジタル表記で数値が出た。
「61.2キロか……」
アイシャは大学ノートに体重を書き込む。
「次は‶金属鎧″の状態になってくれ」
「わ、分かりました」
アイシャがなにをやりたいのか分からないまま、悠真は『金属化』して、さらに『液体金属化』の能力を使い体に鋼鉄の鎧を纏っていく。
黒く厳つい怪人のような姿に、アイシャは「おお」と感嘆の声を漏らす。
「やっぱり近くで見ると迫力があるね。じゃあ、その姿のままもう一度体重を測ってくれるかな」
「はい……」
悠真は金属鎧の状態で体重計に乗る。
「うん、なるほど……83キロだね」
「え!?」
アイシャの言葉に、社長は耳を疑う。
「83キロって、増えてるってことか? 体重が」
「そういうことだ。金属鎧の姿になると悠真くんの体が一回りほど大きくなってるように見えたんでね。体重がどうなってるのか気になってたんだ」
「どういうことだよ。‶魔鉱石″の能力でそんなことができるのか?」
社長は悠真の体をマジマジと眺めながらアイシャに尋ねる。
「いいや、普通なら有り得ないさ。そう、普通ならね」
含みのある言い方をした後、アイシャは「なるほど、なるほど」と呟きながら何度も頷いていた。
「さて――」
アイシャは社長の方へ顔を向け、するどい視線を送る。
「今日で約束の一週間だ。鋼太郎、君の意見を聞かせてもらおうか。悠真くんは五十六階層に行って、二十個の魔鉱石を取って来れそうか?」
問われた社長は携帯灰皿で煙草を消し、吐き出した煙を窓の外へと逃がす。
「まあ、たかだか一週間程度で
探索者
としての戦闘能力が向上することなんて無い、そう思って断ろうとしてたんだが……」
「違ったんだな?」
アイシャはニヤリと微笑む。
「今の悠真の力なら、依頼をクリアすることはできるだろう。俺が保証する」
「決まりだ!」
アイシャは悠真の顔を見る。
「明日、五十六階層に行く! 二十個の
血塗られた
鉱石
を回収。余裕があればさらに下層を目指す。それでいいな?」
「はい、分かりました!」
「しゃーねーな、やるだけやってみるか!」
悠真と社長の答えに、アイシャは満足そうに頷いた。
そして翌日――
『黒のダンジョン』五十六階層に、悠真と社長とアイシャ、三人の姿があった。